見出し画像

運動会を再定義した話

この際、運動会も探究しちゃいます。組体操などでここ数年何かと話題になっている運動会。


自分が教員であるうちにやりきりたかった事の中の1つで、体育教師としてどうしてもやりたかった「運動会を再定義する」というミッションに挑みました。自分にとっては結構大きなミッションだったので書き留めておきます。


運動会は、歴史を紐解くと、海軍兵学寮のスポーツイベントが起源だそうです。初めやや遊戯色が強かった運動会は、戦争とともに軍事色が強くなっていきます。初代文部大臣の森有礼さんの時には、全国の学校に運動会の実施を義務付けられたと伝えられており、その時に導入されたのが「兵式体操」といって軍隊のような動きを取り入れて規律や秩序を守る人間を育てようとした体操でした。現在の「気を付け」「前へならえ」「全体前へ進め」はこの時の名残だそうです。

「気を付け、前にならえ、全体前に進め」をやりまくる時代に合わない運動会を、今年こそは根底から変えようと決意し、“子どもファースト“の新運動会、「スポーツデー」を企画しました。

画像1


〈問い〉
「運動会はなんのためにやる?誰のためにやる?」

まず、原点に戻る問いを立てました。「そもそも運動会ってなんのためにやるんだっけ?」「運動会って誰のためにやるんだっけ?」

「なんのため?」を考えながら、学習指導要領を見てみると、実は運動会実施はマストではないんですよね。特別活動の学校行事のひとつとして、「健康安全・体育的行事」という記述があって、この体育的行事のひとつの例として、運動会が入っている感じです。

参考:運動会はなんのため?だれのため?


ちなみに、健康安全・体育的行事の記述は以下のとおり。

"心身の健全な発達や健康の保持増進,事件や事故,災害等から身を守る安全な行動や規律ある集団行動の体得,運動に親しむ態度の育成,責任感や連帯感の涵養,体力の向上などに資するようにすること。"

「いや、でも、"規律ある集団行動の体得"にフリすぎじゃない!?」というのが個人的な感想です。

もう少し掘り下げて、「体育ってなんでやってるんだけ?」と考えて、平成29年告示の小学校学習指導要領体育科の目標を見るとこんな感じ。

"体育や保健の見方・考え方を働かせ,課題を見付け,その解決に向けた学習過程を通して,心と体を一体として捉え,生涯にわたって心身の健康を保持増進し豊かなスポーツライフを実現するための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。"

現場にいて感じることは、特に小学校は「運動するって楽しい」という経験をたくさん積ませてあげて、「生涯スポーツに親しむような素養」が身につくことが最も大切ではないかと思います。運動好きだったら、大人になってもおじいおばあになっても、勝手にやりますし。(できるようにさせてあげることも必要ですし、できるようになるからわかる楽しさがあるのも事実です。それもひっくるめて。)

「誰のため?」はいうまでもなく「子どもたちのため」ですよね。

>>>>>

そうして、とりあえず導き出したのが、

①子どものためにやる
②子どもたちが、「スポーツめっちゃ楽しい!一生やるぜ」となるためにやる」

ということです。

〈目指す姿〉
「子ども自身がスポーツを思いっきり楽しんで、運動をもっと好きになる1日にする。」

そしてこれが、運動会を再定義するために掲げたビジョンであります。


名称未設定のデザイン

ビジョンが決まった所で、現在の運動会の現状はどんな感じか分析し、課題を設定し、解決策を考えました。


まずは現状の洗い出し。こんな感じ。(あくまで本校の例です。)


〈現状〉

・保護者を喜ばせる色合い“強”で、パフォーマンス的
・みんな同じ種目に出て、学年で決まった距離を走る
・赤組と白組に分かれて点数を競う
・完成度を求めるあまり児童を統制、はみ出れば怒号が飛ぶ(泣)
・整列や移動の練習ばかり

子どものためのはずなのに、いつしか親に魅せることが上位目標になりがちです。運動能力はバラバラなのに、種目や走る距離は一緒であることや、移動や整列の練習にほとんどの時間を取られていることなど、さまざまな課題が見えてきます。整理するとこんな感じです。ここで書いてある子は、ビジョンと現状とのギャップの差分であるり、見えてきた解決すべき課題になります。

〈課題〉

・力を伸ばす<魅せて楽しませる、という構造になっている
・勝ち負けだけが価値になりがち
・運動の苦手は考慮されていない(選ぶ権利もない)
・運動嫌いになり保健室の利用数爆増(怪我ではなくメンタル)
・運動する日なのに、あまり運動の本質に触れない

あとはその解決策を考えるだけ!目指す姿に近づけるための、必要な要素を5つに絞りました。

〈解決策〉

①公認の陸上競技場を使用すること(ホンモノに触れる)
②走る距離(種目のエントリー)を自分の意志で選択すること(個に合わせて自己決定)
③ひとりひとり記録を測って、記録証として残すこと(自分の力を良く知り次の目標にする)
④児童が種目を企画運営すること(主体性、スポーツを「支える」立場の関わり)
⑤移動や整列の準備を最小限に、種目自体に取り組む時間を多く確保したこと(運動に取り組む時間を尊重する)

もう少し掘り下げていうとこんな感じです。

✔︎公認の陸上競技場を貸し切りました。(これは私立だからできたことかもしれません。)

✔︎移動や整列の練習は、ほぼいっさいやめました。

✔︎入場は更新ではなく、スタンドに手を振りながらのオリンピック方式に。

✔︎走る種目は50m走・100m走・400m走・800m走の4つから、自分の得意不得意をもとに、自らの意思でエントリーできるようにしました。(もちろんチャレンジ大歓迎)

✔︎会の進行を児童に任せました。

✔︎先生が全て決めるのではなく、6年生中心に種目の企画運営をやってもらいました。

✔︎全ての走る種目のタイムを測定し、ひとりひとりに「記録証」として持ち帰ってもらいました。

2021|スポーツデー記録証

また、この取り組みをサポートしていただくため、初めて保護者の方のスタッフを募集しました。有志だったにもかかわらず、なんと50名を超える保護者の方が「やりますよ!」とお手伝いしてくださいました。(ここが素敵!)

児童のタイム測定をはじめとして、写真撮影、警備、児童の招集など、本当に献身的に支えていただきました。これ無しにはできませんでした。感謝です。


>>>>>

当日の様子は書ききれないので、ざっくりそれぞれの様子をまとめるとこんな感じでした。

〈結果〉

子どもたち
・「めっちゃ楽しかった!」
・行事前特有の保健室の利用者数が激減。
・自分で起きて朝走るトレーニングをする子も出てくるほど。

保護者(アンケートより)
・子どもにとっても保護者にとっても「よかった」との意見。
・高い満足度。(細かな点で課題も挙げられました)
・僅かながら「前の運動会が良い」との声も。
(こういった声は大切にしなくてはならないと思います。)


教員(反省アンケートより)
・なんでもいいからもっと早く計画出さんかい。
(もちろんそれだけではないですが!笑)

こんな感じで、振り返ってみれば運動会を「探究」していました。

①問いを立て
②目指したい方向やありたい姿を決め
③現状を把握し
④逆算して課題を洗い出し
⑤解決策を考えて実行する

まさに探究のプロセス!

課題もありますが、思考停止的に前例踏襲を続けるこれまでの運動会に、一石を投じることはできたのかと思います。

来年はどうなるのだろうか!