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あなたのカヌー燃えるみずうみ


好きだった世界をみんな連れてゆくあなたのカヌー燃えるみずうみ

好きな歌人のひとり東直子さん、とても不思議な歌だ。

好きな世界をすべて乗せて遠く湖の向こうに去って行く、ここでの「あなた」は無人のカヌーそのものなのかもしれない。あるいは悲しい別離や死別を湖岸に立ったまま、カヌーのうしろ姿がつくる曳き波を名残惜しく見届けていたのだろうか。

しかし、燃えるみずうみとは不思議な表現だ。つめたい湖が燃えるものかどうか。でもカヌーが立てる静かな航走波は、夜に咲く漁火のごとく小さな火柱を灯していったのかもしれない。とすれば、夕闇や夜の湖が背景にスーッと浮かびあがる。

歌にはこんな愚にもつかぬ意味の詮索は僭越無用かもしれないが、何度も読むにつけ、夜の湖に消えていくあなた(カヌー)とその残り火がみえてくるようでならない。

好きだった世界をみんな連れてゆくあなたのカヌー燃えるみずうみ

とても不思議な歌、とても好きな歌。



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