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好きなものは


好きなものは玻璃薔薇雨駅指春雷

戦前から戦後の混迷を生きた俳人、鈴木しづ子の一句。ここに詠む好きなものは、どこか危うげで近づきがたいものに見える。いや、好きゆえに決して触れてはならぬと、大人の一女性の鋭い感性が見えてきそうである。

たんに「好き」とか「かわいい」とかで、近づいては所有しようとする幼さはまるでない。破調ともいえる一見バラバラな好きなものの列挙は、一息に吐くような勢いに乗ってすんなりまとまっている。「じゃあ、あなたの好きなものは?」と聞かれているような気がするも、私は思わず口ごもってしまう。

奔放意のままにこの時代を駆けるように生きたというこの俳人が、突然その消息を絶ってから今年で72年になるという。

好きなものは玻璃薔薇雨駅指春雷



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