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食の映画のエッセイ|武士の献立

 4連休とはいえ、東京の人は不要不急の外出は控えてね、とまた言われてしまい、家で過ごすことになりそう。
 我が家のテレビのチャンネル権(というのも古い言葉と思うけれど)は夫にあり、まあ、私はそれほどテレビに執着がないというのが本当のところなので、大抵は夫が選んだ番組を一緒に見ている、という具合。

 実家では父が完全にテレビを支配していて、父がいる時はニュースかプロ野球かプロレス。それがなければアマチュアスポーツ。そのせいで、ええんか悪いんか、当時の有名選手やレスラーはほぼ分かる。父は「作り事は嫌いや」と言い放ち、ドラマなどは一切見なかった。世のおじさんたちが大好きな大河ドラマも。だから私も昔の名作のドラマなどは、大人になってから再放送で観た、というものがほとんど。
 対して夫は物語好き。 理系のくせに、本棚には古今東西の小説がずらりと並んでいるし、歴史小説などは文学部卒の私よりずっと詳しい。ドラマも好きで、大河も朝ドラも熱心に見る。ゴールデンタイムの若者向けのドラマは興味がないようだけれど、今再放送してる「刑事コロンボ」などは視聴予約までしている有様だ。
 
 そんな夫と昨日「武士の献立」を観た。テレビで放送していたのだ。実はこの映画、私はすでに観ていた。
 4、5年前のこと。とある映像配信サービスのWEBサイトで、好きな映画とそのおすすめポイントを短い文章にまとめていた。私以外にも何名かの方がおり、それぞれのお気に入り作品を紹介するというもので、月に1回程度、映画を観て書けばよかった。
 料理の仕事をしているから、食をテーマにした映画にしよう、と思い、選んだうちの一つが「武士の献立」だった。
 
 昨日、映画を観てふと思い出して調べてみたのだけれど、この映像配信サービスはすでに終了しており、今は検索しても私の書いたものはどこにも出てこない。
 ただ、私のパソコンの中には残っていた。そのままパソコンの中に閉じ込めておくつもりだったけれど、ちょっとnoteにあげてみようと思う。
 映画エッセイ、よかったらお付き合いください。

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武士の献立』(ぶしのこんだて)は、2013年12月14日に公開された日本映画。監督は朝原雄三。松竹・北國新聞共同製作。北國新聞創刊120周年作品。2010年に公開された『武士の家計簿』に続き、江戸時代の加賀藩に仕えた武士をユニークな切り口で描いた時代劇。実在の包丁侍、舟木伝内と安信親子とその家族を描いたヒューマンドラマ。(wikipediaより)

今の仕事、私に合ってる?他に天職があるかも?なんて悩むあなたにおすすめの映画

包丁侍って、ご存知ですか?
江戸時代、幕府や藩で料理を担当した料理方のお侍さんのこと。料理侍というのは、ちょっと揶揄した言い方のようですが……。
ワタクシ、料理を仕事としているものの、お恥ずかしながら知りませんでした。
江戸時代も、そういうお役目の方がいるのは小説で読んだことはあったものの、お味見をしたり、献立を考えたりする程度のお目付役で、実際に料理を作っているのは、女性だろうと思い込んでいたのです。

今回ご紹介する「武士の献立」では、この包丁侍が登場します。
袴姿の男性陣がお台所で里芋むいてたりするのですよ。フレンチレストランのキッチンでシェフがお料理しているのは当たり前だと思うのに、ちょんまげのお侍さんが料理をしているとなんだかそれだけで、ふふふ、と面白く感じちゃう。

主人公は、包丁侍である加賀藩のお侍さんとその奥方ハル。
もともと加賀藩の江戸屋敷につかえていたハルは、料理上手で知られているのですが、気の強さが災いして、離縁されてしまった出戻り。
でもその抜群の味覚と料理センスを認められて、料理方の舟木家にお嫁に行くことに。
それというのも、思いがけず家督を継ぐ事になった次男が料理下手で、なんとか指南してやってほしい、ということで。

まるで「仕事」のような結婚!
しかも旦那さまは年下で、先生と生徒のような関係ですらあり。
義母には「初鰹が珍重されるが、戻り鰹を喜ぶ人もいる」なんてことを言われ慰められるものの、肝心の旦那さまには古狸、なんて呼ばれる始末。
まあ、ハルを演じる上戸彩さんは、まったく古狸なんてイメージではなく、可憐でかわいらしいのですけれど。

包丁侍という仕事を軽んじる夫に「つまらないおつとめだと思っているから、つまらない料理しか作れないのでは」と言い放つハル。

この言葉、私にも深く刺さりました。
気持ちって必ず仕事に現れるんですよね。

親と同じ仕事をするのが当たり前だった時代、いや、今も家業を継がざるをえない方も多くいらっしゃることでしょう。
自分で選んだ仕事であっても、こんなはずじゃなかった、と思うことも。
この仕事、私に合ってないかも。他に天職があるんじゃないか、と迷う日もあるでしょう。
ああ、もういやだ!と放り出すことも出来ますが、その前に、いま一度、仕事と向き合って、真剣勝負をしてきたのか、と問い直すことも必要なのかも。
一生懸命やってみたら、新たな局面がひらけて次のステージに進めるかもしれません。

江戸時代の武士の生活なんて、ずーっと昔の事だし別世界、なんて思っていましたが、思い悩み迷いつつ奮闘する姿、夫婦の絆は、現代を生きる私たちとなんら変わらないんだなあ、と気づかされます。

また料理好きとして見逃せないのは、映画に登場するお料理の数々。
大切なご接待の饗応料理のために、食材を求めて、能登を訪ね歩く様子も見どころです。

刀をそろばんに持ち替えた(?)お侍さんの映画「武士の家計簿」も合わせて観ると、江戸時代をぐーんと身近に感じるかも!

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