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私は椎名林檎ちゃんが出始めた時から好きだった。あのハスキーな声が好きだ。初期の頃は、熱っぽい歌が多い。ちょっと頭イカれてる勢いで彼氏が好き、みたいな歌。

うちの祖母は箱根の芸者さんで、未婚で産んだ娘が私の母なのですが、その母が市議会議員の息子(大学生)である父との間に、これまた未婚の時に作ったのが私だ。

Juneみたいな耽美設定!!

の両親なんですけど(その後すぐ結婚して離婚しました)そんな生い立ちのせいで30年ぐらい母と生き別れてて、再会する時電話をもらったんだけど、声が椎名林檎ちゃんそっくりでびっくりした。母の声だから好きだったのか。ちなみに、私は祖母や母のような情動が全然なかった。まるで封じられたかのように。いたって普通に結婚して出産した。恋の話じたいが、若い頃は苦手だった。女の子は恋バナが好きでしょ?みたいなのに適応できなかった。

「最近サラッと漫画を描いてますね」

って先日担当さんとご飯食べた時に言われて、私はサラッと描くのも嫌いじゃないし、サラッと描くのを求められてる気がするんですよ、って言ったら、

いや、冬森さんにはねちっこいのを描いてもらいたいです。

と言われた。

私はねちっこいのを描くときは、下のほうからぞわわわわと触手を伸ばすように描く。あれが私の本音なんだけど、最近なんだか、本音を出すタイミングが見つからないんだ、みたいな話をしていた。

サラっと描いてるのも嫌いじゃないんだよ。社交の挨拶みたいなものだ。社交の挨拶だっていいじゃないか。そんな深い関係にならずとも。明るく笑顔で挨拶して何が悪いの、みたいな気持ちがずっとあった気がする。なんだか、条件が揃わないとねちっこく描けない。本音がでない。エロでないと描けないのかな?もしかして。確かにエロって寝室の話だし、寝屋の話だし、プライベートの話だ。かといって、エロ描いてれば絶対ねちっこい本音が出るかっていうとそんなこともない。サラッとエロを描いてることもあるんだ。本音なんか誰にも漏らさずとも生きていける大人になってきたのかもしらん。もういい中年だし。でも、全然出なくなるなんて、意外とデリケートな所だったのだな、あの辺。本音なんて、言おうと思えばいくらでも出るかと思っていた。

ねちっこさを読みたい、と言ってくれた担当さんは、私のねちっこさが見えるんだな、みたいに思った。大多数の人は、そういうのが見えないのかと思った。見えないから、こっちが言わなければわからないかと思った。世の中の人は、意外と見えているんだな。意外と、と言ったら失礼だが。なんだか、漫画の話じゃなくて、親密な人との人間関係の話をしているみたいだ。私は自分が思っていたよりも、重症に、人間不信だったのだろうか。それほどに、傷ついていたのだろうか。本音が言えないほどに。

本音は、すごいタイミングが合わないと言えない人になっている気がする。これからしばらく、本音を言う練習しようか。下のほうから、足元の深いところから、ぞわわわわわと触手を伸ばす練習。触手を伸ばして相手を触っている感じがするんだ。絡め取っている。

そして、全力で口説いている気がする。

そういう熱っぽさ。私自身は恋バナ苦手なのに、私の本音はいつも、若い時の椎名林檎みたいな恋の歌だ。これが母方の血か。

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