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小出稚子×牛島安希子×樅山智子が語る~その③

※本記事は、2018年8月28日都内で行われた「海外留学フェア (PPP Project)」の一貫として開催された「女性中堅作曲家サミット・グループB」の書き起こしです。パネリストとの合議による加筆修正が含まれます。(編集・わたなべゆきこ&森下周子)

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小出稚子×牛島安希子×樅山智子が語る~その②

ー(わたなべゆきこ)小出稚子さん、牛島安希子さん、樅山智子さん、三人のオランダ留学への経緯について簡単にお聞きしたところで、ここからは前半Aグループでも出てきた「女性・男性作曲家」に関して聞かせてもらえますか。このトピックで話したいテーマがあると事前に少しお伺いしたんですが・・・。

(樅山智子)先日たまたまどこか居酒屋で、それも山根明季子さんのコンサートの帰りに、みんなでご飯食べようってなったんですよね。

その時に「ずっと昔からアジアの女性作曲家たちのネットワークを作りたいって思っているんだけど、その必然性感じる?」、「このトピックでどんなリアリティ持ってる?」って小出さんと牛島さんに聞いてみたんです。そしたら結構話が盛り上がったんですよね。「コレクティブ作ってみようか?」ってところで、とりあえずお開きになったんですけど。

ー(わたなべ)そのアイディア面白そうですね。

(樅山)そしたら、ちょうどこの中堅女性作曲家サミットの話が来て。

ー(わたなべ)小出さんと牛島さんは、それぞれどの辺りを面白いと思われたんですか?

(小出稚子)質問の答えになるかは分からないんですけど、さっき(グループAで)森下さんが「マスキュリンな音楽」という表現をされてたじゃないですか。

ー(森下周子)前半のAグループ【渡辺愛さん、山根明季子さん、桑原ゆうさん】の時に出てきたキーワードですね。

(小出)今まで、そういうことは殆ど考えたことがなかったんですけど、男性的な音楽と権威主義がもし結びついているとしたらと仮定として、自分なりに考えてみたんです。そしたら「楽譜をどこまで信用しているか」ということが一つ思い浮かんで。本当に、個人的にふと思っただけなんですけど。

ー(森下)それは前にお話されていた、ガムランに出会って価値観の反転が起きた、ということと関係がありますか?

(小出)そうかもしれないです。まずコンクールって基本的には楽譜審査が多いじゃないですか。わたしも今まで様々な機会を頂いてきて、本当に感謝しているのですが、基本的には楽譜を書く能力が相当低いと思っているんです、自分では。もはや(楽譜を書くという点に於いて自分を)信用していないと言えるレベルで。というのは、楽譜を演奏家の方に渡して、弾いて頂いても自分が考えていたものと同じにはならないんです、もうそれは本当に。

ー(森下)私も前はよくありました。

(小出)楽譜に自分がやりたいことを、明確に、他人が理解できるように「書く」能力のなさも重々承知していますが、もっと根本的なことで、楽譜に書けない部分に音楽の面白さがある気がしていて。楽譜に書く段階でこぼれ落ちていきます、私の音楽の旨味成分は。だからリハーサルにかけられる時間や、プレイヤーとの音楽的相性が重要なんです。

それからもう一つ思うことがあって。そもそも作曲家には二通りあるというか、二種類の考え方があると思うんですね。

一つは例えば「オーケストラはこういうもの」という既存の機能を受け入れて、西洋スタイルの五線の楽譜をちゃんと書く。この場合、スタート地点は地表にあるんですよね。だから既存の枠組を拡張したり、自分なりにアレンジしたり、あとは技術力をつけてどんどん天へと伸びていく。既存の枠組みを勉強するための「教科書」もすでに沢山ありますしね。

二つ目は既存の機能を疑って根っこの部分から考える。オーケストラって何だろう、指揮者はなぜあそこに立つんだろう、楽譜って本当に必要なんだろうか。この場合、根っこの部分を考えなければならないから、途方もない時間がかかるし疲弊します。だからこういうタイプの作曲家がその考え方やアイディアとじっくり向き合って育て上げ、それを音楽として仕立て上げるのに必要な技術を磨き、作品として十分な完成度を得られるようになるまで、すごく大変。

ー(森下)よく分かりますよ〜。

(小出)でも私はその「根っこの部分」が一番面白いと思うんです。発想力や、その人にしかできない形で、何もないゼロからイチを生み出そうとする力や姿勢みたいなもの。

私もそこをやっていきたいし、そういうことを人と話し合えたり共有できたらって思っています。もちろん知識や技術はすごく大切だと思います。自分も学生のときに構築する方法や譜面を書く技術について沢山色々な先生から教えてもらって、上へ上へと成長すべく模索していた時期もありました。

しかしオランダに行ったら、日本と比べると国籍も考え方も年齢層もバラバラの人たちが、各々全く違うベクトルで自分の作品作りにずんずん邁進していて、行儀が良い優等生という感じではないけれど、パワフルで随分自由だった。とどめはインドネシア。価値観が違いすぎて、一周回って清々しささえ覚えました。

ー(森下)そうですよね、音楽というものの意味も、社会における役割も全く違うんですもんね。

(小出)ええ。私が今までいた世界で「良い」とされてきたことは、もしかしたら「その世界“だけ“」のルールなんじゃないか?と愕然としてしまって。

ー(森下)そういうものが、女性作曲家のコレクティブというアイディアに繋がった?

(小出)男性と女性というよりも、そういう「ゼロからイチを目指す」みたいなことを共有できる場所があったら面白いなあ、と。だから私の場合は、別段「女性限定」ということではないのかもしれないです。

(④につづきます。)

小出稚子×牛島安希子×樅山智子が語る~その④

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