あなたの作品

音ポスト②

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昨年秋から始めたオンナ作曲家の部屋 jwcm/女性作曲家会議がやっているオンラインサロン)。本企画「音ポスト」は、そんなオンラインサロンから派生したスピンオフ企画として、2020年1月末よりスタートした新しい個人プロジェクトです。詳細はこちらから(全12作品限定の公募、あと残り3枠です。作品が集まり次第フォームは閉じます)。

作品名:GRAVI-tration R

※作曲をされた方のペンネームもしくは本名は、冒頭では伏せさせてください。仮にここでは作曲者さんとさせて頂きます。

さっきょく塾では、時々こういう創作エクササイズをしています。

自分の音楽にある(存在する)ものを5つ、自分にはない(存在しない)もの5つ、を書きだしましょう。

ここに入る言葉は「もの」でも良いし、「抽象的な現象」や「要素」なんかでも良いと思います。例えば、自分の音楽に「ある」ほうには、人によっては「メロディー」だとか「楽器」「電子音」とか、「柔らかい」「激しい」などの形容詞でも良い。要は「自分の音楽」を想像して、思いつく事や物、描写ですね。

そして、自分の音楽に「ない」もの。実は、これが結構難しいんです。「ないもの」を考えるっていうのは、思いついても「あれ?これって本当にないの?あり得るんじゃないの?」とか、「ないと思ってたけど、よくよく考えるとある」とか、ずっと考えていくと「ない」ものを探すほうが難しい。

このエクササイズを大人数でやると面白くて、人によって「ある・ない」が全然違うんですね。そして、みんなの「ある・ない」どちらにもよく入ってくるのが、「エネルギー」という単語なんです。音楽の「エネルギー」。

欧州に来てから、非母国語で思考する中で、「何となく理解している概念」について考えるようになりました。「何となく」だと人に説明できないので、自然とそうなっていったんだと思います。ここで言う「音楽上のエネルギー」もその類の言葉。感覚的にはわかるけど、「エネルギー」って無形で説明が難しい上に、「音楽上の」なんて枕詞が付くとますます実体が見えなくなります。エネルギーって一体なんだろう。

ただ、実体は見えないけれども、みんなが感じていることでもあるんですよね。ライブ会場でみんなで高揚している時に感じる「エネルギー」は見えないけれども、その場にいる多くの人が確実に感じている「力」であると思います。

この作品では、説明部分にこう書かれています。

タイトルの「GRAVI-tration」は「Gravitation(引力と重力)」と「Vibration(振動)」を組み合わせた造語

考えてみると、このタイトルの元の意味、「引力と重力」そして「振動」も、エネルギーに関連する言葉なんですよね。実は楽譜を見て、もしかすると作曲者さんは、この見えない「音楽上のエネルギー」に興味があるんじゃないかって、まず感じたんです。

「物体がお互いにひき合うこと」、それが引力。そして「地球の引力(中心に向かって引っ張る力)」に、地球は自転しているので外に引っ張られる「遠心力」が加わったものが重力です。地球上に生きるものとして、私たちは無自覚にも、この重力の存在を考慮して生活しているわけなんです。物と物は常に引き合う重力関係のもと、そこに静止している(ように見える)。この動画の表現を借りると、「私たちは重力の刑務所に入っている」ということなんです。宇宙にいる限りは、この見えない(けれど存在している)エネルギーとは切っても切れない縁があるんですね。

さて、音楽の話に戻って。

ここに書かれている音たちは、今私が見ている、テーブル上のコップのような状態なんじゃないかと。見えないけれど重力状態に支えられて、お互い引っ張られ、引っ張り合う関係性のもと、そこに存在している。

この作品では、はっきりとした拍子(3/4とか4/4という表示が、この作品にはありません)がありません。その代わり、「この音が鳴ったら、次の音を出してね」という楽器間の関係性によって音楽が進んでいきます。エネルギーがシーソーのように、絶妙なバランスを取りながら進んでいきます。何もなかったところに、ポッとエネルギーが生まれる、というよりは、最初から常に引き合った状態で始まってそれが緩むことなく、音というエネルギーあっちに行ったり、こっちに行ったり、移動していく。

この作品を見ていてこんなことも、考えました。わたしたちの耳は、人それぞれです。そして同じ耳でも「聞く対象」や「意識」によって「聞き方」が変わってきます。私が何となく感じてきた「音楽のエネルギー」というのは、この耳の「集中力」とも関係しているのではないか、というのが持論です。「集中力」を更に言い換えると「意識」すること。ただ、ぼーっと誰かを待っている時のドキドキ感と、好きな人を待つドキドキ感は、全く違う「意識」「集中力」ですよね。この作品では、この「ドキドキ感」「期待感」がうまく利用されているんです。音楽家は、耳の達人です。彼らが持つ耳のポテンシャルを最大限まで引き出して、音楽上のある種「重力空間」「常に引き合うテンションマックス状態」をうまく作り出している。

画像1

最後に、この作品とは別に作曲者さんに一つ宿題を出そうと思います。

自分の音楽にある(存在する)ものを5つ、自分にはない(存在しない)もの5つ、を書きだしましょう。

冒頭で書いた創作エクササイズです。

次回作品を書く時は、ぜひ一度「自分の音楽にはない」で書いたキーワードをもとに作品を書いてみてください。作曲者さんの新たな一面、是非見たいと思います。

音ポスト②は、HueyChing CHONGさんの「GRAVI-tration R 」でした。HueyChing CHONGさん、ありがとうございました。次回、音ポスト③は4月に更新します。「同時代音楽のための月間マガジン」登録も、ぜひお願いします。

最後に少し宣伝。第二期後期さっきょく塾、塾生募集中です。お申込、心からお待ちしています。

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