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ダイアローグ:Arts and Women【音楽家と社会】②

かつて影なる場所で息を潜めていた⼥性アーティスト。それは果たして本当に過去のものなのか?⼥性アーティストと社会をテーマに始まったシリーズプロジェクト「ダイアローグ:Arts &Women」。初回はjwcm共同代表の渡辺裕紀⼦(作曲家)をホストに、EGSA JAPAN(芸術におけるジェンダー/セクシュアリティ教育を考える会)のメンバーであり、舞台芸術関連アーティストの分析をライフワークとする社会学者・⾼橋かおりを迎え、⾳楽家と社会について論じます。こちらは2020年12月20日に行われた上記イベントの書き起こし記事第二弾。第一弾はこちらからどうぞ。(編集:わたなべゆきこ)

ダイアローグ:Arts and Women 【音楽家と社会】①
ダイアローグ:Arts and Women【音楽家と社会】③

わたなべゆきこ、以下わたなべ:それでは、ここからは女性作曲家会議のメンバー(牛島安希子森下周子山根明季子渡辺愛)を加えてお話をしていきたいと思います。高橋さんのお話を聞いてどう感じたか、まずは牛島さんからお願いします。

牛島安希子、以下牛島:わたしは今現在講師として大学で教鞭をとりつつも(生活をしていくのが容易ではない現代音楽の)創作活動に一番時間を割いているんですけれども、うちの親の場合、例えば「『産後でも戻ってこられるから』っていう算段で音楽を始めさせたのに、なんでこんなことになったんだ」って感じていると思うんです。

まずは高橋さんがおっしゃるように、現代音楽作曲家として生きていくことを周りに理解してもらえるようにしなければいけない。この日本社会の中で、自分たちの活動の価値づけをしていかなければならないと改めて感じました。

わたなべ:そうですよね。それをどう形にしていくのか、jwcmとしてやるべきことがまだまだ多くあるように感じます。

次に山根明季子さんにお聞きします。前半の「皆さんあまり問題を感じていないように見える」との高橋さんのコメント、山根さんはどう思われましたか。

山根明季子、以下山根:高橋さんが「困ってないんじゃないか」「折り合いつけてるんじゃないか」っておっしゃっていたのを聞いて、「わたしたちは今何を問題と感じて話しているんだろう」って感じつつも、でも「音楽で食う」「音楽で生きる」って言ったときに、モヤっと来るものがあるのは確かなんです。だからモヤっとしつつ、折り合いをつけてるんだと思います。

あと「お金」でも「知名度」や「名誉」じゃないとしたら何に基準を置いているのか、そこをもうちょっとプレゼンできたら本人たちのモヤモヤも減るし、魅力的に社会と関われるんじゃないかと思いました。

わたなべ:どうやって自分たちがやっていることを魅力的に見せられるのか、一つの課題でもありますよね。「仕事がきつい割にお金が安い」とかマイナス点を訴えるだけじゃなくて、魅力に感じている部分もうまく伝えられれば良いです。それでは森下さん、お願いします。

森下周子、以下森下:わたしたちは所謂現代音楽の作曲家だけど、音大まで行ってその先にどうなるか、社会とどう関わるかって見通しが立てられなかったし、そういうところに繋がる教育って大学時代にはなかったと思うんです。日本ってみんなピアノ習っているし、音楽に触れる機会もあるし、音楽教育ビジネスは盛んです、はじめの部分はピラミッド型で間口が広い。でもどんどん先細りになっていって、その先はどうなるのかわからない。

高橋さんが言うように「既存の尺度ではない価値観で」っていうにしても、生きていくための最低限のものってあるじゃないですか。もし、わたしたちがやっている音楽が「家賃を自分で払わなくても生きていける」ような、ある種とても恵まれた環境にいる人しか出来ないものだとしたら、それって何なんだろうって思うんです。それって趣味ではないんだけど仕事とも言えないし、実際稼いで子供を大学に入れなきゃいけないっていう人が作曲家っていう職業を敢えて選ぶかっていうと「選べない」わけです。その辺りの兼ね合いっていうのを、やっぱり探してるんじゃないかと思うんですよね。

わたなべ:間口は広いけれども、その先がない。結局経済的もしくは環境的な問題で辞めざるを得ないわけですよね。わたしもそのギャップを感じます。

あとみんなで話している時に、森下さんから「『作曲の新作委嘱で40万もらう(注1)』って大きな金額だけど、会社員だったら1ヶ月分の給料だったりするよね」っていう話もありましたよね。

森下:月収として頂けるお金ではありますよね。

わたなべ:もらえるお金としては同じなんだけれども、意味が全然違う。成果物に対する40万は同じだけれども、一か月働いて頂ける定収入としての40万とアーティストとしてもらう40万って尺度が全然違っちゃってる。前者は普通のお給料であって、後者はこのジャンルでもらえる額としては大きなものです。当たり前のように当然頂ける額ではない。

森下:お給料を頂くお仕事だと出来高制のところもあるにせよ、基本的には拘束時間に対して支払われるじゃないですか。今月は残業を◯時間したので、基本給に超過勤務代を◯円追加しますよって、つまり「質」ではなく「量」。会社員にとっては準備したり考えたり、仕事に関わる全てが「仕事の時間」としてお金が払われるのが当たり前で、その上社会保険や保証もある。でもクリエイションはそうじゃない。生活のほぼすべてがそこに費やされるけれども、時間ではなく作品一つ一つに対してお金が支払われる。それに「委嘱」ってまだ見ぬ作品に対しての契約ですよね。編成や長さは指定されるとしても、何ができあがるか分からない段階で値段を交渉しなければいけないところも違いを感じます。

わたなべ:創作の世界で頂く報酬と社会の尺度で頂くお給料って、お金っていう意味では同じだけれども、頂く方としてはすごく気持ち的な段差があると思うんです。

高橋さん、今みなさんからフィードバックをもらましたけれども、何か感じられましたか?

高橋:はい、結構ありました。今日別のミーティングに参加してても思ったんですけれども、芸術とか音楽に関わっている方って自分たちの価値が伝わってないからお金が得られないんじゃないかって感じられていて、そう思わせている社会って良くないなと思ったんですね。「価値がある・ない」じゃなくて・・・なんかこれ、平田オリザさんが言ってたんですけれども、「みんなが劇場に来なくても、『劇場にお金を出すこと』に対する価値さえ認められれば良い」というようなことで、それっていうのは「みんなが演劇を好きじゃなくてもお金を出すことがオッケーな社会であれば良くって、それって好き嫌いとは関係がないよね」っていう話をしていて、それをちょっと思い出しました。

例えば研究者でも芸術とか文化政策とか、あとアートマネージメントに関わる人って、その「価値」を伝えようとしていると思うんですけれども、でもその先の「わからない人たち」に対しても「存在してて良いよ」って思わせる何かっていうのは、研究者がそこをやんなきゃなんだよなぁっていうのは、改めて思ったところです。

伝え方を実践の方々が工夫されるのは、とても良いこと......っていうのは変ですけれど、やっぱりそこで見えることはあると思うんですね。ただその先っていうのは制度設計とか研究者とか実務家がやるべきなんだよなぁというのは思いました。

あとお金の話は一周目で触れるかどうか迷いましたが、せっかく冒頭で紹介して頂いたので「音楽で生きる方法」という本の裏話をひとつしたいと思います。私が書いた八章で音楽家の方に話を聞いているんですが、「なんで音楽だけに拘らないのか。なんか意地悪な質問するんですが」って書いていて、これ自分で後で振り返って「なんでこんなこと言っちゃったんだろう」って思ったんですね。

未読の方に説明すると、八章は「音楽家だけど、音楽の演奏以外の仕事もしながら生きていく」人の話を取り上げている章で、例えば「教える」とか「アウトリーチをする」とかいう事に対して「それって良いんですか」みたいな聞き方をしてしまったんです。当時(2017年)私自身も、音楽って演奏(や創作)だけで生きていくのがみんなが目指しているところで、それ以外のことってあんまり聞いちゃいけないのかなって思ってたんですけれども、でもそこに対してポジティブになれる人って実は生き残っていけるというか。音楽と関わっていくときに、例えば(jwcmのみなさんは作曲がメインだと思うんですけれども)、「教える仕事」とか「自分のメインじゃない楽器や分野を教えたり演奏したり」とか、そういうのも含めて音楽家としてやっていくみたいな話で、それを良く捉えることで何か変わっていけるんじゃないか。自分の核となる表現方法を持ちつつも、それ以外に関連する別のものも持っていると強いのかなって、それはこの本を書く時に著者間でも話したことなんです。

わたなべ:jwcmのメンバーでも、専門外のことしながら生計を立てている人が殆どですよね。作曲だけで食べている人っていうのが現実いない。教えていたりとか他の仕事をしていたり、バイトをしていたりっていう。でも、それをあんまり公にはしていないと思います。「プロの作曲家なのにコンビニでバイトしてます」っていうのは、なんか言いにくかったりはしますね。

(注1)ドイツの新作委嘱事情についてはこちらをご覧ください。「それで、お仕事は何されてるんですか?」過去記事より

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