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翼をくださいに思うこと

子どもたちが『翼をください』を歌っている。しかも気持ち良さそうに。それが耳障りで仕方がない。あからさまに歌わないでとは言えないのだが、大嫌いな歌なのでトイレに逃げ込んだりして避けてしまう。

私が中学に入った時には、母の容態はだいぶ悪化していたが、まさか本当に死ぬとは思っていなかった。それが亡くなってしまい、衝撃的な現実に否応なしに向かい合わざるを得なくなった。

『翼をください』は、中学1年の時に学校の全体合唱で歌うものとして、校歌の次に覚えさせられる歌だった。母を亡くした直後の私にとってこの曲は、少女漫画の主人公さながらに目をキラキラさせ、ふわふわした夢を見ている現実逃避の歌としか思えなかった。こんなの全体合唱で歌うなんて本当に馬鹿らしい、世の中には逃げられない現実があるじゃないか、と一人憤っていた。

「いい歌だね〜」なんて言っている同級生が自分よりずっと幼く思えたし、歌わせられる度に悲しくなったりイライラしたりした。今思えば、それも思春期特有のこじらせだったのだろうけど、決局未だにキライだ。

歌にも、歌う人にも、歌わせた先生にも、なーんの罪もないし、この歌を好きな人のことを否定する気は毛頭ない。でも「万人が知っている、万人に愛されてきた歌」を嫌いな人もいるのだよ、と。子どもの歌声を我慢して聞きながら心の中で呟いている。

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