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ユーフォは意外とかっこいい

高校の時、吹奏楽部でユーフォニアム(略してユーフォ)という金管楽器を吹いていた。中低音域を担当する、割と大きくて重たい楽器だ。

中学校の時にも吹奏楽部で、その時はアルトサックスの担当だった。

アルトサックスはかっこいい。音は渋いし、見た目も良く知られているし、ソロを担当することもある。分かりやすく、かっこいい。

かたやユーフォはどうだ。吹奏楽経験者でないと知らないくらいマイナーな楽器だ。

だから、見栄っ張りの私は高校でもサックスをやる気満々だった。

なのに。

入部するとなぜかそのマイナーな楽器に振り分けられてしまった。なんたる屈辱。

ユーフォなんてやりたくない!伴奏ばっかりで地味すぎる!見た目もかっこ良くないし、重いのもイヤ!

大っ嫌い!!!

退部はしなかったが、内心ユーフォに触りたくないほど嫌いで、やる気ゼロだった。転機は入部して1ヶ月ほど経った頃。トロンボーンが1人退部してしまった。

トロンボーンが足りない、さてどうしたものか。と思った先輩たちは、ユーフォに目をつけた。なぜならトロンボーンとユーフォはマウスピースが同じ大きさだから。

かくして、お前なら音出せるだろう、お前やれ、ということになった。

トロンボーンは比較的メジャーな楽器だ。管をスライドさせて長さを変えることで音が変わるという、なんとも原始的な楽器。そこが面白い。管楽器の中では、動きが分かりやすくて見栄えがする。

うん。トロンボーンなら悪くない。

ところが、トロンボーンを率いる3年生は、部内イチ恐れられているT先輩。チクチク嫌味を言われるのは日常茶飯事。怒鳴られることもある。

朝一番に練習に来るT先輩より早く行き、みっちり基礎練。過酷なブレストレーニングで過呼吸になり、毎日クラクラする状態。

入部当初からトロンボーンのSくんと共に、厳しい指導に耐え、コンクール目指して必死に取り組んだ。陰で先輩への不満をぼやきながら。

数ヶ月後、コンクールが終わると私はユーフォに戻された。けれど、トロンボーンを吹いている間に、中低音の魅力というのがなんとなく分かるようになった。

実は、オーケストラで言えばチェロの音域。地味どころか、じっくり聞かせるおいしい役回りなのである。中でもユーフォは、安定感や包容力を感じさせる深い音色がエモーショナルだ。

高校時代にユーフォを吹いていなければ、中低音域の豊かさやそれを担うユーフォの魅力に、気づくことはなかっただろう。初めは嫌々だったものが、経験や興味の幅を広げ、自分の懐を深くしてくれる、ということがあるものだ。


余談だが、T先輩の元で結束を固めたSくんが、今の夫である。

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