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動く花

この物語は実話である。

コロナ渦以来、小さい鉢植えの花を2つだけ育てている。
ラペイロージア・シレノイデスとラペイロージア・アズレアという、2種の南アフリカ原産のアヤメ科の花。どちらも冬の時期に開花するタイプである。

どちらも育て方は非常に簡単で、通常、秋頃に水やりを始めることで、花の "スイッチ" を入れるところから始まる。しかし昨年はいつ秋が来たのかよくわからないような気候だったため、そのタイミングが遅れたのではないかと不安になった。そこで本来は水やりさえすればOKという、手のかからない初心者フレンドリーな花なのだが、今回は試しに肥料の定番「ハイポネックス」を極薄く希釈して与えることにした。
結果、前年より葉っぱはモリモリの腹筋のようにたくましくなり、シレノイデスのほうは合計34輪の花を咲かせてくれた。おまけにそのうち最後の4輪は、すべて咲き終わったと思ったあと、なぜか脇のほうからニョキニョキ茎を伸ばして咲いたのだった。これもハイポネックスの力だろうか。

アズレアのほうは、いつもシレノイデスと入れ違いで、一足遅れて成長し始める。こちらは、今年は暑くなるタイミングが早かったせいもあってか、成長自体は順調かと思いきや昨年よりは開花期間が短かったような気がする。やはり暑すぎるのは花にも堪えるのだろう。本来なら濃い紫色の花をつけるアズレアは、発色もあまりよくなく寂しい感じで終わっていった。

このあとはどちらも枯れていき、私は何もせず、今年の秋にまたお目覚めのスイッチを入れてやるという繰り返しになる。花にとっても私にとっても、非常にシンプルなサイクルで、いかにも "自然" だ。

ところで今年、シレノイデスが動いた。
ようやく2-3輪咲き始めたとき、テーブルの上に置いて何となくボーっと眺めていたところ、なんと、彼らが武者震いのようにブルルッと身を震わせていたのだ。

もちろん最初は目の錯覚か、疲れているか、酒を飲んでいるからか、などと自分を疑い、再度息を凝らしてジッと見つめる。するとまたブルルッ。それでもなお、これは今年になってから頻繁に起きていた小さな地震かもしれないという疑念も湧く。そしてまたしばらくするとブルルッ。ポット苗の横に置いたグラスの水に目をやったが、そちらは微動だにしていない。
三度目の正直というのであれば、これで間違いなく、シレノイデスが体を動かしていると明言できる。

観察していると、茎を伸ばすためにブルルッと震えるようでもあり、つぼみを開かせるために全身を使って振動を与えているようにも見えた。茎は1日で約1cmほど伸びている。*茎というか、見た目はカイワレ大根の軸のように柔らかいもの
いずれにせよ、私は今まさに、成長中の花の様子を目撃しているのだ。
かなりテンションが上がった。

実はこれまで、彼らは私の知らないうちに花を開いてしまい、いつ変化していっているのか不思議であった。そして順々に花が入れ替わり、いつの間にか満開になってしまうのが何となく残念にも思っていた。まるで子供の成長を見守れない親の気分とでも言おうか。それが今回思いもよらぬ機会に恵まれ、そのモヤモヤした気持ちもようやく晴れた。老化中の脳にも嬉しいアハ体験である。
ひょっとしてこれもハイポネックスの威力だろうか。ある意味ヒトにも活力を与えたか。
恐るべし化学肥料・・・

おそらく同じような体験は、チューリップとかバラとかだと難しそうに思う。できなくはないかもしれないが、シレノイデスの株が小さく、花と茎と全体のバランスが絶妙であることで叶ったのではないだろうか。

花自体、土の表面が乾いたら水をやればいいだけで管理も簡単であり、場所を取らず、何より可愛い花を咲かせるラペイロージア。ぜひ私のような園芸初心者や、サボテンを枯らすタイプの人にもオススメしたい。
ほかにも同じラペイロージアと名のつく品種もたくさんあるようだが、どれもサイズの割には力強い感じである。心も体も寒くなる時期に、とても小さいけれど鮮やかな色で元気を与えてくれるありがたい花たちである。
何より、私の言っていることが本当であるかを確認してほしいという気持ちもある。

信じるか信じないかはアナタ次第、そして経験した者だけがそれを知ることができる。



「ハイポネックス」で葉っぱモリモリ
2024.3 満開 シレノイデス
2024.4 なぜか遅咲き・・・
枯れた姿もいい



2024.4 シレノイデスと入れ違いにアズレアが開花
今年は全部で3株に増えていたが、どれも終わるのが早かった



注:初めはすでに花が咲きかけた株を購入するのがよい。枯れた後に種は取れるが、ほったらかしでも問題ない(1つ位は知らぬ間に目が出ていることもある)。





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