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日本海の佇まいと台湾アーティスト四枝筆 Four Pensがコラボ 『潮隙 Spindrift』

※ミュージックソムリエ協会HP記事より転載(筆者・インタビュアー同じ)

ここ数年の台湾ブーム。タピオカミルクティーに始まり、食に関しては台湾カステラやパイナップルケーキなど、さまざま台湾スイーツが手軽に食べられるようになりました。食に注目が集まりがちな台湾ですが、日本との音楽交流も頻繁に行われています。メジャー、インディーズ問わず、さまざまなアーティストがコラボレーションして作品を発表しています。

日本の音楽ユニットAD(Akinori Yamasaki x drowsiness)と、台湾のアーティスト四枝筆 Four Pensは、2021年6月25日に『潮隙 Spindrift』をリリース。ADは、ギタリストで作曲家の山崎昭典(Akinori Yamasaki)と、ギタリストでコンポーザーのdrowsinessこと葛西直樹の音楽ユニット。それぞれが国内外のアートシーンなどでも活動する音楽家です。台湾でも音楽経験がある両氏に、台湾の音楽のことや、『潮隙 Spindrift』に関して話を聞きました。

『潮隙 Spindrift』 AD (Akinori Yamasaki, drowsiness) feat.四枝筆 Four Pens

ADさん公式

音楽ユニットAD(Akinori Yamasaki x drowsiness)
左:drowsiness(葛西 直樹)/ 右:Akinori Yamasaki(山崎昭典)

FourPens公式

四枝筆 Four Pens

音楽ユニットADと台湾音楽との出逢い

―まずは、おふたりの活動について教えてください。山崎さんは、京丹後市にお住まいで、こちらで音楽活動をされているのですか?

山崎さん(以下、山崎):はい、そうですね。こちらの方で活動しています。

―葛西さんは、海外のブランドなどとのコラボレーションをされていますが、海外との仕事の方が多いですか?

葛西さん(以下、葛西):そうですね、引き合いを頂くことが海外の方が多くて、それで海外で活動しているというイメージを持って頂くことが多いのかなと思います。

―葛西さんは台湾との出会いは何だったのでしょうか?

葛西:私は、東京造形大学という美術大学出身なんですけれど、大学のカリキュラムの一環、いわゆるカンファレンスなどで、香港や台湾に長期滞在することがありまして。現地で活躍するみなさんと交流する機会があったんです。その流れで、香港や台湾の友人ができて、彼らが音楽情報を教えてくれていたこともあって。それで、常にアンテナを広げられたんです。そこで四枝筆 Four Pensの活動も知っていて、オファーを出しました。

―そうなんですね。山崎さんは、台湾でライブなどご経験はありますか?

山崎:ADではない別のユニットですが、2回ほど行ったことがあります。台湾縦断ツアーのような感じで、台湾の各都市のツアーをして、本当に楽しかったです。地元のミュージシャンとのコラボもして、楽しい時間でした。

―日本のお客さんの盛り上がり方と違いはありますか?

山崎:日本人的なお行儀の良い感じのお客さんも多いですね。あとは、その、本当に音楽を求めているというか、社会的な背景もあるかもですが、そういう雰囲気もありましたね。

―台湾のアーティストは、日本よりも社会的なメッセージや考えなども発言する人が多いなと思います。民主化への道のりなどの歴史的な背景なども関係があるかと思います。葛西さんは、台湾も香港も行かれていると思いますが、そういった特徴などを感じることはありますか?

葛西:そうですね、それぞれバックグラウンドが違うだけに、全然違うかなとも思っています。台湾に関してお話するなら、やはりロックバンドのFire EX.(滅火器)の活動が本当に分かりやすくて、良い例だなと思います。彼らは、ティーンエイジャーにとってのヒーローでもありながら、地元の人たちとのちゃんとした密接な繋がりも大事にするし、政治的な意見であったり、表に出ない歴史の出来事、空襲のことを歌にしたりと、本当にすごいなと思います。
一度、実は、Fire EX.(滅火器)のメンバーと下北沢で写真を撮らせてもらったことがあるんです。その時に、”あなたたちは、本当にすごい方たちだと思うので、これからも本当にいろんなことがあると思いますけど、頑張ってください”っていうことを、僕なりの言葉で日本語で伝えたら、ボーカルのSamさんが笑顔で、はにかんで下さいました。

「一九四五 1945(高雄大空襲桌遊主題曲 Theme of Raid on Takao )」Fire EX.(滅火器)

―いやぁ、すごい話です。おふたりとも、台湾とかなり接点がありますね。
今回の曲は、四枝筆 Four Pensとのコラボですが、彼らとコラボをしたいと思った理由は何でしょうか?

葛西:台湾のアーティストの中で、音がポップだけれど、少しクラシックのというか、そういった要素を感じられたところだったかなと思います。四枝筆 Four Pensが今のメンバー(3人体制)の前に、ストリングスのメンバーが入っていて今と編成人数が違う形でやっていたことがあったと思うのですが、あの編成の時から彼らのことは知っていました。それに、メンバーのサニーさんが奏でるピアニカの音が、すごい平和的で温かな音に感じたんです。そこにすごく惹かれました。

―山崎さんは、四枝筆 Four Pensを聴いた時の印象はいかがでしたか?

山崎:僕はクラシックギターを弾くんです。さっき言っていたような、“クラシックな雰囲気”というのは、四枝筆 Four Pensのいろんな曲でずっと流れていて。こういうアレンジというのが、なかなか日本では聴かない感じかなと思いました。

―音楽をやられている方のお話を聞くと、四枝筆 Four Pensの温かいだけではなくて、優美な感じだなと思う理由が分かって納得しました。

山崎:そうですね、優美ですよね。ちょっとポップ過ぎない、なんか品があると言うか。

四枝筆Four Pens「冰山 Iceberg」

『潮隙 Spindrift』の制作過程とは?

―制作に関しては、完全にオンラインで行う予定だったのでしょうか?

葛西:この話を打診したのは、2年前(2019年)の秋ごろに出てきたものなので、コロナ前なんです。最初は、四枝筆 Four Pensを東京に呼ぶことを考えていました。それに、ヨーロッパツアーや、アジアツアー、台湾での公演なども考えていたんですが、コロナで全ての予定がリスケジュールになってしまいました。予定が白紙になってしまった、という感じですね。
制作に関しても、実はZoom打ち合わせみたいなことはしていなくて、メールで細かい内容なども、やり取りをしていました。最初は、英語でやりとりをしていたんですが、メンバーのサニーさんは日本語が話せるので、彼女の語学力にも助けてもらいながら制作していきました。

―曲づくりもお互いの意見を交換しながら?

山崎:この曲は、もともとADで作った曲でして。ADの作品は、渋谷のRedBull Studio Tokyoで作ったんですが、‟最後に(僕の住む)京丹後でも録ろうか!”ということで、京丹後で収録したんです。曲作りは即興的にやっていたのですが、そこで出来たのが、この曲の原型なんです。出来上がった曲は、他と比べて多幸感がある作品になったので、もう少し手を加えて仕上げてみたいなとなって。 “京丹後のイメージ”と資料などに書いていますが、もしかしたら葛西さんの旅の思い出のような感じがあるかもしれないと思っています。

―そうすると曲はあって、そこに四枝筆 Four Pensが、詩を乗せて歌っているんですね。葛西さんから見た京丹後の海は、この曲のような穏やかなイメージだったのですか?

葛西:そうですね。浅瀬がとても澄んでいるような。海の先には朝鮮半島が見えて、そこに近くなればなるほど、海の色が青々しいんですよね。相模湾や東京湾で見るような海と違う深さと波の荒さとか。波は荒くもあるし、一方で穏やでもあるような、どちらも共存している海だなと思いました。

―山崎さんは、毎日その海を見ていますが、曲が出来上がってから、海の印象が変わったなどはありますか?

山崎:この曲、夏っぽいですよね(笑)丹後の海を良くご存じでっていう感じのクオリティで。丹後の海って四季折々で変化するんですよね。日本海の荒波だったり、夏は沖縄の海みたいな白い海岸に透き通った海なんです。でも日本海は、どこか澄んでいても凛とした感じがあるんです。その海の雰囲気と、穏やかだけど凛としているのを、四枝筆 Four Pensが体現してくれていて。なんだか、観光大使にでもなったような気分です(笑)

京丹後の海

京丹後の海(イメージ)

『潮隙 Spindrift』で描かれた歌詞の世界

―海の景色に関しては、四枝筆 Four Pensに伝えたのですか?それとも、音を聴いてもらって詞を書いたのですか?

葛西:京丹後の海というのは、四枝筆 Four Pensがネットなども使って、積極的に調べてくれました。知れる限りの情報を調べてくれる、本当に勉強熱心だなと思いました。

―ちなみに、詩で描かれた世界はどういうものでしょうか?

葛西:実は、私の妻(香港出身)が、『潮隙 Spindrift』が大好きで、毎日散歩しながら、歌っているんですね。‟一度昔の恋人と行った海に一人で訪れ、海で前の恋人を思い出す“と言うストーリーだと妻が教えてくれました。曲の雰囲気は、サラッとした初夏の風を感じるようなものだと思うんです。でも、詩はちょっと切ないというか、ビターな感じもあって。でも、またそれも夏なのかなって思います。

―その物語が京丹後の日本海側というのもドラマ性がありますね。湘南茅ケ崎みたいな感じだと、また違う感じになるかもしれませんね。

山崎:実際にね、この物語の主人公のような方も来ますよ(笑)実は、いま僕がいる場所の近くに、静神社というところがありまして。源義経でおなじみの静御前が、ここの地区の出身なんですよ。そこに、恋愛成就のお願いに全国から男性も女性も来るんですよ。ひっそりとした神社なんですけど。なんだか、いまこの話をしていたら、静神社のことを思い出してしまいました。

―これは、次回は神社をモチーフにした曲を四枝筆 Four Pensと作って、本当に観光大使になってもらったら良いのでは?(笑)

2人:そうですね(笑)
葛西:それに、まだ彼らは京丹後には来たことがないので、来てもらえたら嬉しいですね。

―本当に来てもらって、この場所でMVを撮影しても素敵ですね。

山崎:良いですね!
葛西:いま、この作品のリリックビデオは出ているのですが、彼らからもミュージックビデオを作らないか?という相談が出ているそうなので、その時は、こういうアイデアが出来たらいいなと思います。

『潮隙 Spindrift』 AD (Akinori Yamasaki, drowsiness) feat.四枝筆 Four Pens

―台湾のアーティストは、物語性があるロマンチックなMVを作りますね。短編映画を見ているような。この作品が映像になって多くの台湾の方が訪れるようになると素敵ですね。

2人:そうですねー。

―さて、いったん白紙になってしまった四枝筆 Four Pensとのライブなどの予定は立っていない状態ですか?

葛西:そうですね、まだそういった話は出ていないのですが、やろうとはしていましたよね、山崎さん?東京で単独とか。
山崎:そうそう、台湾に行ってしまうなんて話も、以前はあったり。
葛西:今回の私たちの音楽ユニットADのチームのスタッフにも、PCR検査をして、いっそのこと台湾に行ってしまえばいいじゃないか、なんて話も台湾でコロナが感染拡大する前には出ていたこともあったんです。

―お互いに早く行き来することが出来るようになることと、MVの完成を楽しみにしています。今日はありがとうございました。

2人:ありがとうございました。

後日 四枝筆 Four Pens からメッセージが来ました

小四(Candace):
最初ADから頂いたトラックはギターだけで、名前はSeagaullというファイルでした。繰り返して聞いてみると、確かに海とカモメのイメージがありました。イメージだけで想像して、少しメロディーを作ってから、歌詞を書く時にカモメのイメージを出した方がいいかなと考えました。
私はこの曲を聴いてる時に、この曲を中国語でどうな感じを通訳した方が良いかなと思いながらリリックを書きまして、カモメが空を飛んでいるだけではなく、海のイメージもありました。なのでメロディをできた後、メンバーのBIBOも海の音を曲の中に入れました。昔海に行った思い出の景色や、海辺で立って潮風を感じるイメージの画面など、はっきりと見えました。
一つ面白いことは、曲 1:50のところに、ギターの音は少しミスがあるじゃないかな?と思ったんです。その音を聞くと、その前に想像してたイメージの景色からずんずん伸ばされた感じに新しい世界を構築できたようです。まるで違う宇宙にいるようで、とても不思議な経験でした。そして私は、「遠方的聲音 又傳來了回應(彼方の声から、また返信が届いてくれた)」という歌詞を書きました。
後日確認できて、やはりそれはミスじゃなかったです。私にとってはとてもロマンチックな創作経験でした!!ADにFour Pensを紹介してくれた友たちに感謝します!そして、私たちを選んで頂いて一緒に曲を作る事に大変ありがたいです。
Four Pens メンバー全員から:
今回のコラボは楽しかった!作曲過程は全部でメールでやり取りをできました。そして、僕らはやってる部分なんですが、ADは全部オッケーだと思ってくれたので、あまり直す事はなかったです。たくさん信頼して頂き本当にありがとうございます!
やはり日本に行きたいです。落ち着いたらまた日本ツアーもやりたいし、
京丹後の海も行ってみたいです。できればそこでMVも撮れたら良いなと考えています。観光大使をやりたいです!!厳しい日々は続きますが、会える日は遠くないと思います。ぜひ、お会いしましょうね!
引き続き、宜しくお願いいたします。

プロフィール
山崎昭典Akinori Yamasaki

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京都府丹後半島在住のギタリスト、作曲家。
2001-2003年にかけてサウンドアーティスト・鈴木昭男氏のアシスタントとして活動。2005 年に英国音楽誌WIREのサポートのもと、ファースト・アルバム『RED FIELD』をリリース。(マスタリングは宇都宮泰氏。)クラシック・ギターの伝統的な手法と電子音響の先鋭性が見事に調和した本作は、WIRE誌のコンピレーションCD『WIRE tapper 13』に楽曲が収録され、UK実験音楽シーンを代表する批評家・音楽家のデヴィッド・トゥープ氏が賞賛するなど高い評価を得た。
ソロ名義でのライブのほか、2011年『異邦人』(京都舞台芸術協会プロデュース)や2015年『新・内山』(京都芸術センター主催)など様々な表現分野で活躍中。2014年に前作から約8年の歳月を経てセカンド・アルバム『海のエチュード』をリリース。(マスタリングは大城真氏。)現在3ndアルバムを制作中。関西を中心に日本各地のほか、これまでにロンドン、ソウル、香港、台湾縦断ツアーなど海外での演奏活動も行っている。
https://zakky51.exblog.jp/

drowsiness/葛西 直樹

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2014年 東京造形大学造形学部デザイン学科サステナブルプロジェクト専攻領域 卒業
ギタリスト、コンポーザー。2011年よりdrowsinessとして音楽活動を開始。現在までに3枚のアルバムをリリース。打ち込みやループステーションやパソコンを一切使用せずに、80年台のエフェクターやギターを用いてリズミカルかつポリリズムな唯一無二の音の世界観を展開する。また、国内外の展覧会や美術館、アートフェス、ギャラリーでのパフォーマンスや国内外の企業や映像作品への楽曲提供、コラボレーションも積極的に行う。http://info.drowsiness.jp/p/drowsiness-profile.html

四枝筆 Four Pens

FourPens公式

2011年結成の3人組インディーフォーク、ポップバンド。ボーカル、キーボード、ギタリストで構成。温かみのある歌詞と透明感のあるサウンドが多くのリスナーを惹きつける。日本でのライブ経験もあり、曾我部恵一、アン・サリー、君島大空など、さまざまなアーティストとのコラボレーションも行っている。
公式Facebook

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