日下考 クサカとは何か
日下
なぜ、クサカと言うのだろう。
古事記では序文で、姓の日下を玖沙訶と言うとわざわざ記す。
もう一つ、帯についても多羅斯とわざわざ明記する。
この二つの言葉に、重要な意味があるからだろう。
さて、日下である。
玖沙訶
玖
九の代用字
黒色の美しい石
沙
小さな砂
訶
しかる、うた
この三文字の意味を総合すると
意味するのは
「たたら」
黒色の美しい石は、玉鋼
玉鋼とは、砂鉄を用いて生産される鋼のこと。
日本刀の作刀に必要不可欠な素材であり、「たたら製鉄」における精錬法「銑押し法」(くずおしほう)によって作られている鉄素材。
たたら作業時に、歌を歌い、呼吸を合わせていたのだろう。
さて、玖沙訶ークサカーが「たたら」を指すとして
日下とは何か。
日は、昼だけでなく光の意味をもつ。
漢字を調べていて、一番の誤解が
日にあると感じている。
日は太陽だけを指す訳ではない。
光そのものを指す。
つまり、月や星の光もまた、日である。
私達の時間感覚は、1日を24時間という単位で捉えている。
古代の人々にとっても、同じだったか?
太陽が全ての基準なのか。
確かに毎日空を照らす存在を無視はできない。
ただ認識として太陽だけが重要だったかが問題になる。
夜の世界で生きる人々にとって、重要なのは月や星。
そして、天文学が誕生していく。
月は約28日周期である。
星の場所は季節により変化する。
もちろん太陽の位置も毎日変化している。
暦を支配する王にとって、切っても切り離せないのが、製鉄だった。
鉄はもともと武器としてではなく祭祀道具に用いられたもの。
原始では、鉄は葦や茅に付着する褐鉄鉱をさす。
そこから製鉄利用が始まる。
暦を司る王の儀礼に鉄が絡むのは、方位と無関係ではないだろう。
方角を示す磁石は、鉄からできる。
砂鉄から磁石をつくる技術が古代からあったとの記録はない。
ただ、可能性は否定できないだろう。
建御雷之男神は、雷によって作られた天然磁石(赤磁鉄鉱)を指すとの見解を前回のべた。
国譲りで建御名方神と相撲し、打ち勝つ。
島根出雲にいた建御名方は、科野の洲羽海に行き留まる。
建御名方神は、砂鉄製の磁石。
どちらの磁石が強いかの話で、もちろん天然磁石の方が強い磁性をもつ。
島根県出雲市
「たたら」といえば、全ての人が連想するだろう。
だが、こちらは影の存在である。
昼と夜、二つの顔をもつ天照大御神は鏡に映しとられ、太陽神アマテラスとして生まれ変わる。
岩戸の向こうに残された月や星の世界のアマテラス。
夜を照らしていたアマテラス。
大国主の沼河比売への求婚。
沼河比売は、姫川のことであり、求婚物語では
大国主は八千矛という名になっている。
つまり、島根県出雲市で大量に出土される銅矛は、この新潟県姫川と結びつく。
夜の王たる安曇野大町に住む太陰暦(アマテラス)に仕えるのが、島根県出雲になる。
古事記に登場する出雲建。
倭建は、彼の刀をすり替え、殺す。
やつめさす 出雲建が はける刀
つづら多巻き さ身無しに あわれ
外見が立派でも中身がないよと言う歌
出雲のすり替え物語。
それが出雲建の物語。
中身の王の出雲は、長野県大町。
そこで祭祀を司っていた。
光あれば影あり。
光と影は表裏一体となり、国を治めていた。
日下は、表を支える一族となっていった。