古代海人の象形

漢字の能
白川静「字統」ではこう解説されている

象形
水中の昆虫の形
説文では「熊の属なり。足は鹿に似たり」
その他文献では「鼈(すっぽん)は三足の能なり」
「能は三足の鼈なり」「能は熊に似たり」など
三足の獣とされる。

能の金文の字形はヤドカリの形に似ている。
能の古音は態、而と同じである。
字形、声義ともにその本源を容易に明らかにしがたい字であると解説される。

さて、この能の漢字が意味するのは、海人であろう。

ヤドカリに似たりとは、海で家を担いでいる姿。
つまり舟に居住し、移動する人々。
能の漢字には月が入っているが、金文の象形をよく見ると、これは、タライのような舟だと思う。
舟の象形から月部と変化した漢字には朕があるが
偶然ではなく月と舟には深い関係があるようだ。

熊の属なり、足は鹿に似たりとあるのは
海人の文化との関連性が考えられる

熊は能に火を加えた形である。
海人は海で冷えた身体を温めるため、舟に囲炉裏を作る。

鹿の足は、海人が履いていた足袋の形ではないだろうか。
岩場での漁は皮膚を傷つけ、とりわけ足裏は一番危険があったため保護する必要があり、沓のようなものを身につけたのではなかろうか。
後世、三重県の海女さんらが白足袋を履いたのは保温目的であるようだが、足を保護する目的もあったと考えられる。

鼈は、川、池、沼に生息する甲羅を持った生き物。
つまり、川にも舟で水上生活する人々がおり、漁業に従事していたのだろう。鼈の噛み付く特性を考えると、川の住人は気性が荒かった可能性は高い。

ヤドカリやすっぽんは、水上生活する人々の比喩であろう。
三足は、海女が腰に布を巻いた姿で、腰から垂らした布を指すのではないか。
ちなみに腰から垂らす飾りを而という。
能の古音が而と同一であるのは偶然ではないだろう。

さて、海人には夫婦海女という漁法があり
地方によっては男女海女(ととかかあま)とも記されており夫婦で漁を行う。
この際、夫が命綱を担当し、妻が潜水を行う。
潜水する際に分銅と呼ばれる重しの付いた綱を潜り手が持ち、その落下により急速に潜る。
また反対に、上がる際にもこの綱をもち、夫が綱を引き上げる。
浮上を補助されれば自力で浮上する場合と比較し、短時間で多くの潜水回数をこなしたり、深い場所に潜ることができる。

古代から歌に詠まれる鳰鳥(にほどり)
カイツブリの事で、この鳥は潜水を得意とし、
雌雄が並び立つ。また水中に浮き巣を作る。
鳰鳥は息が長いため息長鳥ともいわれ
息長鳥の枕詞は雌雄相率いる事から「猪」
息つぎの音から「安房」となる。

古代の人々は自然を実によく観察していた。
雌雄率いる象徴は猪とカイツブリ
潜水が得意な象徴は海人とカイツブリ
カイツブリに焦点を絞ると、ピントは猪と海人の関係性に当たる。
一般的に安房は千葉を指すように考えられるが、他にも安房がある。

長野県岐阜県境の安房峠

元々は平安時代に乗鞍岳が愛宝山と呼ばれていた事からくるようだが、山奥に安房峠がある。
この意味は、海人と山人との間に深い関係性があった事を意味しないだろうか。

古代、製塩のため山の民は薪を川から流し、海辺の人々がその薪を燃やして製塩していたという。
山の民と海の民は共同型循環経済を構築していた。

古代海人の世界は、男女の番(つがい)が上下の区別なく平等に暮らしていた。
時代が変わり、海女であった女性は山奥で蚕を育て絹を織り、男性はその品物を売り歩く。
一緒にいた男女は、別々に行動するようになった。

山鳥

ヤマドリは雌雄が峰を隔てて寝るという伝承があり、古典文学では「ひとり寝」の例えとして用いられた。
またオスのヤマドリは尾羽が長い事から、「山鳥の尾」は古くは長いものを表す語として用いられており柿本人麻呂の代表作
「あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む」が取られている。

長いのは尾だけでなく、息にもかけられているのではないだろうか。また長く垂らした帯。

古事記の息長帯比売ー神功皇后の名である。
山で暮らす海神の娘。潜水が得意で息が長く帯を垂らしていた。海から湖畔に拠点を移し生活していた。

伊邪那美は火の神カグツチの出産により死んで出雲国と伯伎国との境の比婆山に埋められた。そして黄泉の国に
行く。
黄泉はヨミともヨモツともいう。
ヨモツは四方津と書き替えられる。
四方に港(津)がある場所。
また四方はシホウとも読める。
つまり塩津。塩の道。

日本全国で四方に港を持ち、塩の道となった場所は
長野県安曇野市。
伯伎はハハキと読まれるが、科野国(長野県)は箒木国(ハハキギ)ともいう。比婆山もある。
出雲国は島根県の事ではなく、出雲建の刀のすり替えの話が象徴するごとく、すり替えられている。
本当の出雲は雲湧き出る日本アルプスの連なる場所以外ない。

長野県安曇野市は、まさに海神の娘の生活する場所。
付近の頸城三山一帯は温泉地帯であり、硫黄の泉でもある

海神の娘は、浦島太郎の亀とされ、蓬莱ー常世の国から来たとされる。
次回、浦島太郎の物語が象徴する事を考察する。


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