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星落ちて、なお(澤田瞳子/文藝春秋/直木賞受賞作品)

<著者について>

澤田瞳子さん

同志社大学文学部卒業、同大学院博士前期課程修了。奈良仏教史を専門に研究したのち、長編作時代小説のアンソロジー編纂などを行う。2010年『孤鷹の天』で小説家デビュー。2011年、同作で第17回中山義秀文学賞を最年少受賞。その後も数多くの賞を受賞。

ちなみにお母様は作家の澤田ふじ子さんです。時代小説家の母の血を引き継がれたのか、瞳子さんも歴史小説を主に書かれてこられました。

<直木賞とは?>

正式には「直木三十五賞」。単行本、各新聞・雑誌として出版された大衆小説の中で最も優秀

な作品に贈る賞として、1935年に芥川賞とともに創設されました。

直木三十五氏は大正後半から昭和初期に活躍した大衆作家・評論家。新聞紙上、諸雑誌上で活躍し、大衆文芸の地位確立と発展に貢献されました。

週刊誌に連載した時代小説「由比根元大殺記」がヒット。さらに2年後にお由羅騒動を描いた「南国太平記」を発表。これが代表作となりました。大衆文芸作品を数多く手がけ、直木作品を原作とした映画も50本近く上映されるほど大人気だったそうです。そのような業績を称えて、文藝春秋の創業者である菊池寛氏が直木賞を創設しました。

<あらすじ>

鬼才・河鍋暁斎を父に持った娘・暁翠の数奇な人生とは――。
父の影に翻弄され、激動の時代を生き抜いた女絵師の一代記。

不世出の絵師、河鍋暁斎が死んだ。残された娘のとよ(暁翠)に対し、腹違いの兄・周三郎は事あるごとに難癖をつけてくる。早くから養子に出されたことを逆恨みしているのかもしれない。
暁斎の死によって、これまで河鍋家の中で辛うじて保たれていた均衡が崩れた。兄はもとより、弟の記六は根無し草のような生活にどっぷりつかり頼りなく、妹のきくは病弱で長くは生きられそうもない。
河鍋一門の行末はとよの双肩にかかっっているのだった―

<感想> →少々、ネタバレです

「澤田さんの歴史小説」というジャンルができたように思いました!

明治から昭和にかけての日本画の変遷をうつしながら、河鍋暁斎の娘として生まれた「業」「否が応でも繋がり続ける血の繋がり」「女性の生きづらさ」などが描ききられていて。『稚児桜』の後、しっかりとした知識を土台に、心の機微をほんの一行でとらえて、淀みなく流れ紡がれる澤田さんの作品を待ち望んでいた方多いのでは?読者は、朝井まかての『眩』を読んでいらしたら、北斎の娘応為と比較することでしょう。主人公の河鍋暁斎の娘とよ自身も、応為を意識し続け葛藤します。

『眩』と比べると、とよがどのような絵を描いたかが、書かれていません。それこそが、彼女が絵師として、一生もがきながら生きた表れに感じました。天才を父に持つゆえの葛藤。周りの色とりどりの人達の生き様から学び、思いやり、揺るがない価値観で、謙虚に生き抜くとよ。彼女の強さは美しくもあり、我慢も読んでいて辛くありませんでした。

私は、こんなに強いのに、誰かと苦労しても添い遂げなかったことを、後悔じゃなく、引っ掛かってるとよの後ろ姿に惚れました。

登場人物には有名人も多く、人間性も読めます。また明治を境に美人画の基準が変わることから、女性の立場の変わりようもみられます。読んでいるうち、日本画に興味をそそられるはずですよ。『稚児桜』では能についてもっと知りたくなった私。澤田さんはそんな誘惑もお上手です。澤田さんご自身も、お母様が作家ということで葛藤を経験してかかれたのかしらと、想像したりして。飛び交う江戸言葉の小気味良さに浸って、「こうとしか生きられなかった」河鍋家の人々の姿を、是非!



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