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じんかん(今村翔吾/講談社/直木賞ノミネート候補作品)

<著者について>

今村翔吾さん

滋賀県在住。 ダンスインストラクター、作曲家、守山市での埋蔵文化財調査員を経て、専業作家になる。2016年「狐の城」で第23回九州さが大衆文学賞大賞・笹沢左保賞を受賞。 デビュー作『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組 』(祥伝社文庫)で2018年、第7回歴史時代作家クラブ・文庫書き下ろし新人賞、『童神』で第十回角川春樹小説賞を受賞。


<直木賞とは?>

正式には「直木三十五賞」。単行本、各新聞・雑誌として出版された大衆小説の中で最も優秀な作品に贈る賞として、1935年に芥川賞とともに創設されました。


直木三十五氏は大正後半から昭和初期に活躍した大衆作家・評論家。新聞紙上、諸雑誌上で活躍し、大衆文芸の地位確立と発展に貢献されました。


週刊誌に連載した時代小説「由比根元大殺記」がヒット。さらに2年後にお由羅騒動を描いた「南国太平記」を発表。これが代表作となりました。大衆文芸作品を数多く手がけ、直木作品を原作とした映画も50本近く上映されるほど大人気だったそうです。そのような業績を称えて、文藝春秋の創業者である菊池寛氏が直木賞を創設しました。

<あらすじ>

仕えた主人を殺し、天下の将軍を暗殺し、東大寺の大仏殿を焼き尽くすーー。民を想い、民を信じ、正義を貫こうとした」青年武将は、なぜ稀代の悪人となったか?

時は天正五年(1577年)。ある晩、天下統一に邁進する織田信長のもとへ急報が。信長に忠誠を尽くしていたはずの松永久秀が、二度目の謀叛を企てたという。前代未聞の事態を前に、主君の勘気に怯える伝聞役の小姓・狩野又九郎。だが、意外にも信長は、笑みを浮かべた。やがて信長は、かつて久秀と語り明かしたときに直接聞いたという壮絶な半生を語り出す。

貧困、不正、暴力…。『童の神』で直木賞候補となった今最も人気の若手歴史作家が、この世の不条理に抗う人すべてへ捧ぐ、圧巻の歴史巨編!


<感想>

※少しネタバレです。

読んで最初に思ったのは、(なんて完成度の高い歴史エンタテイメントなんだろう!)です。
時代小説の形ですが、「真の民主主義とは」の問いかけは、私達が生きる今の時代のまるで写し鏡のよう。
戦国武将達の勇ましく猛る人間模様でないのに、圧倒され続け、長編でも最後まで飽きません。

ある晩のこと。
信長に忠誠を尽くしていたはずの松永久秀が、2度目の謀反を企てたという情報が。

前代未聞の事態を前に、主君の勘気に怯える伝聞役の小姓・狩野又九郎。けれど意外にも信長は、笑みを浮かべます。
信長が、かつて久秀から聞いたという壮絶な半生を語るかたちで、物語が始まります。

どこの誰ともわからぬ、まだ戦国武将として名を馳せていない久兵衛の前半は、史実を気にせず書けるからでしょうか、格別の魅力があります。
幼い久兵衛は、理不尽に奪われていく命を見続けることで、「人はなぜ生まれ、なぜ生きるのかという」疑問を持ちます。
そして「強者が弱者を搾取するのではない、民が政を執る世をつくりたい」と三好元長の夢と共に、新たな久秀像を見事に作り上げていきます。

正義に酔いしれ突き進み、そして、裏切られ、の繰り返しが描かれますが、それでも切り開いて進んでゆく小説です。
久秀の評価のさまざまを検証するのではなく、彼のヒューマンな言葉も味わいながら、一人の男性の生き方を楽しめます。

是非意気込み、迫力に魅せられて下さい。

それにしても、これだけ完成度の高い物語。兄弟以外で一人生き残った初恋の相手、日夏のことをお書きにならなかったのは、何か意図的なのでしょうか…?


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