スモールワールズ(一穂ミチ/講談社/直木賞候補作品)
<著者について>
一穂ミチさん
2008年「雪よ林檎の香のごとく」でデビュー。代表作は「イエスかノーか半分か」。2021年、『スモールワールズ』収録の短編「ピクニック」で第74回日本推理作家協会賞短編候補になる。 BL(ボーイズラブ)小説を中心に活躍をされていますが、ジャンルを超えて、ファンを獲得されている作家さんです。
<直木賞とは?>
正式には「直木三十五賞」。単行本、各新聞・雑誌として出版された大衆小説の中で最も優秀
な作品に贈る賞として、1935年に芥川賞とともに創設されました。
直木三十五氏は大正後半から昭和初期に活躍した大衆作家・評論家。新聞紙上、諸雑誌上で活躍し、大衆文芸の地位確立と発展に貢献されました。
週刊誌に連載した時代小説「由比根元大殺記」がヒット。さらに2年後にお由羅騒動を描いた「南国太平記」を発表。これが代表作となりました。大衆文芸作品を数多く手がけ、直木作品を原作とした映画も50本近く上映されるほど大人気だったそうです。そのような業績を称えて、文藝春秋の創業者である菊池寛氏が直木賞を創設しました。
<あらすじ>
夫婦円満を装う主婦と、家庭に恵まれない少年。「秘密」を抱えて出戻ってきた姉とふたたび暮らす高校生の弟。初孫の誕生に喜ぶ祖母と娘家族。人知れず手紙を交わしつづける男と女。向き合うことができなかった父と子。大切なことを言えないまま別れてしまった先輩と後輩。誰かの悲しみに寄り添いながら、愛おしい喜怒哀楽を描き尽くす連作集。
<感想> →少々、ネタバレです
今から読む方が羨ましい!
一文ごと色を帯びたような鮮やかさは、登場人物の心情が私の心に巻き付いて、物語に引き込まれるとはこういう事なんですね。
3章目からは、楽しさが勿体なくて、大切にゆっくりと読みました。
「歪な家族」がテーマ。
一穂さんお得意の男性同士に限らず、老若男女様々な人間模様を描いた6つの家族の短編集です。
普通の家族とは?
どの家族にも多少の歪さはあるのでは?
『スモールワールズ』
それぞれの家族が形成する小さな世界を、外の人間は完全にうかがい知ることはできないという意味とのこと。
第1章『ネオンテトラ』
他人には見えない孤独を抱える主婦と、家庭に恵まれない少年の交流が描かれます。
第2章『魔王の帰還』
思春期の男子高校生のもとに、ある日突然姉が出戻ってきます。お姉さんに会いたい!
第3章『ピクニック』
初孫の誕生に沸く家族を襲った悲劇が童話調で描かれます。
実際に起きた事件に着想を得て書かれた作品とのこと。
特にここで先入観を大きく揺さぶられ、一方的な決めつけがもたらす恐ろしさは
衝撃的でした。
第4章『花うた』
ある殺人事件の被害者と加害者が交わす往復書簡体で綴られる物語には、涙しました。
第5章『愛を適量』
離れていた親子の再会。
今、がリアルタイムで紡がれた物語です。
第6章『式日』
男性2人の友情。2人の距離が愛しくて、感情移入させられます。
人には様々な面があって、自分が知っているのはその一部にすぎない。
どの章でも、登場人物少なく、こんなに静かな物語なのに、私の先入観は読み進むにつれに変化し、心をかきみだすような、でも心を撫でられるような心地良さも感じられる強い文章です。
一穂さんは、『白日』を聴いてる若い重松清さんのよう。
生きていくには家族という枠は切り離せなくて、もちろん大切なのに、時には疎ましかったりして。
家族というものの底知れなさを知って、多少でも歪さがあるからこそ、愛することができるのかもしれないと感じました。
背筋の凍る怖さも、ふっと桜の花びらと共に心に吹いてくる春風も、読まないなんて勿体ない!
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