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彼岸花が咲く島(李琴峰 /文藝春秋/芥川賞受賞作品)

<著者について>

李琴峰さん

台湾籍の小説家 ・日中 翻訳者 。 母語は中国語だが、日本語で作家活動をされています。台湾で生まれ、2013年に来日。2017年、初めて第二言語である日本語で書いた小説​『独り舞』で第60回群像新人文学賞優秀作を受賞したのが作家デビュー。早稲田大学大学院日本語教育研究科修士課程を修了。 2018年10月1日、日本の永住権を取得。日台の文芸誌に寄稿したり、活動範囲は複数の国・地域や言語に跨った活躍をされています。

<芥川賞とは?>

芥川龍之介賞、通称芥川賞は、純文学の新人に与えられる文学賞である。文藝春秋社内の日本文学振興会によって選考が行われ、賞が授与される。友人であった菊池寛が1935年に直木三十五賞(直木賞)とともに創設し以降年2回発表されてきました。

新人作家による発表済みの短編・中編作品が対象となり、選考委員の合議によって受賞作が決定されます。

<あらすじ>

その島では〈ニホン語〉と〈女語〉が話されていた。記憶を失くした少女が流れ着いたのは、ノロが統治し、男女が違う言葉を学ぶ島だった。少女が島の風習と歴史に染まっていきます。不思議な世界、読む愉楽に満ちた作品です。

<感想> →少々、ネタバレです

歴史について言語を題材に、若年層から幅広く読ませ、考えさせる物語として書かれたものは、今まであったでしょうか?異色の本作は、発表当初から話題となっていました。

まず「設定の素晴らしさ」舞台は南の島。記憶を失った少女が彼岸花の咲く浜に流れ着きます。この少女を見つけたのは、島の游娜(ヨナ)という少女で、游娜は彼女を宇実(ウミ)と名づけます。この島では「ニホン語」と「女語」という二つの言語が使われています。宇実は「女語(じょご)」に似た「ひのもとことば」が母語であるらしく、英語も混ぜながら游娜たちとコミュニケーションしながら、島の生活になじんでいきます。異なる言語で育った彼らが、手持ちの言葉で意思を伝えようとする様子の中、私までどう伝えようかと、つられて考えてしまい愉快でした。

ノロとは…歴史の口承をする女性しかつけない仕事。それが見えてきた時、ようやく作品のテーマが、現代社会への問題提起だと気づかされます。ナショナリティ、アイデンティティ、マイノリティ、ジェンダーなど。答えの押し付けはありません。ただ考えさせられます。

「著者が母国語ではない日本語で表現した」

終始誰もがその巧みさに脱帽させられることでしょう。また言語を題材に物語にできたのは、台湾で生まれ育ち日本語の魅力に誘われて、『ひらがな、カタカナ、漢字という3種類の文字を使う言語はあまりない。漢語と和語と外来語。いろんな言葉が混在している言語感覚は、すごくおもしろい』と感じた彼女ならではと言えそうですね。海に囲まれ、日本語だけで生きてきた私達は、多様性を受け止めるのが苦手かもしれない。この本を読んで、自分が想像できる多様性だけよしとして、社会の秩序整ってきた気になるのはよそうと思います。優しいと見せかけて、境界線をきっちり引くこともしたくない。この世界には想像できないことがたくさんあることを、読書からも知っていきたいと感じました。


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