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黒牢城(米澤穂信/KADOKAWA/直木賞候補受賞作品)

<著者について>

米澤穂信さん

『氷菓』で第5回角川学園小説大賞ヤングミステリー&ホラー部門奨励賞を受賞しデビュー。11年『折れた竜骨』で日本推理作家協会賞、14年『満願』で山本周五郎賞を受賞。『満願』は同年の年間ミステリランキングで三冠をとるなど、話題を呼んだ。近著に『王とサーカス』『真実の10メートル手前』『いまさら翼といわれても』『Iの悲劇』『本と鍵の季節』『巴里マカロンの謎』などがある。

<直木賞とは?>

正式には「直木三十五賞」。単行本、各新聞・雑誌として出版された大衆小説の中で最も優秀な作品に贈る賞として、1935年に芥川賞とともに創設されました。

直木三十五氏は大正後半から昭和初期に活躍した大衆作家・評論家。新聞紙上、諸雑誌上で活躍し、大衆文芸の地位確立と発展に貢献されました。

週刊誌に連載した時代小説「由比根元大殺記」がヒット。さらに2年後にお由羅騒動を描いた「南国太平記」を発表。これが代表作となりました。大衆文芸作品を数多く手がけ、直木作品を原作とした映画も50本近く上映されるほど大人気だったそうです。そのような業績を称えて、文藝春秋の創業者である菊池寛氏が直木賞を創設しました。

<あらすじ>

本能寺の変より四年前、天正六年の冬。織田信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った荒木村重は、城内で起きる難事件に翻弄される。動揺する人心を落ち着かせるため、村重は、土牢の囚人にして織田方の智将・黒田官兵衛に謎を解くよう求めた。事件の裏には何が潜むのか。戦と推理の果てに村重は、官兵衛は何を企む。デビュー20周年の集大成。『満願』『王とサーカス』の著者が辿り着いた、ミステリの精髄と歴史小説の王道。

<感想> →少々、ネタバレです

舞台は本能寺の変より四年前、天正六年の冬。
主人公は、織田信長に叛旗を翻して有岡城に立て籠った荒木村重。
人質の不可解な死から始まる難事件に、城内はまとまらず翻弄される。
城内を落ち着かせるため、村重は、土牢に閉じ込めてあったもう一人の主人公、織田方の軍師黒田官兵衛に答えを求めに行く。荒木村重からの問いに対し、黒田官兵衛は地下の土牢にいながら大局をみて、謎を解き、逆に荒木を追い詰めていきます。

官兵衛が有岡城に一年半閉じ込められていたという史実はあるものの、そこにまつわる知略の物語、心情までは分かっていません。こうであったかもしれない物語を謎解きのミステリーとして見事に表現して下さった米澤さんに感謝!史実に沿っているので二人の末路を知っていても、テンポの良さ、静と動の展開に読者を飽きさせません。

事件の裏には何が潜むのか。官兵衛は何を企むのか。猜疑心や御仏の罰で混乱する城内に私も放り込まれたような感覚で、裏切り者が出た時には、誰もが黒幕に見えてきて・・・。読者は村重となりながら、官兵衛の企みを疑いながらもヒントを待ち望み、謎を解いていくことでしょう。

下剋上で摂津国を支配した荒木村重のずば抜けた統治力、戦略謀略、家臣への想い、リスク管理などは、現代の組織を見ているようでもあります。絶対の上下関係であるはずなのに、魅力的な家臣とは「質問」を通じた対等な関係性が描かれます。例え身分は下だとしても質問する側が一瞬権力を持ち、相手はそれに何としても応答しなければならない。視線の落とし所、質問を無視することも応答の一つの形であるやり取りに引き込まれます。

当時の死生観、宗教観もさることながら、戦国時代の人々の姿、武器や武具まで調べ上げられた考証は深く、時代を超えたベストセラーとなる魅力を感じます。本作のような重厚な歴史小説が、皆の共通の記憶を与え、日本の国の存在を厚く豊かにしてくれるように思います。


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