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異色の思い出

 新刊が出るたびに「この事件の真犯人は誰なのだろう」と何年も心を躍らせて待っていた、そんな作品が中学生時代にあった。その犯人がまさか自分の考えた動機、人物だったといった経験はおありだろうか。思い出話としてそんな謎体験を書いておこうと思う。

 中学生時代に、同級生が持ち込んだTRPGというジャンルに夢中になって、ルールブック(特にお気に入りはGURPS)を開いては、お得意の妄想でキャラクターを練り作り上げていくというオタクな活動をしていた。中でも気に入っていたのはGURPS・ルナルという世界設定だった。同級生ともシナリオを作ってプレイをしたり、とにかく良くやっていたものである。なんだろう、子供の時から極まってるな。

 この世界設定が流行していた同時期には、ルナル・サーガというベースとなる小説が書かれていて、それはロードス島戦記と同じくらいに大好きだった作品だ。ルナルにおける双子の主人公達は、何者かに殺害されてしまった父の犯人を探すために旅に出ることから始まる話だ。当然、読者としては一体誰が犯人なのか、新刊が出るたびに先が知りたくてとても楽しみにしていた。

 「つきかぜさぁ、かすみまるというペンネームでリリア・セレールというルナルキャラクターを雑誌かどこかに投稿しなかった?在住県とペンネームの組み合わせが偶然すぎるからさ。」

 ある日、けだるい朝の全校朝礼が終わるとすぐにTRPG仲間のH君が声をかけてきた。朝から何を言ってるのか。あまりに唐突だったので10秒ほどは考えていた記憶がある。そういえば、コンプRPGという専門雑誌に読者が作成したキャラクターを募集して紹介するようなコーナーがあり、大分前に投稿した時の名前がそれだったと思い出した。ペンネームについてはこういった所に投稿をすることがなくどうしたものかと困ってしまったので、とりあえず友達が使っていたキャラクターの名前を拝借したのだ(今思えば実名でなくてよかった)。その時の募集お題が「主人公(双子)最強の敵」というもので、それに似合う設定ではあったかもしれないが、中学生らしくないトンデモないキャラクターを確かに投稿していたのである。ファンらしく自分の考えたキャラクターが雑誌に載ったらいいな位の感覚だったが、次号を見たところ採用はされていなかったので「まあそうだよな、アレが採用されたらまずいだろうな、ストーリー的に」と思いながらも、ちょっとがっかりしたものだ。

 それがなぜ今頃、投稿したことすら知らないはずのH君に聞かれているのかさっぱり理解出来なかった。それを問うと、

 「お前読んでないの?投稿したキャラクターががっつりルナルの小説本編に出てるよ」

 日本語 ワカラナイ。なぜそんなことになっているのか。
とはいっても、よくわからないが瞬殺されるようなちょっとしたMOB扱いだろうと思い直して書店に行ってみた。ちょうど受験などの時期もあって、暫く新刊を買ったりできず全て未チェックだったのだ。

 該当の小説を手に取って巻末をみると、確かにどうみても私が投稿したキャラクターだ。「●●県 霞丸さんのキャラクターを参考にしました」とキャラクターデータが紹介され、ルナルの挿絵を描いているイラストレーターによって私のキャラクターが私が描いたとおり忠実且つ、美麗に描き直されていた。キャラクターシートには設定の他にキャラクターのイメージ画なども描ける仕様になっていて、イラストを描き始めていた私はもれなく片目に眼帯をした銀髪女性という、中二全開のような絵を描いて送っていたのである。やばい。

 まさに死。確かに丁寧には描いた絵だが上手くはない。好きな作品の挿絵を描いているようなプロ(しかも結構憧れ)の人が、その自分の絵を見て、綺麗にそして雰囲気を汲み取って不気味にリビルドしてくれるという超大問題が知らないうちに起きていたのだ。死んだ、私死んだ。嬉しいけど死んだ。

 気が遠くなった。しかし別に知り合いでもないのだから、なにも困ることはない。気を取り直して冷静に「主人公の父親が好きすぎたが叶わず、恋の嫉妬に狂ったリリアちゃんは主人公の母親を襲い、返り討ちにあって片目を失う。(今でもその怨恨により双子を付け狙う)」という女子中学生が思いつくには極めて不健全設定の彼女が、どこで活躍(死亡)しているのか確認することにした。まあ、三行くらいで終わってるんじゃないかなと思う位は由緒正しいIPPAN人である。IPPAN。

 そして私は、無事に、二度死んだ。リリアは主人公の父親を暗殺した張本人として、主人公と対峙していたからだ。しかも美麗なリリアの挿絵入りである。なぜこんな結果に…。書店で真面目に気絶をするところだった。

 何年も主人公達の父親の敵が何者であるかを楽しみにして読んできたのに、その敵は自分が作成をしたキャラクターだったという事実にとにかく戸惑った。キャラクターには、きちんとねちっこそうな性格も設定もそのままに生かされ、確かにお題通り「双子最強の敵」として強敵であるグループの一員になっていたのだ。投稿時期を考えても、執筆の途中でストーリーに組み込まれたことになる。嬉しいというより、驚いた上に長い間楽しみにしてきたはずの正体が「確かに殺しそうな性格してるよな」という納得がいくキャラクターだったので(当然作成した経緯も設定も自分が一番理解しているから)意外性も新鮮さもなかったのは、少しだけ残念なことだったように記憶している。

 ちなみに、ペンネームの霞丸については元々漢字表記ではなく、ひらがな表記で送っている。編集の人に、今だから言いたいのは「中学生には難しい漢字に思えたのかもしれないけど、元からひらがな表記」なので、記入されたままの状態が良かったのだ。変換する必要がない。確かに眼帯キャラを描いてしまう人ならペンネームも漢字まみれがいいだろうと考えてくれた結果かもしれないが。とにかく、時々思い出しては記念にキャラクターシートのコピーはとっておけば良かったかなと考えるが、14歳中二真っ盛りの私にはそこまでの展開は想像できるはずもない。

 これはアクロバティックすぎるネタバレなのか、それともサプライズなのか、非常に複雑な気持ちを世界でただひとり抱えることになった思春期。進学後はTRPGのメンバーも学校が別になったりと、関わる機会はぐっと減ってしまったが良い思い出である。大人になってからも、作者にはあのキャラクターからどんなことを感じ、メインストーリー内のポジションに採用してくれたのだろうかと聞いてみたい気もするが、昔過ぎることでもあるし、多分叶わないだろう。

 余談だが、TRPG仲間(メンバーは全員男子だ)にはリリアというキャラクターについて当然のことながら詳細に話す羽目になり、三回死ぬことになった。そして今、思い出をありのままに書いたので仕方がない部分でもあるが、なかなかに痛い単語が並びまくる文章になってしまい、四度目の死を迎えそうになっている。 

 世界設定はとても楽しいものだ。古い作品ではあるけど機会があれば手にとって、つきかぜリアル中二全開部分も是非堪能していただければと思う。