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ぷち熱帯

 格ゲー用語における「熱帯」ではなく、植物園のことである。
書き出しにこの説明はどう考えても不要だが、ミスマッチを防ぐために念の為に書いておく。

 某感染症の影響で閉館気味だった植物園に漸く足を運んだ。予定では神社へ行く予定だったのだが、当日になってみるどういうわけか行きたくない。こういう場合は、無理をして行かないほうがいいという霊感を発動した結果の植物園だ。

 人混みを全く好まない性格なので、平日に行く。社会構造的に仕方がないことではあるが、何故皆が同じタイミングで同じ行動をとるのか。当然コンフリクトも起きるだろうし、密集もする。それなら可能な場合は処理タイミングをずらしたらよいのだ。こんな理屈で平日サボりを挟み込む。理想の労働時間は水曜と木曜を休日、活動時間は13時〜27時が理想だ。早朝に起床をするのは身体に合わないと思う。

 湿気と水が地面を叩きつける音に囲まれた緑一面のドーム。自分でも表情が明るく変わったことがわかる。思わず住みたいと思うが、これではお布団が湿ってしまうなどと、訳のわからない心配をする。この気候なら蚊帳にハンモックでいいだろう。とはいえ、人工的で不特定多数の鑑賞のためにつくられているこの環境には虫や動物がいなかった。維持管理の手間を考えずに「蚊帳はいらんな」と呑気に妄想計画を練り直す。まず、寝る心配をする必要があるんだろうか。

 どんな小さな植物にも名があり、丹念に研究をしてきた人々のことを少し考えた。発見をし、分類をして名をつける。「花」「木」「草」ではなく、名があることで認識がかわっていくことは興味深い。名があることで、その植物達の存在がはっきりと浮かんでくる。「君はそう呼ばれるようになったのだな」といった突然の中二セリフを思いつくも、口には出さずという大人の振る舞いをした。いくらヒト科(?)の友人が少ないからといって植物と会話をしてしまうのはと思ったものの、今更だから、まあいいかと諦めた。
 
 幸運の木と言われるガジュマルを見た。超巨木すぎて園芸店で見るそれと同じ種とは思えないほどである。「しめ殺しの木」という解説プレートを見て生命力を感じると同時に、個人的にプレゼントには躊躇してしまうようになりそうだ。解釈の問題になりそうだが、私自身は侵食よりも可能な限りの共生関係を人に望む。幸運の木という由来は沖縄の妖怪が住み着く木であるからという説もあり、日本固有のものかもしれない。いろいろな物語が合体して、ひとつの植物が認識されていることもまたおもしろいものだ。

 運良くヒスイカズラを見る。ブドウのように蔦の先にこのような花が咲いている。ご存知の方にはつまらないだろうし、植物学は全くの門外漢、部位等の呼称や分類が誤っている可能性が限りなくあるので、素人の散歩日記として読み流していだたきたい。

ヒスイカズラ Strongylodon macrobotrys
落ちているところ。とても触ってみたかったが我慢した。

 ターコイズブルーと呼ばれる色が好みなこともあり、大変感激した。絶滅しないでほしい。もう少し近くからの写真を撮りたかったが、スマホでは限界。オリンパスのカメラを持ってくるべきであった。 

エイザンスミレ Viola eizanensis (Makino) Makino

 学名にもなっている比叡山のインパクトが強く、思わず記録してしまったものだ。葉も非常にうつくしい形状をしている。ここで牧野富太郎を知る。自らを植物の精だと感じ、植物辞典を絵はもちろん、印刷技術まで学んで自費出版をする極まりしお方とのこと。こういう人は大変好きである。館内にも牧野が描いた植物図があったが、非常に精巧で驚いた。天性の描写力にも恵まれた可能性もあるが、興味の対象全てを知りたいという欲求も大いに影響しているのかもしれないと、その繊細な黒いインク線で描かれたシンプルな色彩の絵から考える。圧倒感というべきだろうか。私もこのような熱量で絵を描いてみたいものだ。

 実際に現地に赴いて見る体験も良いのだろうが、やはり多種多様な種をわずかの入園料で一度にみることができる施設はやはりありがたい。なにより安全であることも良い。また心にも「湿り気」が欲しくなったら、ウォーキングがてら見学にいこうと決めたおサボり日であった。