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Dimension -セイ-

「言ってくれるじゃん!偉そうに!」

 奴の言葉を聞くやぼそりと一言つぶやくと、ショウが再び駆け出す。そして、奴も再び向かってくる。互いに打ち込み、鍔迫り合いになる。全力を込めて打ち込んでる状態のショウに対して、奴にはまだ余裕があるように見える。

「あんまり調子に乗ってんなよ、この野郎!!」

 力づくで奴を撥ね退けると、連撃を打ち込むショウ。奴はショウの目をしっかりと見ながらすべての攻撃を捌いていく。徐々に奴はショウの動きを上回っていき、ショウが打ち込んだ左袈裟斬りを柳で受け止めると、刃同士を合わせたまま滑り込ませて刀を回し込み、右脇の下で刀を持ったショウの右腕を挟み込むと、左手でショウの首を捉えて締め込む。

「じゃあ聞くが、お前らが今日ウチの領土に進攻してきた目的はなんだ?」

「ぐっ・・んなもん、姫の奪還に決まってんだろうが・・・とっとと返せ、この野郎っ!!」

 必死にもがき奴の腕を振りほどくと、ショウは尚も斬りかかっていく。

 「じゃあ、姫様を奪い返すその為だけに、あれだけの兵士達を斬り伏せる必要はあったのか?」

 ショウの連撃に対応しているにもかかわらず、奴はまるで元々ショウの攻撃の流れを知っていたかのように難なく捌き、ショウに話しかけている。しかしそれは、ショウに対して侮り、嘲笑っているというような態度ではなく、奴は真剣に烈しさを以ってショウに訴えかけている。昨日今日会ったばかりの者に対する敵意などではなく、もっと前から長く知った者に対して話しかけているような雰囲気だ。
 真剣勝負の打ち合い中に敵と会話を続けるなど容易なことではない。しかし、それをいとも簡単に行う奴に対して、ショウの方は明らかにおぼつかなくなり、押されていく。

 「お前らの方から仕掛けてきたんだろうが!!ぐぉら!!」

 唸り声をあげてショウが打ち込んだ右胴斬りを、切っ先を下に向ける形で刃を縦にして受けると、刀を時計回りに90度動かしながらショウに押し込む。今度はショウの方が刀を縦にする形で受ける状態になり、動きが封じられる。

 「それは、お前達にとって退避勧告を一切無視してまで斬り込まなきゃならない程の脅威だったとでもいうのか?じゃあなんでお前達は、三人だけでここへ来たぁ!」
  
 語気がさらに強くなると同時に、奴は刃を打ち込み合っている状態からさらに押し込み、刀を横一文字に振りぬく。力負けしたショウは後ろに吹っ飛ばされ、なんとか堪えたものの、奴の振り抜いた刀の切っ先が、ショウの目の下辺りを斬りつける。
 飛ばされたショウと入れ違いに、俺とリュウが同時に奴に攻撃を仕掛ける。しかし、奴は依然として二人掛かりの攻撃でも難なく捌いていく。「攻撃を仕掛ける」と言うと聞こえはいいが、それは実際ただの「必死の防衛戦」だった。俺達はもはや闇雲であろうと攻撃を打ち込み続けた。俺もリュウも、もちろんショウも、もはや言葉では交わしていないものの同じことを悟っていた。実力差と当人から放たれる殺気からして、何としても奴に攻撃の隙を与えないようにしなくてはならないと。少しでも奴に攻撃を打ち込ませる隙を作ったら、死は目の前にあると。
しかし、奴はわずかな隙を捉えると、一気に崩しにかかる。奴の刀は俺の右脇腹から左肩にかけて斬り上がってくる。

「ぐあっ!」

 必死に身をそり返しはしたものの、奴の踏み込みの方が深く、切っ先は体に到達していた。俺が抜けた分、再度ショウが参戦し、リュウとショウの二人で引き続き攻撃を仕掛けていく。しかし、奴は二人の打ち込んだ刀を同時に打ち上げると、右袈裟斬りをなんとか躱したショウに左横一閃の追い打ちを打ち込み、さらに右胴斬りを打ち込んできたリュウの刀を左柳で流すと、勢いそのままに手首を返して柄でリュウの刀の刃を打ち落とし、顔面に柄を打ち込むと、さらに左肩から袈裟懸けに斬り降ろす。二人もなんとか致命傷は避けたものの、ショウは右脇腹辺りを、リュウは左肩口から左胸の辺りにかけてを斬られている。

「くそぉ・・。」
「うぐっ!」

 地面に倒れ込む俺達三人に対し、意外にも奴は攻撃の手を止め、追い打ちをかけようとはしない。

 「お前達が三人でここへ来たのは、たった三人だろうと十分に『事足りる』と理解してたからじゃないのか?しかもそれは“交渉”なんていう選択肢によるもんじゃなく、“戦闘”という一点において十分すぎるほどの圧倒的戦力差があるということを理解してたからじゃないのか!」

 傷を負っているからではなく、戦闘の疲労からではなく、ただ単純に奴の話している内容に少し困惑する。奴は誰の味方なんだ?俺達に対しこれだけの圧倒的な戦況を展開しながら、それを誇り、挑発するような素振りは一切見せず、奴以外の兵士達と俺達との実力差を素直に捉えて話している。しかし、その端々には同じ国の兵士達に対する哀れみが見える。まるで俺達の師匠であるかのように、どちらか一方に肩入れせず、冷静に状況を見つめて、一つの怒りをあらわにしている。

 「そんな戦力差を前にしても、使命の為に命を賭して、向かって来る恐怖に立ち向かった兵士達にお前らはどう向かい合った! 呼吸を整え、気合を入れなおし、目を凝らして相手を見据える。そんな瞬間があったのか!!」

奴の怒号が、荒野に響き渡る。辺りが風の音を残し、シンと静まり返る。

 「お前達の刀は何だ?何の為のもんだ?ただの自己顕示の快楽の為のもんか?あぁ!?」

 「・・偉そうに説教たれやがって・・!!」

 ショウが刀を地面に突き立てて支えにしながら、なんとか立ち上がると、もう一度奴に向かって行く。

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