「不運な勇者はガチャ課金厨 ~金はないけど十連回す~」第1話

【あらすじ】
異世界に召喚された男、平井は落ちこぼれの勇者だった。
彼のチートスキルは完全ランダムのガチャ能力で、不運な彼は低レアリティーのアイテムばかり出してしまう。
そんな彼はガチャ運に翻弄されながらも勇者として自分なりに奮闘する。

【第1話】
「あー、ガチャを回したい。そこらへんに金が落ちてねぇかなぁ」

 草原をまっすぐに伸びる街道。
 そこを歩く俺は、誰にともなく愚痴る。

 もう何度目になるか分からないセリフだ。
 自分でも半ば呆れている。

 ただ、この衝動が治まることはないだろう。
 思う存分にガチャを回さない限り。

 俺の名前は平井。
 ゲームアプリのガチャ回しが趣味の、しがない独身事務職アラサー野郎だった。
 過去形なのは、三日前に勇者としてこの世界に召喚されたからである。

 なんでも魔王討伐を頼みたいとか。
 偉そうな王様に命じられたよ。

 もちろん断りました。
 だけど俺の言葉を無視して話を進めやがったので、隙を見て王城を抜け出してきた。

 まあ、当然の反応だよね。
 いきなりそんなことを言われても困る。
 こっちも唐突なファンタジーで混乱しているんだから、もう少し配慮はしてほしい。

 そうして王都から離れるために移動を続けて現在に至る。

「ったく、暑い……腹も減ったし寝不足だ」

 不平不満を垂れながら、俺は白Tシャツの襟をパタパタと扇ぐ。

 そう、白Tシャツだ。
 今の俺の服装は、白Tシャツにジーパン。
 召喚の直前、深夜にコンビニへ行く途中だったのだ。

 どこの世界にこんなラフな格好の勇者がいるのか。
 腰に吊るした銅の剣が、辛うじて序盤の勇者っぽさを演出している。
 こんなことなら、王城でもっとマシな装備を貰ってから逃げればよかったよ。

「よし、次に村を見つけたら寄ろう。金はちょっとしかないけど、そろそろ休みたい……ん?」

 これからの予定を考えていると、急に影が差した。 

 おかしい、今日は雲一つない晴れのはずだ。
 嫌な予感を覚えた俺は足を止める。

 直後、目の前に黒い巨体が降り立った。
 着地と衝撃で地面が揺れる。

 突如として現れたのは、屈強な肉体を持つ二足歩行の黒山羊だった。
 体長は二メートルを優に超えるだろう。
 豪華な装飾を施された鎧に身を包み、馬鹿デカい斧を肩に担いでいる。

 ねじれた双角は天を向き、血のように赤い双眸が俺を睨んでいた。
 口元は愉悦に浸った笑みを浮かべる。

 マッチョな黒山羊は朗々と喋りだした。

「貴様が勇者だな? 我は魔王軍四天王の一柱、ガルディール。魔族の天敵たる貴様を抹殺するため――」

「いや、人違いです。俺は勇者じゃありません」

 俺はきっぱりとした口調で即答する。

 だってここで肯定したら、ほぼ確実に戦闘に突入するじゃん。
 しかもコイツ、四天王とか言ってるし。
 強いに決まってるじゃないか。

 今のうちに告白しておこう。
 異世界で勇者に選ばれた俺だが、ハッキリ言って全然強くない。
 というか、すごく弱い。

 黒山羊に対して先制攻撃を仕掛けたら、一瞬でミンチよりも酷い状態になる自信がある。
 腰に剣とか装備してるけど、これっぽっちも扱える気がしないよ。
 正々堂々と戦う場合、ゴブリンと互角にやり合えれば万々歳というレベルだ。

 緊張で吐きそうな俺をよそに、黒山羊は苛立った様子で話す。

「そのような稚拙な嘘で我を騙せると思ったのか? 貴様の肉体からは、微弱だが特異な魔力を感じる。異界から召喚されし勇者の証拠だ」

 どうしよう、これは強制イベント的なやつだ。 
 なんとか誤魔化せないものかと思ったが、ちょっと無理っぽい。

 仕方がないので俺は、ペコペコと頭を下げて弁明する。

「あの、確かに俺は勇者ですけど、魔王を倒そうとかそういう気はないんですよ。今も勇者稼業を断って放浪している途中ですし? だから、見逃してほしいなぁというか……」

 これは偽りなく俺の本音だ。

 せっかく剣と魔法のファンタジーな世界に来たのだから、自由な生き方をしたい。
 魔王討伐なんて責任の重いことは嫌だ。
 もっと強くて意欲的な人間に任せればいいじゃないか。

 俺は勇者という役割を捨てる。
 故に、この四天王と戦う理由など存在しない。

 そう主張したはずなのだが、黒山羊は変わらず殺気を解かなかった。
 黒山羊は斧を構えて言う。

「ふむ。これはまた、臆病な勇者だ。しかし、貴様を野放しにするわけにはいかん。勇者が死ねば、魔王軍の士気が上がる。それに、不安の種はどれだけ小さくとも摘んでおいて損はあるまい」

 喋り終えた黒山羊は、斧を高々と振り上げた。
 大上段からの斬撃。
 掠っただけでも即死だろう。

(畜生、どいつもこいつも好き勝手に言いやがって……)

 迫る死の気配。
 バクバクとうるさい鼓動を聞きながら、俺は歯を食い縛る。

 あっけなく追い詰められた。
 何もしなければ、数秒もせずに殺される。

 そんなの理不尽だ。
 どうして俺がこんな目に遭わねばならないのか。

 こうなったら仕方ない。
 なるべく温存しておきたかったが、出し惜しみはできなさそうだ。

 見せてやろう、俺が授かった勇者の力を。
 世界のルールをぶっ壊すチート能力を。

 斧が振り下ろされる寸前、俺は一枚のカードを掲げた。

「食らいやがれ、黒山羊クソ野郎」

 次の瞬間、前方に向かって青白い極大の光が放たれた。
 轟々と凄まじい音を立てて吹き荒れる風。
 光はあっさりと黒山羊を呑み込むと、地面を抉りながら突き進む。

 数秒後、そこには扇状に耕された元草原だけが残されていた。
 ここからでは被害の全貌が確認できない。

 正直、想像以上の威力だった。
 たぶん黒山羊は即死だろう。

 舞い散る土煙に咳き込みつつ、俺はへらりと笑った。
 そして、絶叫する。

「うああああああああああああぁぁぁぁっ! 貴重なSR使っちまったああああああああぁぁぁッ! おいおいおいおい、この先どうしろってんだ!! もうまともな能力なんてねぇぞ!? また回して当てろってか!? マジふっざけんなよ!!」

 怒りと焦りで地団駄を踏みまくる。

 まだ旅を始めたばかりなのに切り札を使ってしまった。
 仕方のない状況だったとはいえ、到底納得し難い。

 黒山羊をぶっ殺したのは、【SR 剣聖の蒼滅刃】という能力だ。
 大昔の剣聖による渾身の一撃をぶっ放すもので、威力はさっき見た通りすごい。

 ただし、一度限りの使い切りだったのだ。
 能力を封じ込めたカードは、いつの間にか消滅している。

「ったく、四天王ってなんだよ。普通、旅が始まって三日で襲撃してくるか? 本当、空気読めよ……」

 俺はぶつぶつと愚痴をこぼしながらも移動を再開した。
 ここで立ち止まっても意味はない。
 日が落ちる前に、どこか泊まらせてくれそうな宿を見つけたかった。

「大金が欲しい。ガチャを回したい……」

 勇者になった俺が得た、唯一無二の能力。

 ――それは、完全運任せの異世界チートガチャであった。

 ◆

 その日の夜、俺は立ち寄った村の納屋に泊まらせてもらった。

 価格は夕食と朝食付きで五百ゴールド。
 良心的すぎる価格だが、俺の財布は大打撃を受けた。
 もう十四ゴールドしか残っていない。

「そろそろ仕事でもするかね」

 干し草のベッドに寝転がりながら、俺はぼそりとつぶやいた。

 王城からくすねた金が底を尽きようとしている。
 このままではそう遠くないうちに行き倒れてしまうだろう。

 非常に不本意だが、働いて金を稼がねばならない。
 この世界には冒険者ギルドと呼ばれる便利機関もあるみたいなので、とりあえず大きな町に行くのを目的としよう。
 具体的に何をするのかよく分からないけど、ちょっとした仕事なら貰えそうだ。

「ガチャを回すには、どのみち金が必要だからなぁ……」

 俺の能力は、よくあるゲームアプリのガチャに酷似している。

 一定の金額を払うことで、ランダムに何かを貰えるというシステムだ。
 要するに、いつでもくじ引きができる能力である。

 ガチャのラインナップは多種多様で、ただの道具や食べ物が出てくることもあれば、四天王を殺した時のような特殊能力が出てくる場合もあるらしい。
 後者は基本的に使い捨てとなり、普段はカードとして物質化されている。
 温存したくなるのは当然の心情でしょ。

 ちなみにゲットしたガチャアイテムは、容量無限の専用亜空間に収納しておける。
 チート能力の副次的な機能で、何が入っているかが脳内イメージでリスト化される上、荷物が増えないから地味に重宝しています。

 そして、ガチャアイテムは五段階のレアリティに分類される。
 N(ノーマル)、UN(アンノーマル)、R(レア)、SR(スーパーレア)、SSR(ダブルスーパーレア)の順に希少性が高い。
 無論、レアリティが高いほど強力なアイテムである。

 四天王を殺した能力は、上から二番目。
 つまり、すごく貴重なものだった。
 だから使いたくなかったんだよ。

「手持ちはNかUNだけ……悲しいなぁ」

 亜空間のストックを確認した俺は嘆く。

 無力な俺が異世界を生きていくには、ガチャ能力を活用するしかない。
 積極的に回して、強力なアイテムをストックしないとね。

 そう、これは必要経費だ。
 決してガチャ欲求を満たすためではない。

 自分に言い聞かせながら干し草ベッドに転がっていると、納屋の隅に何かが隠されているのを発見した。
 起き上がった俺は、近付いて正体を確かめる。

「こ、これはまさか……!」

 農具の陰に置かれていたのは、なんと中身がぱんぱんに詰まった革袋だった。
 俺は反射的に袋の紐をほどいてひっくり返す。

 じゃりじゃりと出てきたのは無数の硬貨。
 それもかなりの金額である。

 俺は緩む口元を押さえて硬貨を数えた。

「に、二万ゴールド、だと……?」

 ガチャ一回につき千ゴールド。
 十連ガチャの場合は一万ゴールドで、必ず一つはR以上のアイテムが出る。

 この二万ゴールドがあれば、十連が二回も引けるということだ。
 なんて素晴らしい。

 しかし、ここで問題が浮上した。

 この見つけた金は、果たして勝手に拝借してもいいのか。
 隠してあった場所からして、おそらくこの納屋の持ち主のへそくりだろう。

 ガチャに使ったのが発覚したら、怒られてしまうかもしれない。
 否、かなりの確率で怒られるだろう。

 いかんいかん。
 危うく犯罪に手を染めるところだった。

 役割を放棄したとはいえ、俺は勇者である。
 いくらなんでも、そんなことはできない。

「ん? 勇者……?」

 ふと自分の言葉に引っかかりを覚える。

 そもそも勇者とは何だ。
 漠然としたイメージはあるものの、具体的にどういった人物を指すのだろう。

 勇者は普段、どのような立ち振る舞いをすべきなのか。
 こういう行動をすると勇者っぽい、とかはあるのか。

 俺は懐かしき学生時代の記憶を掘り返す。
 あの頃は勇者が主人公のゲームに熱中していた。
 当時を思い出せば、勇者とは何たるかが分かるかもしれない。

 俺は目を瞑って熟考する。
 そして、一つの結論に辿り着いた。

「勇者は他人の家を漁ってアイテムをゲットしている! つまり、俺がへそくりをガチャに課金しても問題ないッ!」

 ゲームの中の勇者は、タンスを開けたり壺を壊してアイテムを貰っていた。
 あの中には誰かの大切なへそくりもあったことだろう。

 俺はその再現というか、リスペクト的な行動を取るだけである。
 決して私欲に走ったわけではないよ、うん。

 超次元的な思考を経て迷いを捨てた俺は、躊躇いなくガチャ能力を発動させた。
 手元のへそくりの一部が消え、謎のアナウンスが脳内に響く。

 ――異世界十連ガチャ、起動。

【N 薬草】
【N 毒消し草】
【UN テレパシー】
【N じゃがいも】
【N 木の剣】
【N 石炭】
【UN 魔力回復薬】
【R 雷の杖】
【N 薬草】
【N 矢束】

 ――以上。

「ちくしょうがあああああああぁぁぁっ」

 俺は喉が潰れる勢いで叫んだ。

 だって、仕方ないでしょ。
 あまりにも結果が悪かったんだって。

 Nのアイテムに関しては割愛する。
 ゴミとは言わないけど、高額なガチャで出てきてほしくなかった。

 UNのテレパシーだが、これは使い捨ての特殊能力だ。
 この三日間で既に何度かゲットしている。

 効果は「短い内容のメッセージを指定した対象の脳内に送る」というもので、かなり微妙な感じが否めない。
 チームで連携する際とかに使うのだろうが、ぼっちの俺には不要だよね。

 同じくUNの魔力回復薬だけど、こちらも使い道に困る。
 俺は魔術適性が限りなくゼロなんだ。
 召喚された時、王城で調べてもらったから間違いないと思う。
 魔力を消耗しないのだから、魔力を回復する薬があっても持て余すよ。

 唯一のRである雷の杖も、同様の理由で嬉しくない。
 魔術師じゃない人間に魔術師用のアイテムを渡さないでほしい。

「あぁ、貴重な一万ゴールドが……」

 絶望の淵に突き落とされた俺は、がくりと膝を突く。

 あまりにも残酷だ。
 頼むから嘘だと言ってくれよ。

 こんなことがあっていいというのか。
 惨い。あまりにも惨い。

 ショックに打ち震える俺は、流れるような動作で再び十連ガチャを回す。

 ――異世界十連ガチャ、起動。 

【N 痺れ団子】
【N 薬草】
【N 唐辛子】
【R 炎の杖】
【UN 治癒薬】
【UN テレパシー】
【N 毒草】
【N じゃがいも】
【N じゃがいも】
【N じゃがいも】

 ――以上。

 謝罪の品として薬草を三束と銅の剣を残し、俺は村をこっそり抜け出した。

 二万ゴールド分のガチャで見事に爆死した俺は、なんだかんだで大きな町に到着した。

 あれから街道に沿って半日ほど歩いたら見つけたよ。
 道中は奇跡的にトラブルにも遭わなかった。
 こういう時だけ運が良いらしい。

 町の中は雑多な感じで、様々な種族の人が往来している。

 色白で耳が長い美形はエルフだね。
 二足歩行の動物っぽい人や、獣耳や尻尾を持つ人は獣人かな。
 中には明らかにモンスターっぽい容姿の人も混ざっている。

 服装に注目しても結構面白い。
 武器と鎧を装備した戦士もいれば、ローブと三角帽子の魔術師もいる。
 もちろん普通の町人やら商人みたいな人も多いけどね。
 まさにファンタジーといった光景である。

 王城から逃げ出す際は、こういった部分を楽しむ余裕がなかった。
 せっかくの異世界だ。
 やはり観光しないのは損だね。
 もっとも、この町にも勇者に関する通達が来ているかもしれないから、あまり油断はできないけれど。

「さて、どうするかね」

 にぎやかな通りを歩きながら、俺はこれからの動きについて考える。

 まずは当面の生活費を確保しなければ。
 この町には冒険者ギルドがあるみたいなので、そこで冒険者の登録を済ませようと思う。
 とりあえず日銭を稼ぎたい。

 生活にある程度の余裕ができたら、各地を旅するつもりだ。
 以前からしがらみのない自由奔放な生活に憧れていた。

 異世界召喚されたのを機に、それを叶えてもバチは当たらないだろう。

 あとガチャを回すための資金だ。
 これは絶対に忘れない。
 最重要事項と言ってもいい。

 この能力を積極的に発揮しなければ、俺は生きることすら困難なのだ。
 むしろ生活費を削るくらいがちょうどいいんじゃないかな?

 地球にいた頃、ガチャ欲に屈して財布を緩めた結果、一カ月くらい水ともやしで過ごした時期もあったし。
 こっちでも同じくらい頑張って回さないと。

 ちなみに現在持っているガチャアイテムはこんな感じである。

【N 痺れ団子】×1
【N 薬草】×3
【N 唐辛子】×1
【N 矢束】×1
【N 毒草】×2
【N じゃがいも】×4
【N 毒消し草】×3
【N 木の剣】×1
【N 石炭】×1
【UN 魔力回復薬】×2
【UN 治癒薬】×2
【UN テレパシー】×5
【R 雷の杖】×1
【R 炎の杖】×1

 お世辞にも上々とは言い辛いラインナップだ。

 出費を考えるとどうしてもね。
 ほぼ確実に赤字です。

 まあ、いくら後悔したところでガチャの結果は変わらない。
 これらのアイテムを有効活用していこう。

 色々と決心して歩いていると、魔道具屋という店を発見した。

 魔道具とは、その名の通り魔術に関する道具のことだ。
 幅広い定義なので、俺も詳しくは知らない。

 本来なら俺には無縁の場所だが、今はちょっと事情は違う。

「ここで杖とか売れるかな……」

 ガチャで当たった雷の杖と炎の杖。
 この二つを売却することで、新たな資金に換えておきたかった。

 どうせ使い道のないアイテムだ。
 亜空間に入れっぱなしにしておくより、財布を潤すのに役立ってもらう方がいい。

 即決した俺は、勇み足で魔道具屋に踏み込んだ。
 そこで魔術師的な色っぽいお姉さんと値段交渉を行い、二本の杖を一万二千ゴールドで売却する。
 俺には価値がイマイチ分からないけど、それなりに良い品だったようだね。

 近くの噴水広場に移動した俺は、適当な場所に腰かけた。
 ここなら通行の邪魔にならないので落ち着ける。
 俺は澄まし顔でつぶやいた。

「よし、ガチャを回そう」

 臨時収入は即課金だ。
 ここで十連を回さなければいつ回すのか。
 謎の義務感に駆られながら、俺はチート能力を使用する。

 ――異世界十連ガチャ、起動。 

【N バックパック】
【N ナイフ】
【UN リボルバー拳銃】
【N 木の丸盾】
【N 石の斧】
【UN 拳銃の弾】
【N おにぎり】
【N 双眼鏡】
【UN 命中率上昇】
【R 発火能力】

 ――以上。

 良い。これは非常に良いぞ。
 レアリティ―こそ低いが、有用なアイテムが多い。

 特に銃火器が出てきたのは驚きだ。
 しかも、弾もセットとは。

 リボルバー拳銃は、装弾数六発のシングルアクションである。
 西部劇なんかに登場しそうなフォルムだ。

 ご丁寧にも取り扱い説明書まで付いてきたので、使い方はおそらく問題ない。
 こいつは素晴らしい。

 弾は紙箱に入っており、合計三十発だった。
 決して無駄遣いできないものの、かなり頼もしいね。

 UNの命中率上昇とRの発火能力は使い捨ての特殊能力だ。
 前者は攻撃時の命中率を一定時間上げてくれる。
 後者は任意の物や場所を燃やせるらしい。

 亜空間リストに加わった新たなアイテムを見て、俺は悪役のような表情でほくそ笑む。

 ふふふ、今のガチャで装備がかなり充実した。
 過信はできないが、これならモンスターとも多少は戦える。
 やっぱり十連は最高だぜ。

 その後、冒険者ギルドで登録を終えた俺は、さっそく薬草採取の依頼を受けて町を飛び出した。

 ◆

 町から徒歩一時間ほどの距離にある森。
 その中を俺は彷徨っていた。

「うへぇ、もう疲れた……早く帰りてぇなぁ」

 無意識のうちに弱音を吐いてしまう。
 だって、こんなに過酷だとは思わなかったんだよ。

 鬱陶しいほど生えた雑草。
 顔に張り付くクモの巣。

 ぬかるんだ地面。
 我慢ならない蒸し暑さ。

 他にもたくさん不満を挙げられる。
 それだけ劣悪な環境なのだ。

 俺の不快指数が急上昇するのも当然だろう。

「ったく、コンクリートジャングルが恋しいな畜生」

 ギルドで受けた依頼は、このエリアにある薬草の採取。
 薬草のイラストを見せてもらったが、青白いタンポポという感じのビジュアルだった。
 さっさと持ち帰ってガチャの金を貰おう。

 余談だけど、現在の俺はCランクの冒険者である。
 ギルドの受付のお姉さんに言われたんだよ。

 Cランクは新米。
 Bランクは中堅。
 Aランクは天才。
 Sランクは怪物。

 要はランクが高いほど、強い冒険者だと認められているわけだ。
 まあ、一般人が努力して辿り着ける限界はだいたいBランクらしいので、俺もそれくらいを目指そうと思う。

 何事もほどほどが一番だ。
 無理な高望みは、己を壊す原因にしかならない。

 というか、俺はガチャを回す分を稼げればそれで満足である。
 わざわざ危険に飛び込むのは嫌だね。
 王城から速攻で逃げ出した俺の実績を舐めないでほしい。

 さて、木々の間をしばらく進むと、少し開けた場所に出た。
 窪んだ地面に湧き水が溜まって、その周囲には様々な種類の花が咲いている。

「ここならあるんじゃないのか?」

 俺は屈みこんで花を掻き分けていく。
 これだけ色とりどりの植物が揃っているのだから、青白いタンポポくらいあるだろう。

 半ば躍起になって探していると、あった。
 意外とたくさん生えている。

 まさか、こんなに早く見つかるとはね。
 ギルドで確認したイラストとも合致する。
 間違いなく依頼の薬草だ。

「いいねぇ、ツキが巡ってきた。こりゃ安泰だな」

 俺は上機嫌に笑いながら薬草を次々と毟った。
 それらをガチャアイテムのバックパックに放り込んでいく。

 帰還して査定してもらわないといけないが、この量だと三千ゴールドは固いはずだ。
 もうちょっと粘って探索してみてもいいかもしれない。

 バックパック内のタンポポを笑顔で眺めていると、背後でガサリと物音がした。
 俺は素早く振り返りながら、腰に吊るしたリボルバー拳銃を構える。

「おっと、こいつは……」

 俺は苦い顔で呻く。

 草むらから現れたのは、緑色の肌をした人型のモンスターだった。
 粗末な腰巻に木製の棍棒。
 身長は子供くらいの高さしかない。

 顔はかなり不細工である。
 尖った耳と大きな鷲鼻が特徴で、真っ赤な目は敵意を湛えて俺を睨んでいた。

【第2話】
「不運な勇者はガチャ課金厨 ~金はないけど十連回す~」第2話|結城からく (note.com)

【第3話】
「不運な勇者はガチャ課金厨 ~金はないけど十連回す~」第3話|結城からく (note.com)

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