花
お義母さんから花の写真が送られてきた.
花のことをあまり知らないからこそわかるが,妻の好きな,あの花だ.
息子の誕生日のお祝いに.
手が空いた午後に見た短い動画の中では妻が息子の名を呼ぶ.息子が笑う.
目を細くして笑う顔は妻に似ている.まるであの日のようだ.
久しぶりに連絡がきた.青い花の名前の女性.
僕は妻と息子を,彼女は親友を亡くしていた.
甘い声と,子供のような素直さが妻に少し似ていた.
息子の誕生日を覚えていてくれて祝いの言葉をくれた.
忙しくもつつがなく過ごしているようで安心した.
孤独と喪失とへの寄り添い方が僕と似ているように思う.
もう一人,白い花の名前の女性のことを思い出した.
僕が何年も前に担当した,若い女性の患者さん.
退院した後も会いにきてくれて,よく話した.僕に対しての恋心を少なからず感じた.
彼女とそのお母さんを通して,親子というものやそこにある愛情を見ていたように思った.
それは妻と結婚するより前のことであったが,今そのことについて感謝を伝えたくなった.
全部話して慰めてもらいたいとも少し思った.
それ以上に,僕のことなど忘れていてほしい.
どうか幸せでいてほしい.
鈍い日差しが肌を差す.
ビルの間を抜ける風はまだ冷たい.
春の花の蕾が膨らむには,まだかかりそうだ.
この季節の先も,ただ寄る辺のない日々が待っているのだろう.
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