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もしもの世界

息子が生まれたのは,春が近い晴れた冬の日だ。
それから過ごした一つの季節は,短い永遠であった.
ちょうど二年前になる.

去年は近所の本屋で絵本を買った.
妻の指輪の箱と同じ色の小さな本.一歳では難しかったかもしれないが,二歳なら少しわかるかもしれない.
失くしたものが〝もしものせかい〟にあるならば,僕のそれはあまりに大きいに違いない.
義母からプレゼントが届いた.小さなうさぎの家族の人形.お菓子. 息子の前に並べて置いた.うさぎの子と母と父が仲良く並んだ.

 今年もプレゼントを考えている.
この感情に名前はない.

誕生日おめでとう,と言葉にするのに心にあるのは後悔に近い空白だ.
季節が一つ一つ落ちてくる度,姿を変えてしまうし,名前をつけるのに失敗してばかりだ.

泣くとしたら懐かしんでいるだけで.懐かしんでいるといるとしたら彼を,というよりもその時の僕自身の愛情についてのようにも思う.
慣れてしまいすぎて,かなしいのとは少し違っていて.

白い箱を抱き上げる.まもなく二歳になる君を想う.
もうすっかり歩けるのだろう.言葉もいくつも話せるのだろう.
何がすきで,何に喜ぶのだろうか.
強く,強く抱きしめる.たまにはパパの抱っこでも良いか.
僕の中の息子は,もうずっと小さい赤ちゃんのままだと思っていた.
見たこともない二歳の君の姿を,僕はなぜ知っているのだろうか.

瞬くと落ちる滴は空を映していた.絵を描くこともできそうだった.
やわらかい肌に初めて触れたときの熱は今も残っている.
言葉だけと知りながら共に生きることを想像してみたことを,忘れずにいられるだろうか.

誕生日おめでとう.もうすぐ君の誕生日だ.

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