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【グラジオラスの花束 〜無言の宇宙〜「上村莉菜」】8話


文化祭当日。

『今日は文化祭当日!よく俺の脚本に着いてきてくれたな.....特に永田と上村!最後の最後まで表現に悩んだと思うが今のお前たちからは強いオーラを感じる。大いに表現を爆発させてこい!』
「はい!」「はい.....!」

先輩達にとって今日が最後の部活動。
特に監督の部長はこのまま演劇の世界に入っていくため今後、今日が重要な日になってくる。

「はぁ....」
「上村さん大丈夫?」
「緊張して吐きそう......」
「大丈夫じゃなさそうだね....笑」
「永田くんは緊張してないの?」
「してるしてぐっ.....さっきから口が回らなくて笑」
「『してぐっ』?笑笑」
「あ、やっと笑ったね🙂」
「え?」
「ここ最近笑顔見てなかったからさ。笑うと緊張とれるよ」
「そうなんだ.....」
「自論だけど.....笑」

『Ladies & Gentleman!!ー』

ーーーーーーーーーーー

演じてる瞬間が好きだった。
私じゃない誰かの気持ちを知れるから。
人の気持ちを読むことが苦手な私にとって、演技は人の心を知る唯一の手段だった。
そんな私でも亮くんは好きになってくれた。
愛してる、必要だと言ってくれた。

それなのに.....。

『キャー!!!』
『ウォオオオ!!!』
『うそ!!ほんとにしてる....!?』
『え、やばいやばい!!』
『まじ!!?』
『え、大丈夫なの!?』

気が付いたら、目の前に永田くんの綺麗な顔があった。

「......ごめん、きっと今じゃないんだろうけど」
「......」
「あまりにも渚が可愛くて.....」

違う.....これは演技だ。
私じゃなくて渚であって、ちゃんと世界にのめり込むんだ。

「..............優人」
「今までごめんね......ちゃんと話をする事を諦めてたんだ.....」
「違う.....優人違うの......私が話を聞かなかったせいで」
「お願いだから泣かないで.....何にしたってどっちだけが悪いなんて事ないよ」
「.........」
「今の僕達ならきっと2人で乗り越えられるから、乗り越えるから!」
「.........うん」
「渚!!」
「優人......!」
『こうして彼らは永遠の愛によってー』

ラストの映像のため暗転する刹那、客席に居た亮くんと目が合う。
映像に反射して視えるその眼は、たしかに涙を浮かべて哀しい眼をしていた。
1人動くそれを隣に座っていた女の子が追いかけていく。

演技なのかそれとも哭恋の始まりか、追い駆けようとした私を止める手があった。

「だめ。行かないで。お願いだから」

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