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【グラジオラスの花束〜無言の宇宙〜「上村莉菜」】10話


講堂に戻るとそこには誰が見ても仕事が出来そうと判る出で立ちの女性が居た。

「あぁ!貴方が上村さんね?」
「はい.....?」
「失礼したわ。私はFind recordの鈴木です」
「Find record!?なんで.....」
「貴方と永田くんをスカウトしに来たのよ」
「スカウト......」
「たまたま息子の文化祭に来てみたらまさかこんな所に原石が居たなんてね」
「ちょちょっと待ってください......色々あって頭が追いついてなくて.....」
「そう.....まぁ高校生ならそんなもんか。分かったわ」
「すみません.....」
「とりあえず名刺渡しとくわね。それと永田くん」
「はい!」
「さっき伝えたオーディションにぜひ上村さんも連れてきなさい」
「.....分かりました」
「じゃあまたオーディションで👋」
「はい!」「はい.....」
『........おいおいおいおい!!お前ら良かったな!!!ずっと夢だったもんな!!』
「いえ、部長の脚本が良かったんですよ」
『何言ってんだ、それに命を吹き込んだのはお前たちだろう?脚本は役者が居てこそだ』
「.....ありがとうございます」
『上村、お前はどうするんだ?』
「そうですね.......」
『......まぁオーディションまでは時間があるし、よく考えるといいさ。将来の事なんだ、そう簡単に答えは出ない』
「はい......」
『よし!じゃあ備品とか片付けて席に戻るぞ!』
『はい!』

そのまま私たちの文化祭は本当に色んな事が起きて終了した。

『高校生最後の文化祭!!本当にお前たちのおかげでいい思い出になった!なんにも後悔はない!!』
「ありがとうございました.....部長には色々とお世話になって.....」
『あぁそうだな!俺はお前たちが誇らしい!!この先ずっと自慢するだろうよ』
「部長.....」
『じゃあ解散!!頑張れよ!!』
『ありがとうございました!!!!』
「上村さん......大丈夫?」
「良かったね夢....叶って」
「まだスタート地点に立つ権利を貰っただけだよ」
「そうだね.....」
「それで.....内村くんは?」
「.......話はしたよ」
「ごめん......僕が勝手な事をしてしまったばっかりに」
「謝らないで.....あの時私も前の永田くんと同じような感覚になってた」
「『憑依』?」
「だから永田くんがせずとも私がしてたと思う」
「.....ごめんね気を遣わせて」
「ほんとの事だから.....」
「.....オーディション、来週の土曜日なんだけど」
「.......」
「もし来るなら連絡して.....一緒に行こう」
「分かった」
「じゃあ僕は寄るところがあるから」
「うん......じゃあね」

演技とはいえ人前で永田くんとキスをして、それを亮くんに見られて、追いかけたらそこで亮くんは後輩の女の子とキスしてて、芸能事務所の人からスカウトされて。
色んな事が起こりすぎて私の頭はパンクしそうだった。

「莉菜!」
「亮くん....」
「一緒に帰ろう」
「.......うん」
「それで......スカウトって」
「.......私どうしたらいいかな」
「.......」
「もう分かんないよ」
「.......女優になりたいって小さい頃からの夢だったじゃん」
「そうだけど......」
「.......莉菜が演劇部に入って薄々思い始めてたんだ」
「.......なにを?」
「いつかこういう日が来るんじゃないかって」
「.......ごめんなさい」
「いや、違うんだ」
「.......」
「莉菜や永田の演技を観ていて確かに感動してたんだよ。ただそれと同時に.....それを目の当たりにした時に『あぁなんて自分は余裕がないんだろう』って」
「.......」
「.......別れよう.....きっとこの先僕が足枷になってしまう」
「嫌だ」
「莉菜は演技の道に進むべきだ」
「嫌だよ」
「それにこの世には僕以上n」
「そんなこと言わないで!!」
「.....」
「......居ないよ.....亮くん以上の人なんて」
「.....」
「............決めた。私は亮くんと一緒に居たい」
「でも......」
「別に夢は女優だけじゃないから」
「だって小さい頃からずっと」
「亮くんと別れたってまたどこかで傷つけてしまうくらいなら亮くんと幸せになりたいって思うのは傲慢かな......」
「莉菜......」
「だから.....別れようなんて言わないでよ.....」
「ごめん.....」
「.....帰ろう」
「あぁ.....」

久しぶりに一緒に帰った私たちは以前の私たちとは少し違った。
話しこそしなかったけどきっとお互いこの空間に尊さを感じていた。

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