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【グラジオラスの花束 〜無言の宇宙〜「上村莉菜」】6話


「次は渚の家で話してキスシーンだけど......お互いの家に行くのもなぁ.....」
「あ〜それなんだけど1度彼女と行ったレンタルスペースがあってそこなら安いし、時間も長めに取れるからいいかも」
「そんなのあるんだ〜!」
「うん、上村さんが良いならだけど」
「なにが?」
「え?いや一応男女ではあるからと思って」
「あぁ!それなら逆だよ男女として行かなきゃ渚と優人の気持ち分からないよ」
「そうだけど.....」
「一旦行ってみよ!」

ーーーーーーーーーーー

「わぁ!凄い!ほんとに部屋みたい.....」

たぶんみんなが想像するワンルームの一角。
亮くん以外の人と部屋に2人きりなのは正直不安はあるけど相手が永田くんだから安心できるところもある。
でも理由を聞かれても分からない。

「凄いよね.....上村さん、上着貸して」
「ありがとう.....じゃあ早速優人が渚の家に来るところからやろっか」
「お願いします!」
「じゃあ私はリビングで適当に過ごしてるから入ってきてね」
「うん」
「........」
「渚〜シャワーありがとう」
「ううん....雨.....止むかな.....」
「どうだろう......」
「........止んだら帰るよね?」
「もちろん」
「........」
「........渚!僕......やっぱり君のことが.....」
「やめて!!もう好きじゃないから....!!」
「嘘だよ.....ならなんでそのネックレスをまだ.....」
「これは.......」
「僕はまだ渚の事が好きだよ」
「うそ!」
「嘘じゃない!」
「じゃあなんであの日来てくれなかったの?」
「あの....日?」
「文化祭の日待ってたのに!」
「違う!あれは!」
「とぼけないで!わたし見たんだから!未宇と仲良さそうに歩いてるところを!」
「未宇?待って何の話をしてんの?」
「もういいよ......帰って!傘なら使っていいから!」
「待ってってば!」

咄嗟に掴まれた腕には思ったよりも力が入ったのだろう、つい反射的に声が出てしまった。

「痛っ.....!」
「ご、ごめん!」
「大丈夫.....」
「もう1回最初k」
「だめ!続けて!」
「......待ってよ!僕の話を最後まで聞いてよ!」
「話したくない!」
「渚........」
「........」
「........どこをどう見たか分からないけど僕は未宇を好きだって思った事はないよ」
「........」
「あの日だって僕は渚を探してたんだよ!一緒に回りたかったから!」
「........」
「でも泣いてる未宇を見つけてさすがにほっとけなくて!」
「......泣いてた?」
「テニス部の人たちと喧嘩しちゃったみたいで......」
「でも信じられない.....」
「じゃあどうしたらいいんだよ!あの日から渚と未宇も話さなくなって.....どうしたらいいんだよ....」
「........じゃあなんで未宇とキスする必要があったの?」
「キス!!?してないよ!そんなこと!」
「講堂!!!......そこでしてたじゃん」
「講堂........それってまさか」
「なに?」
「それたぶん涙拭いてただけだよたぶん!」
「........え?」
「あまりにも未宇が泣くから拭いてあげてたんだよ。未宇から聞いてないの?」
「聞いてない.....」
「どうせ聞く前に喧嘩したんでしょ?」
「うそ.......」
「嘘じゃない。僕はずっと渚が好きだよ」
「信じていいの.......?」
「未宇に聞くなりなんなりしたらいいよ。神に誓ってキスなんかしてない」
「........」
「渚.....」
「.......泣いてない」
「嘘だよ泣いてるじゃん」
「見ないで.....」

温かみで視界が覆われる。
自分のか、はたまた永田くんのか、心臓の鼓動が速くなっているのが秒針の音と共に鳴る。

「.......」
「.......」
「ごめんね.....私.....」
「大丈夫......勘違いさせた僕も悪いよ」
「優人.......」
「.......」

何も言わない彼は今、優人なのかそれとも永田くんなのか。台本にない行動に今後の展開が分からなくなっていた。
ただその刹那、視界が広がった。

「渚......涙」
「......うん」

この心臓の高鳴りがどちらなのか分からない初めての感情に思考が停止する。

そこに終止符を打たれると思わなかった。

「😳」
「......ごめん、きっと今じゃないんだろうけど」
「うそ......」
「あまりにも可愛くて.....」
「キス......できた.....ね......」
「.......うそ!!!?してた!!?」
「......え?」
「いつした!!!?」
「え、待って待ってどういうこと?」
「ストップストップ!!なにが起きてる?」
「こっちのセリフ!笑」
「.......?」
「記憶ないの.......?」
「分からない.......でもキスした記憶はない」
「え、どういうこと」
「ほんとにしたの?」
「.....した」
「うそ.....」
「.....部長に前聞いた事あるんだけど、演技をする上でよく役を憑依させなさいって言うじゃん」
「うん」
「でもごく稀にほんとに憑依させて演じる人が数人居るらしくて、その人たちは役の間の記憶が一時的に飛ぶって.....」
「憑依.....」
「ほんとの所は分からないけど、もしかしたらそれかも.....」
「それよりごめん!いきなりキスしたみたいで!!」
「いや別に私は.....」
「帰ろう......よく分かんないけど今の状態で2人きりはまずいと思う」
「そうだね.....」

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