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【グラジオラスの花束 〜恋は向いてない〜「藤吉夏鈴」】12話


「心理学的に、人間は自分と共通点を持つ相手に対してより親密感を覚えるという事が解っています」

幸村がうちに住みついて1週間経った。

「ねぇねぇ」

私の横で肘をついて授業を聞いている幸村に話しかけられる。

「なに?」
「私たちの共通点ってなに?」
「共通点?」
「うん」
「.....ある?」
「えぇ...あるでしょたぶん.....」
「そうかなぁ.....」

「また、自分に対して好意を向けてきた相手を好きになる事があります。これを『好意の返報性』と呼びます」

「『好意の返報性』.....」
「さっきからうるさいんだけど」

幸村は少し考えて続ける。

「.....高校生の頃さ」
「うん.....?」
「毎日夏鈴に好き好き言ってたけど」
「うん」
「ちょっとは好きになった?」
「.....全然」
「じゃあこの授業意味ないじゃ〜ん」
「そもそも好きって感情がどういうものかよく分かってない」
「え.....」

「なので単純に接触回数が増えれば、自然と相手の警戒心は薄れていきます」

「.....夏鈴はさ」
「うん?」
「ふとした時に頭に浮かぶ人とか居ないの?」
「ふとした時?」
「例えばスーパーで買い物してる時とかに『あ、これ○○の好きなものだ』とか」

思い出してみるものの、特にそういったことは無かった。

「.....ない...かな?」
「じゃあこの人とずーっと一緒に居たいな〜とか」

それも特にはない。

「え〜...そっちは私とか居るじゃ〜ん」
「そんなことよりもいつになったら家に帰るんですか?」
「相変わらず冷たい子だね〜」

授業が終わり、次のコマまで2人でカフェに居た。

「今日の夜ご飯何がいい?」
「ん〜.....なんでもいい」
「あ、じゃあさ」
「うん」
「たまには私の好きなもの作ってもいい?」
「いいけど」
「やった〜、じゃあ次のコマ終わったら買い物付き合ってよ」
「分かった」
「何系か当てる?」
「当てない」
「つまんない」

不貞腐れて頬を膨らませる幸村が面白かった。

「パスタ系かご飯系だったらどっちがいい?」
「パスタ系かなぁ」
「おっけー」

その日の授業を受け終えた2人は、家の近くのスーパーに寄っていた。

「アスパラと〜...え、キャベツ安いじゃん」

次々と食材をカゴに入れていく幸村をぼーっと見ていた。

「そういえば夏鈴の家ってお菓子置いてないよね」
「.....」
「ねぇ笑  また見つめてる」
「え、うそ」
「笑笑」
「ごめん」
「可愛いなぁ笑」
「それやめろ」
「で、なんで置いてないの?」
「ご飯食べたらお腹いっぱいになるから」
「あ〜そういうね」
「別に食べないことないよ?」
「お菓子、何が好きなの?」

ちょうどお菓子コーナーのプチが目に入る。

「プチシリーズとか」
「あ、私夏鈴の好きなやつ当てれる気がする」
「じゃあ当ててみて」
「しっとりチョコ」
「え.....正解」
「やっぱり〜?笑」
「こわ」
「だって夏鈴、簡単なんだもん」
「なんで?怖いんだけど」
「だって味覚一緒じゃん」

一緒.....?

「今のところ、私が作る料理に味付け足したりしないでしょ?」
「そうだっけ」
「うん、ちゃんと見てるからね〜」

幸村は私の前で指をクルクルしてくるので払い落とす。

「まぁでも確かに味薄いな〜濃いな〜はない」
「でしょ?」
「ん?じゃあ幸村もこれ好きなの?」
「うん好き」
「そうなんだ」
「いっぱい買っちゃおーっと」
「なんかよく言われるんだけど、カントリーマアムともなんか違うよね」
「そう!!そうなの!!」

急に腕を掴んでくるのでびっくりした。

「っくりした.....」
「あ、ごめん笑」
「あとチョコチップクッキーも好き」
「分かるぅ.....」
「あれさ」
「うん」
「なんか塩?入ってない?」
「そうだね」
「あれなに?」
「え?普通に塩が入ってるよ」
「あ、そうなの?」
「うん」
「あれ好き」
「これもいっぱい買っちゃおーっと」

いつの間にかカゴは食材やらお菓子やらでパンパンになっていた。

「ただいま〜」
「おかえり」
「おかえり」
「ただいま」
「すぐご飯作るね」
「私、なにか手伝おうか?」
「ん〜.....特にない!シャワー先入ったら?」

たぶん邪魔だと思われてるので大人しくシャワーを浴びてソファでのんびりしていたら、チーズのいい匂いがしてくる。

「夏鈴、できたよ〜」
「は〜い」

食卓にはカルボナーラ?が並んでいた。

「カルボナーラ?」
「うん!正解!食べて食べて」

アスパラとベーコンが入ってて黒胡椒の量も丁度良さそう。

「いただきます」
「どうぞ!」

チーズと胡椒の香り、そしてアクセントになってるアスパラのちょうどいい食感。
何もかもが美味しかった。

「.....どう?」
「めっちゃ好き...美味しい」
「ほんと!」
「うん」
「良かった〜笑 自信作なんだ〜」
「え、なんで今まで作らなかったの?」
「夏鈴、ご飯派なのかなって」
「あぁ.....そういうこと」
「次からパスタ系もいっぱい作るね」

にこにこ嬉しそうにしている幸村を見て、少し気になった。

「.....ねぇ」
「なに〜?」

なんでこんな事を聞いてしまったのか自分でも解らなかった。

「次って.....いつまで?」

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