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【グラジオラスの花束 〜油を注せ!〜「武元唯衣」】7話



武元唯衣は遠距離恋愛中の明石響介とすれ違っていた。
そんな中、自分に真っ直ぐ感情をぶつけてくれる後輩・橋本友哉に次第に惹かれている自分がいることに気が付き、ついにはデートの約束をしてしまう。
しかし、そこに響介が現れる。

「やっぱり.......」
「なんでここに......」
「なんでって.....前に週末帰ることは伝えたでしょ」

思い出した。ちょうど橋本くんに文化祭誘われた日のことだ。

「妹から文化祭がある事を聞いてもしかしたらって思って来てみたんだよ......そしたらまさか」
「待って欲しいっす」
「橋本.....」
「武元さんは結冬くんのために来ただけで俺と会ったのはついさっきっす」
「いや、いいんだそれが嘘なのは判ってる」
「......見てたんすか」
「でも別にお前が思ってるような意味じゃない」
「.....え?」
「橋本、唯衣と2人にさせてくれ」
「できないっす」
「大丈夫だから」
「武元さん....」
「....橋本くんありがとう....大丈夫だから」
「分かりました....」

陽が沈みだし空に紺とオレンジの境界線ができる中、私と響介は近くの公園に移動した。
その間、2人に会話はなかった.......正しくは嵐の前の静けさに身体が強ばっていて声が出なかった。

「久しぶりだな.......元気してた?」
「....元気だったよ」
「........たしかに元気そう笑」
「....響介は?」
「........まぁまぁかな」
「そっか....笑」
「........最近さ....会えてなかったじゃん?」
「....うん」
「....どうだった?正直でいいから」
「....寂しかったよ」
「良かった笑  そんなことないとか言われたらどうしようかと....笑」
「そりゃ寂しいでしょ....笑」
「そうだよね....」
「響介は?....正直に」
「俺は........」

口篭る彼を見て、どこが安堵してしまった自分がとても憎かった。

「........帰るまでに色々考えたんだよね」
「....」
「この前の電話の感じ....あぁたぶん唯衣も勘づいてるなって」
「そう....だね」
「というかさ....たぶんお互いにだよね?」
「....そうだと思う」
「........俺も寂しかったよ」
「....そっか」
「でもやっぱり忙しくて唯衣のことを放ったらかしてた」
「ううん....私も会うのを諦めてた部分あったから....別に方法なんていくらでもあったのにそっちに行けない理由とか探す時もあって」
「....それだってお互い様だよ」
「....」
「........」
「....1ヶ月くらい前にさ、響介がストーリーに飲み会のやつ上げてたじゃん」
「サークルのやつ?」
「そう....あれ見た時凄い寂しくて....」
「ごめん....」
「すぐ電話したら良かったのに気遣っちゃってさ」
「........」
「なんかさ....我慢できちゃったんだよね....」
「....うん」
「........」
「........大丈夫?笑」
「....ごめん笑」
「........俺もさ....あっちで生活してるとやっぱり周りの奴はすぐ会える距離に好きな人が居てさ」
「....うん」
「でも唯衣も忙しいの知ってるから.....なんか....甘えだなって....」
「........うん」
「心の奥底では唯衣だって会いたいって想ってくれてるだろうって思ってたけどなんか....確信は持てなくて」
「........」
「....今日もほんとは会いに来るつもりなくてさ」
「........」
「それでも会ったら何か変わるんじゃないかって........」
「........」
「........もう手遅れだったね」
「........」
「唯衣....」

響介は私にハンカチを貸してくれた。
私が1番最初の誕生日プレゼントに渡した物だった。

「........これ」
「....あぁ....懐かしいね笑」
「........」
「泣かないでよ....たまたまだから....笑」
「無理だよ........」
「........ごめんちょっと」

響介は誰かと電話してるみたいだったけど、私は涙を止めるのに必死で誰なのかまでは気にならなかった。

「唯衣泣かないで....」
「....響介はさ」
「うん」
「....私の事好きだった?」
「好きだったよ」
「わがままばっかりで嫌じゃなかった?」
「嫌じゃなかったよ」
「ごめんね....泣いてばっかりで....」
「そんなことないよ....」
「ほんと嫌いなんだよね....こういう自分....」
「大丈夫だからそんな事言わないで....」
「ほんとごめん....」
「....全然」

少しだけ最初の頃に戻ってた気がしたけど、その頃とは明らかに何かが違って....でもそれが何なのかまでは分からなくて....。

「唯衣....」
「....なに?」
「ちゃんと寂しいって想ってるから」
「そんなこと言わないで....寂しくなっちゃう....」
「....たぶん....たぶんというか絶対しばらく引きずるよ」
「........唯衣も」
「唯衣は大丈夫だよ」
「....なんで?」
「........それは彼が教えてくれるよ」
「武元さん!!」
「橋本くん....!?」
「........橋本」
「....はい」
「きっちり終わらせたから」
「ほんとにそれでいいんすか」
「あぁ........これ以上は俺はもう何も出来ない」
「....分かりました」
「........唯衣」
「....」
「楽しかったよ」
「....唯衣も楽しかった」
「....知ってる」

涙で霞んで見えなかったけど、手に落ちた温度の違う涙が今はもう姿が見えない響介のものだと気づいたのは後になってからだった。

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