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【グラジオラスの花束 〜油を注せ!〜「武元唯衣」】8話



「....武元さん涙拭いてください」
「あれ....?」
「さっきのハンカチは明石さんが持っていきました....これは俺のです」
「....ありがとう....ごめんね」
「何がですか」
「顔ぐっちゃぐちゃだよね....」
「そんなことないです可愛いです」
「....うそだよ」
「ほんとです」
「........うそだよ」
「どうしたら信じてくれますか?」
「何やっても信じない」
「....はぁ」

座ってた私を見下ろしていた彼は私の前にしゃがみ、顔を覗き込む。

「やだ!....見られたくない!」

制止虚しく手を退かされてしまう。

「泣いてるのを隠すために手を使うくらいなら俺の手を握ってください。どんな武元さんだろうと変わらず好きなので、好きだから今ここに居るので」

涙越しでもはっきり分かる、初めて見る彼の真剣な顔。

「....橋本くんには1番見られたくなかった」
「泣いてるとこなんか今までも見てるじゃないですか」
「今と前じゃ違うの....」
「それは俺の事が好きだからですか?」
「....分かんないよ」

悲しくて泣いているはずなのに心の奥底にいる安堵の感情。
きっと今......。

「....立てますか?」
「....なんで?」
「ずっと連れていきたかった所があるんです」

車を走らせてる間、色んな感情がぐちゃぐちゃになっていた。

「....武元さん」
「....なに?」
「スタバ寄っても良いですか?」
「いいけど....」
「武元さんいちご好きっすよね?」
「....うん」
「良かった....合ってた」
「....?」
「前言ってたっすもんね。いちご好きって」
「言ったっけ....?」
「いや....まぁ....盗み聞きっすけど」
「なにそれ....笑」
「ふっ笑  やっと笑ってくれましたね笑」

橋本くんと話していると次第と落ち着き、涙はすっかり引いていた。

『いらっしゃいませ!ご注文お伺いいたします!』
「いちごフラペチーノとコールドブリュー、どっちもトールで」
「えっ」
『かしこまりました!ご注文は以上ですか?』
「はい」
『ではお車、前にお進み下さい!』
「....武元さん前に言ってたじゃないすか」
「なにを....?」
「辛いこととかあったら好きなものを好きなだけ食べるって」
「....それも盗み聞き?」
「そっすね笑」
「変態....笑」
「武元さんの声が大きいんすよ笑」
「違うわ笑」
「....だから寄ったんです」
「....ありがとう」
「え?奢りだと思ってます?」
「え!?違うの!?」
「嘘っす笑笑  もちろん奢りっすよ笑」
「いや、いいんだけど別に笑」
「さっきまで大泣きしてた人に出させられないっすよ笑」
「うるさいな、もう泣いてないから....笑」
「ほんとすか?目うるうるっすけど」
「元からです」
「そうっすね笑  可愛くて好きっすその目」
「なんなん....笑」

それから20分ほど車を走らせ目的地に着く。

「武元さんこれ付けてください」
「なんで目隠し?」
「いいから」
「....え、怖いかも」
「大丈夫っす、ほらちゃんと手握ってるんで」

彼の手が今の自分に安心を与えてくれた。

「....ほんとに大丈夫?」
「大丈夫っす笑  信じてください笑」
「....」
「....もうちょいっす」
「....うん」
「....よし、いいっすよ取っても」

目隠しを取って最初に見えたのは水面に反射する綺麗な蒼で、奥に見える大小様々な光源が私たちを僅かに照らしていた。

「........綺麗」
「良かった笑  武元さんこういうの好きかなって」
「そんなこと話したっけ?」
「いや....これは俺が武元さんと話してて感じた事っす」
「そっか....奥のあれって?」
「あれは工場っすね」
「そうなんだ....綺麗....」
「....武元さん」

後ろから彼に包まれる。

「....武元さんって以外と小さいんすね」
「そうだよ....だからちゃんと....」
「そうっすね....」
「....ねぇ」
「なんすか」
「....唯衣って呼んでよ」
「....いいっすよ」
「唯衣も友哉って呼ぶから」
「........唯衣?」
「ん?」

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