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綾町旅日記

宮崎県に綾町という町がある。
日本で初めて有機農業を町の条例で取り入れた町だ。
それがもう50年も昔の話だと言うんだからめちゃすごい。

綾町の元綾町観光大使のときさん(28歳)に知り合ったのは9月のこと。
ぼくがものづくりが好きだって話したら、「ぜひ綾町においで!」と言ってくれた。

ぼくは他にも鹿児島とか宮崎に行きたいとこがいろいろあったから、一週間くらいかけて九州の南半周旅をすることにした。
綾町には昼について次の日の昼に出る。
滞在時間は24時間ほどの1泊2日プランだ。

まずは待ち合わせの手づくりほんものセンターに向かう。
裸足のときさんが、ベンチに座って巻きタバコをすっていた。
彼はどんな時でも裸足だ。

ここ、ほんものセンターは、道の駅の0号店だと教えてくれた。
道の駅ではないんだけど、道の駅の社長さんがここを見に来て、これを全国につくろう!ってなった。
道の駅のモデルみたいな場所らしい。

昔、郷田さんという町長さんが、綾の町民に対して各家庭なにかひとつは作物を作ろうという条例をだしたらしい。
それも有機農業で。
そして町民同士でほしい野菜を分け合った。
そのときたくさんできた野菜は、このほんものセンターに並べて、町外の人も買いにこれるようにしんだって。

ちなみに、50年前は有機農業って言葉すら出回ってない時代。
だから郷田さんが推奨したのは正しくは自然生態系農業というらしい。
郷田さんは森からヒントをもらって、その農法に辿り着いた。
森では農薬や化学肥料がないのに植物が元気に育ってる!というところに着目したのだ。

郷田さんは森をすごく大切にした人だった。
当時、日本中で山の木を切って人工林にしていく動きがあったけど、郷田さんは頑固に綾の自然林を守った。
2012年に綾の自然林は、ユネスコエコパークに登録された。

そんな話を聞きながらお昼ご飯のお店に向かった。
なんと、そのお店は郷田さんの娘さんが営んでいる薬膳料理のお店らしい。
その方はみっこさんという、おばあちゃんという言葉が似合わないほど元気なおばあちゃんだ。

みっこさんは若い頃は、強い考えをもっている父に少し嫌になっていたらしい。
それで薬剤師の母の後を継いだ。
それから健康について学んでいくうちに、腸内環境は森の土の中の環境だ!ということに気づいて、父を見直したという。
父とは違う方向から、森に辿り着いていておもしろい。

そんなみっこさんのお料理は、五味調和を大事にした薬膳料理。
栄養バランスも大事だけど、味のバランスも大事だよっていうもの。
この臓器には酸っぱいもの、この臓器には甘いもの、というふうに決まっていて、それを考えて料理をするんだって。

品数の多さにびっくり!

ご飯の後はみっこさんの2人の息子さんとも少しだけお会いすることができた。
コーヒーを奢ってくれた。
「お金が全てではないけど必要だから、賢く頭を使ってひとつ落としどころを作っておく。そういうビジネスプランを立てておくことは大事だよ。」
と教えてもらった。

それからときさんが綾城に連れて行ってくれた。
そこに若い陶芸家さんと機織りのおじいさんがいるらしい。
陶芸家さんは24歳だった!
年が4つしか違わないのに、自分の道を決めて歩んでいてかっこよかった。

その隣の部屋で機織りをしているげんたさんというおじいさんがいた。
これもまたおじいさんというには元気すぎるおじいさんだ。
ぼくがものづくりに興味があるというと、
「ものづくりは何と遊ぶか。糸と遊ぶか、土と遊ぶか、木と遊ぶか。」
と言った。
ものづくりは遊びだ!

奥さんがお茶とおやつを差し入れてくれた。
そして大量のみかんをいただいた。
田舎に行くとよくある、たくさんあるものを分け合う文化、いいよね。

げんたさんが「うちのお隣さんが新しく窯を作ったから見に行くといいよ」と教えてくれたから、ぼくとときさんはそこに向かった。
ついてしばらく待つと、軽トラに乗ったオーバーオールをきたおじいさんがやってきた。
隣に大きな犬が乗っていた。
志村けんかと思った。
正しくは大原さんという方だった。

大原さんは窯を見せてくれた。
立派だけどどでかくはない穴窯だ。
「俺、これくらいが一番合ってると思うんだ」
と言っていた。

それからギャラリーを見せてもらった。
なんだかいろんな作品があった。
器は白い磁気もあれば土ものもあったし、タイルもあったし、飾りとかもあった。
そして異様な存在感を放つでっかいカバの顔。

ふと後ろを見るとちっちゃいカバもずらり。

なかなかにかわいい。
大原さんは言った。
「俺、カバがすきなんだよなぁ」
ちょこちょこ決め顔で決め台詞っぽく言うのがたまんない。
「いつかこれを畳2畳分くらいに突き詰めるんだ。数があると説得力があるんだよな。」
と言った。

本当にカバが好きらしい。
大原さんはどこからかカバの本を取り出して、カバ話をはじめた。

そこまで力説されると大原さんのカバほしいなって思った。
そしたらときさんがひとつぼくに買ってくれた。
それとコップも。
帰り際に大原さんは決め顔でぼくにこう言い放った。
「おかしなやきもの屋になってくれよ。上を目指してさ。」
ぼくまだ陶芸家になるとは言ってない。

ときさんは自分にもひとつコップを買った。
初めて自分で陶器を買ったらしい。
「このコップを使うたびに大原さんとゆうきのこと思い出せるから、いいよね」
って言ってた。
いいね、そういう買い物。

日が暮れてきた。
今日は森で寝るかということになった。
その前に、誘ったら来るかもしれない人がいるからということである人のところへ。
町のはずれの一軒家についた。
なかからでてきたのは22歳?のあゆむさん。
何ヶ月か前から綾にきて、ワインを学んでいるという。
彼も一緒に森に行くことになった。

焚き火を焚いて鍋でもしようということで、スーパーに買い出しに。
たくさん野菜を買った。
あゆむさんの綾ライフがあと3日くらいで終わるということで、贅沢な霜降り肉も買った。
これを石で焼くんだ!

ぼくたちは森の奥のキャンプ地に向かう。
綾の森の山奥だ。
道の途中でいろんな動物が出てきた。
そして誰もいない真っ暗な森についた。
動物はたくさんいるけど。

ぼくたちは誰になんと言われることもなく、各々が薪を運んできたり食材を切ったりと、鍋に向けて準備をした。
ここ最近晴れが続いていたこともあって、あっという間に火がめらめら。

鍋もできた。
なかなかなチームワークに乾杯。
塩と醤油で味付けしたシンプルなスープに、野菜と鶏肉の出汁が滲み出ている。
これ以上おいしい鍋はない。
キャンプ飯ってなんでこんなにおいしいんだろう。

そして高級なお肉を焼く。
ときさんが裸足で真っ暗な森の崖を降りて川から取ってきてくれた石をあつあつに熱する。
ジューっといい音、いい匂い。
うまい。
どんな一流シェフの腕にも敵わないものがあった。
最高の夜だった。

ときさんとあゆむさんは地面の上にマットをひいて、ぼくは車のルーフテントで寝た。
ぐっすり眠って朝になった。
さあ滝行だ。
ときさんがよく行くという滝行。
この日はせっかくだからぼくとあゆむさんもさせてもらうことにした。
車を少し走らせて滝に到着。

きれいな滝だ。
まずはお酒をお供えする。
と、その時、ときさんの手からコップが滑って割れた。
昨日初めて自分で買ったというあのコップ。
短い命であった。

滝行はひとりずつ。
あゆむさんが一番手、それからときさん、ぼくは一番最後。
上着を脱ぐだけで寒いのに、今から氷水のようなキンキンの水に入るなんて、想像しなくても寒い。
服を全部脱いで、お参りをして滝壺に入る。
ここまできたら躊躇しないほうがいいと思った。
寒いなんて感情はなかったことにしろ!と自分に言い聞かせてズカズカと入っていく。
無になるんだ。
ゆっくり呼吸に集中だ。
そう思って滝の下へ向かった。

現実は甘くなかった。
それは寒いとかのレベルじゃなかった。
なぜか呼吸が浅くなる。
過呼吸になってしまう。
もはや寒いというより恐怖に近い感覚なのかも。
あゆむさんやときさんほど長くはできないかった。
たぶん30秒くらいで上がった。

ときさんが
「上がった後に石に座るのいいよ」
と言うから座ってみた。
確かに、不思議な感じがした。
身体中にぐわーん、ぐるぐるーとなにかが動いてるみたいだった。
そしてぽつんと石の上にぼくが乗っかってるという感覚だった。

それからときさんとあゆむさんは仕事に行ったから、ぼくはひとりで森を歩き。
ときさんおすすめの川中神社まで行った。
車が入れない森の中の小道をゆっくり歩いた。
森が生き生きしていて、なんだか神秘的だった。
これが綾の森か、という感じだった。
そしてゆっくり歩くこと20分ほどで神社についた。

こんなところにぽつんと一軒家みたいな場所だったけど、説明を見ると結構歴史のある神社のようだった。
お参りをして戻って、次は綾の一大観光名所、大吊橋に行った。

でかかった〜。
高かった〜。
鳥になった気分。
とても不思議だったのが、吊橋ですれ違った人たちはみんな、挨拶をしても返事を返さなかったこと。
3人くらいの人に笑顔でおはようございます!って言ったのに無視された。
吊橋が怖くてそれどころじゃなかったのかな。
そういうことにしておこう。

橋の所に森の資料館みたいなのがあったから入ってみた。
「日本で最も美しい村」連合のポスターをじっくり眺めた。
綾町も入ってるし、ぼくが知ってるいい村もいくつか入ってた。
でもほとんどまだ知らない村。
いつかこれ全部訪問したいなって思った。

それからまた綾城の機織りのとこに行った。
「20分くらいあればマウスパッドくらいのが織れるから明日時間があったらまたおいで」
って昨日言ってくれてたのだ。
さっそく初めての機織り開始。
糸を通して踏んでガチャガチャ。
慣れれば単純な作業だ。
みるみるうちに線が面になっていくのがおもしろかった。

全部織り終えてみると、耳(両端のライン)が真っ直ぐじゃなかった。
だんだん力が入っていったということだ。
最初の一枚は性格がよくでるんだと。
げんたさんは
「縦の糸はかくありたいという思い。そこに横の糸、日々の行動を織っていくんだ。」
と教えてくれた。
いい思い出がまたひとつできた。

せっかくだから綾城もちらっとみにいった。
元々の天守閣は壊れて無くなっていたけど、何十年が前に町長の郷田さんが綾の大工さんを集めて、昔の綾城を再現して建てたらしい。
当時は木造で三階建の建物を作るのは法的に引っかかっていたみたいだけど、
「あったものを作るだけだ」
と言って作ってしまった。
そしたら後から建築法が変わったらしい。

三階まで登って綾の町を見渡すことができた。

この後は、最後のお昼ごはん。
仕事から帰ってきたときさんと合流して、ときさんの仕事仲間のかっちゃんという人の奥さんが営業しているランチを食べに行った。
この日程で綾に来たのはこのランチを食べるため。
ぼくが楽しみにしていたごはん。
わくわく。

おいしそーーーう!
高野豆腐のハンバーグとか、里芋のグラタンとか、さつまいもの甘酒ポタージュとか。
最高にぼく好みのごはんで幸せ。
ぼくも料理が好きだから勉強になった。
おいしかった、ごちそうさま!

帰る前にぼくにパンをプレゼントしてくれた。
これで綾の旅はおしまい。
短い時間だったのにすごく濃かった。
いろんな人に会わせてくれたときさん、本当にありがとうございました。
来月末は綾で工芸祭りがあるらしい。
行きたいな〜。

さっき、家に帰っていただいたパンを食べたよ。
めっちゃおいしかった。
チーズ乗せて焼いたんだけど、チーズ乗せるのがもったいないくらい、パンの味がおいしかった。

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