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2020年、待機児童はどうなったか。厚労省の資料を元に分析してみた。

ほづみゆうきです。「毎年9月といえば待機児童数だよね!」というくらいに認知が歪んでいる待機児童問題ウォッチャーです。例のごとく、2020年4月時点の待機児童数が厚労省から発表されました。4月時点では12,439人。昨年から4,333人減少しています。今回は、こちらの厚労省の発表から読み取れることについて書いていきたいと思います。

全体としては減っているが。。。

まずは全体として、待機児童は減っています。以下のグラフを見ると分かるように、直近の4年で見ると右肩下がりになっていることが分かります。

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しかしながら、すでに報道で言われていますが「減ってて良かったね!」という話ではありません。まずは政府目標。政府は「子育て安心プラン」で目標として2020年度末に待機児童ゼロを掲げていました。今年何年でしたっけ?いつになったら「安心」できるんでしょうか。

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ないなら作れば良いのか?

まだ待機児童が出ているのであれば、もっとたくさん保育園を作ろうぜ!ということになるのがシンプルな回答です。しかし、必ずしもそれでは解消しないというのが難しいところ。全国レベルで見れば、すでに保育園の定員数は前から利用している人の数よりも多くなっているのです。

以下の表は厚労省の発表資料の一部。定員に対しての利用者数の割合である「定員充足率」は2018年時点で93.4%、年を追うごとに下がっていて今回は92.2%。要するに、すでに全国で見ると余っているのです。この余っている定員は結構大きな数字で、2020年4月でおよそ23万人分。つまり全国というレベルで見ると待機児童の数の10倍以上、定員数は余っているのです

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このような状況で利用できない人がいるということは、利用したい人の近くに利用できる施設が存在しない、足りないというのが今起こっている問題です。東京の待機児童をたとえば青森の保育園に預けるわけにはいかないわけです。したがって、手当り次第数を増やせば良いというわけではなく、必要なところに必要なだけ作るということが求められているわけです。

一部の自治体の問題になりつつある

ということで、この問題のボトルネックは国ではなく個々の自治体となっています。自治体ごとに意欲のあるところでは解消しており、そうではない自治体ではいつまで経っても解消しないというのが厳然たる事実です。

この点をよく表していると思うのは、厚労省の資料にある「待機児童が100人以上いる自治体」の数。2020年度はたったの22。これまでどうだったのだろうと振り返ってみたのがこちらのグラフ(厚労省の過去データを元に作成)。

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そして、この22の自治体だけで4169人、全国の待機児童数のおよそ1/3を占めています。個々の数字が全体の割合にどの程度を占めているのかについて表す、いわゆるパレート図も作ってみました(初めて作ってみたら、思ったよりも苦労しました)。

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横軸は1741の全国の自治体、青の棒グラフは待機児童数(縦軸左)、赤の線グラフは待機児童数を積み上げた割合(縦軸右)です。上位のわずかな自治体で待機児童数全体の大半が占められていること、多くの自治体では現時点でもすでにゼロであることがひと目で分かります。

結局、自治体がどこまでやる気があるのか次第

それでは、待機児童を大きく減らしている自治体、増えている自治体とを分ける要素というのは何なのでしょうか。今回の調査から読み取れる結果は、単純ながら明確な答えです。待機児童を減らしている自治体は、定員数を大幅に増やしています。

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当たり前といえば当たり前ですが、待機児童が高止まりしている区では定員の増加割合が低いことが分かります。例えば上位の江戸川区、中央区、墨田区。いずれも10%以下の定員増。定員は増やしているものの、他の区に比べるとその数が少なく、そのために待機児童の数が減っていない(むしろ増えてる!)のです。

その反面、こちらも当たり前ですが増加の割合が高い区は待機児童が減ってます。今回顕著であったのは文京区、千代田区、目黒区。大きく定員を増やしたことにより、ゼロ達成もしくは大幅減を実現しています。豊島区などは増加割合は低いもののゼロ達成。

定員を増やせば待機児童は減る、結局は自治体がどこまでやる気次第かどうかということなのです。

国に求められるものは何か

自治体次第というのは、国は関与しなくて良いということではありません。政府目標として掲げているのであれば個々の自治体がもっと真剣にこの問題に取り組むよう働きかけていくことは必須です。上に書いたとおり待機児童が100人以上いる自治体はたったの22。これだけであればヒアリングに赴くというのも不可能ではないでしょう。その上で、国レベルで実現すべき内容があれば積極的に取り組んでいくことが求められます。

すでに全国各地にはゼロを成し遂げた自治体が多々あるので、成功事例を共有するというのも大きな役割ではないかと思います。たとえば、世田谷区では区内の土地所有者に保育園の用地を貸してもらうよう依頼の文書を送る、物件の賃貸料を補助するといった先進的な取組みを多々実現させ、今年度ついに待機児童ゼロを実現しました。こういった取り組みを周知・拡散することによっても問題解決を目指すというアプローチだってあるのではないでしょうか。

これは個人的にも期待しているところです。わたしが住んでいる中央区は今回の調査でも上位に食い込む有数の保育園に入りにくい自治体で、自治体に対して今後何かしら具体的な取り組みを行うよう何らかのアクションをしようとしているところです。その前段として全国の取り組み事例を収集しているのですが、公開されているものの多くは古く、最近の取り組みはweb上には見つからないというのが現状です。先進事例の収集と広報は、住民側からの問題提起という方向性にとっても有効です。

最後に

例年この問題を負い続けているわけですが、今後の待機児童はどうなるのでしょうか。最近の自民党総裁選では菅候補が待機児童に終止符を!と主張されているようです。おそらく今後も待機児童数は減り続けるでしょう。これはあまりポジティブな理由ではなくて、子どもの数が減っているからです。今回の厚労省の2020年4月時点でわりと衝撃だったのが0歳児人口の減少。推計ではあるものの昨年と比較して4.8万人も減少しているのです。

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「1,2歳児」、「3歳以上児」と比較してもこの減少幅は明らかに大きくなっています。いくら女性の就業率が上がり続けるにしても、子どもの数が減れば自然と待機児童はいなくなっていきます。

とはいえ、このような解決はあまりにも悲しすぎます。まずは必要十分な保育サービスが提供されること、そして安心して子どもを生むことができるようになり出生率が向上、さらには女性の就業率も上昇するということとセットでこの問題は考えなければなりません。新たな首相にはこのような対策を期待したいところです。

補足事項:待機児童数は実態を表しているのか?

今回は厚労省の待機児童の数字を元に記事を書いてきましたが、この数字自体が実態を表しているのかという議論はあります。実際には保育園に入ることができていないけど、「待機児童」として扱われない人たちがいるからです。たとえば保育園には入れなかったけれども育休中である場合には待機児童としてカウントしなくて良いことになってます。「隠れ待機児童」という言い方をされることもあります。

この問題は、待機児童の本当の実態が明らかにならないということです。これは、待機児童とこの隠れ待機児童のカテゴリ別の割合を東京23区で出してみたグラフです。ここから着目していただきたい点は、個々の区の割合ではなく、区によってカテゴリごとの割合が大きく異なっている、という点です。

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このそれぞれごとの確認方法は調査要領という形で基準は示されているものの、その判断は自治体に委ねられています。つまり、保育園に入れなかった家庭があったとしても、それを待機児童としてカウントするか、育休中や特定園希望と判断してカウントしないかは自治体任せになっているわけです。そして、その結果として上記のグラフのようにある程度条件が均一であるであろう東京23区においてもその割合は区によって大きく異なっているのです。

実際問題、待機児童数を減らせという圧力はあらゆるところから来ているでしょうから、このような小手先のテクニックで数を意図的に矮小化するという取組みは多かれ少なかれ行われていることでしょう。このようなことを排除するためには統一的な基準の確立が不可欠です。


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