なんで子どもだけプレミアム付き商品券が買えないの?購入にあたっての年齢制限の妥当性について検証してみた
ほづみゆうきです。本日はプレミアム付き商品券について考えてみます。プレミアム付き商品券とは、たとえば1万円払うと1.2万円分の商品券が手に入れられるという政策で、多くの自治体で実施されています。この政策について考える発端になったのは以下のツイート。
これは、区議会議員の高橋まきこさんによるハッピー買い物券の件に関するつぶやきで、買い物券の購入対象が「16歳以上」となっているのはおかしいのではないかということでした*1。わたしも子どもが2人いますが16歳未満なのでこのルールに引っかかっており、あくまで購入できるのはわたしと妻の分だけ。これまでこのことを恥ずかしながら意識することはなかったのですが、高橋さんのこの発言を受けて議会でのやり取りを聞く限り、やはりこのルールはおかしいのではないかと考えるようになりました。その問題点と他の区の状況、その上で今後どうあるべきかについて書いていきます。
中央区の年齢制限に対するスタンスは?
議会でのやり取り
まず、そもそもの議会でのやり取りを確認することから始めます。他にもあるかもしれないのですが、令和2年(2020年)に行われた2つのやり取りを取り上げます。
高橋議員は、子育てにはお金がたくさんかかるのでその人たちへの補助という意味も含めこの年齢制限を外すべきと考えており、その上でなぜ「16歳以上」と限定されるのかという質問をされています。
これに対しての回答はまず「福祉的意味合い」ではなく、「中小企業を中心とした区内商工業の支援」であるということ。その上で、年齢制限を外さない理由として「一定程度理解をした上で御購入をいただき、御利用いただきたい」とあります。これは16歳未満であれば「区の施策の意図や狙い」を理解できない、だから購入対象として不適格であると言っていると理解するのが自然かと思います。ツッコミどころは多々ありますが、まずは次に進みます。
もう1つの質問は青木議員。主張の内容は同じで、年齢制限をなくして対象を全員に広げるべきというもの。
これに対する回答もほぼ同じ。やはり「福祉的な施策」ではなく「商工業の活性化」であるという主張が繰り返されています。また、16歳未満を対象としない点についても目的を「御理解いただいた上で御購入いただきたい」となっており、これはつまるところ16歳未満では「区の施策の意図や狙い」を理解できない、だから購入対象として不適格であるという考え方で、先述の9/14の委員会での見解と同じです。
やり取りの整理
この2つのやり取りにおいて明らかになったのはまずこの政策の目的。中央区におけるプレミアム付き商品券という政策の目的は「中小企業を中心とした区内商工業の支援」。ついでに言うと、明確に否定しているのはこれは福祉的な意味合いではないということ。
もう1つは、この政策の対象は「購入者は区の施策や狙いを理解するべきである」とされていること。16歳未満はまだ義務教育期間でもあり、自分で稼いでいるわけでもないことからその施策そのものやその狙いを理解できない、であるがゆえに16歳未満は制限されるべきであるという主張が繰り返し行われており、このスタンスは明確であるようです。
中央区におけるこの政策の目的が分かったところで、次にその妥当性について整理していきます。なお、この前提としては「目的」の部分、すなわちこの政策は区内商工業の支援のためのものであるという点は固定して考えていきます。この政策において福祉的側面をそもそも含めるべきという意見はわたしも同意しますが、既存の政策の良し悪しを考えるにあたっては、そこにまったく異なる「目的」を持ってきてしまうと議論が並行線になり、当初の目的に対しての「手段」の妥当性について焦点が当たりにくくなると思われるためです。
区内の商工業の支援に、年齢制限は妥当か?
それでは考えてみましょう、「区内商工業の支援」をしよう!と考えたときに「16歳未満」を排除するべきという理屈は何があるかどうか。このように考えてみると、正直言ってあまり思い当たる節がないというのが正直なところ。なぜならば、この商品券は利用場所、利用店舗、利用用途の3つで縛りが与えられていて、使う人のリテラシーに委ねられる要素は少ないためです。この3つの観点からそれぞれもう少し書いてみます。
利用場所(区内でしか使えない)
まず、利用場所。たとえば現金を配るということであれば、使う場所を指定することができませんので中央区から給付されたお金を中央区以外の店で使うということも可能です。これであればせっかく配ったお金が「区内商工業の支援」に役に立たないということはありえます。たとえば「区の施策や狙い」を理解できない若年層は中央区から配られたお金を新宿で使ってしまうことだってあるかもしれません。
しかし、今回はあくまで区内でのみ使用可能な商品券という形での配布であって、使える場所はあくまで中央区の中だけです。したがって、どんなに使う人が無知で「区の施策や狙い」を理解できない人であっても、この商品券を中央区以外で使うということは仕組み上不可能です。
利用店舗(利用できる店舗は登録制である)
2つ目は、この商品券は中央区の全ての店で使えるわけではないということ。商品券の利用対象となるためには区による審査のプロセスがあり、この審査を経なければ商品券が使えるようにはなりません*2。
このプロセスがあるということは、区内に存在している店舗であっても「区内の商工業の支援」という目的に合致しない場合には商品券を利用できないように制御することができるということです。反対に言えば、この商品券が使える場所はイコール「区内の商工業の支援」であると考えるのが自然です。
利用用途(用途に制約が設けられている)
最後に、利用できる用途についても制約が設けられています。利用できる店舗であったとしても、以下に該当する場合には使用できないことになってます*3。
プリペイドカードなどが挙げられているようにこれらは換金性の高いものであることから、これらを手に入れた後に現金化して別の用途ということも可能になってしまい「区内の商工業の支援」に役に立たない、だから排除されているということでしょう。
このように、目的にそぐわない使い方が存在する場合、例外規定を設けてその用途には商品券を使えないようにすることが可能です。一方、その上でこれらの制限に該当しないということであれば、それは「区内の商工業の支援」に役立つと扱って良さそうです。
まとめ
これまで、3つの観点から商品券の位置づけについて見てきました。これらから分かることは、商品券を使う主体が誰であろうとも「区内の商工業の支援」に寄与することになるのではないかということです。要するに、年齢や性別、続柄等によって「どういった人が望ましい」「どういった人は望ましくない」というようなややこしいことは考えなくても良いはずです。
利用場所の面では、あくまで区内の商品券ですので区外では使えません。また、利用店舗も全ての区内の店舗で使えるわけではなく、登録制となっていることから目的にそぐわない店は対象外にすることが可能です。さらに、利用用途も一部制限があって、利用店舗の中であってもプリペイドカードのように「区内の商工業の支援」に役立たないようなものは買えないようになっています。
もちろん、現状のルールが完璧であるわけではないので、法律の抜け穴のような形で実際には「区内の商工業の支援」にそぐわないような使い方のできる店舗や利用用途はあるのかもしれません。しかし、もしそのようなものがあったとしても、それは商品券の利用店舗の登録制度の見直しや利用用途の制限という形で対処されるべき問題であって、利用者のモラルやリテラシーに委ねられるべきものではありません。まして、「区の施策であったり、その狙いというものも一定程度理解をした上で御購入をいただき、御利用いただきたい」などということで、年齢だけの観点で切り取ってそのモラルやリテラシーのありなしを勝手に決めつけて、特定の世代(16歳未満)を制度の対象から外すべきものではありません。
このように、理屈としては到底理解できない理由で16歳未満がわざわざ排除されているというのが今の中央区です。実際のところでどのような政策的意図があるのかは存じ上げませんが、単純にこの現実を見る限り中央区という自治体はは16歳未満の子供たちを1人の人間として扱っていないと言わざるを得ません。これは非常に残念なことです。
他の自治体ではどうなってるか?
プレミアム付き商品券購入にあたっての16歳以上という年齢制限についての不合理さについてこれまで書いてきました。政策の妥当性を考えるときにもう1つの軸は、「他の自治体ではどうなっているか」という観点です。別の自治体でも同じような制約が設けられているのであれば、特に具体的な意図が区にあったということではなく、中央省庁や都道府県から降りてきた制度の雛形がそのようになっていたという可能性もなくはありません。
このプレミアム付き商品券という政策も多くの自治体で行われているものです。ということで、23区の状況について調べてみたのが以下の表です*4。
色々と見えてくるものはありますが、今回の話の流れから言えることをいくつか。
子どもを制限していない区がある
まず言えるのは、全ての区で中央区と同様に子どもを対象外にしているわけではないということです。購入対象者に年齢制限をかけていないのはプレミアム付き商品券を実施している16の区のうち8。16歳以上という制限をかけているのは6つ。「在学」「学校に進学している」という形でもう少し緩やかな制限をかけているのが2つ。
制限をしているかどうかという軸で考えると半々であって、年齢制限が他の自治体との並びで見たときに従うべきスタンダードである、いうことは少なくとも東京23区においては言えない状況です。
対象を指定していない区がある
次に、子ども以外の部分で特色が見られるのが在住でも在勤でもない人の扱い。多くの区では在勤者、つまり、その区に仕事として関わっている人を購入対象者として認めていますが、在住でも在勤でもない人の購入を認めている区も5つあります。当然、このような区の場合には子どもへの制限なども設けられていません。
このように対象を制限しないというのは、誰であろうとも商品券を使ってくれれば商工業の支援に繋がるという観点からすればまったくもっともなことです。
子育て世代を優遇する区がある
最後に、一部ですが子育て世代を優遇している区もありました。北区では購入対象者を「区内在住で中学生以下(平成18年4月2日以降生まれ)の方がいる世帯」としており、それ以外の世帯はむしろ買えないということになってます。荒川区は「一般券」とよりプレミアム率の高い「特別券」があって、「特別券」は「ひとり親世帯と3歳未満の子どもがいる世帯」 はを対象として配布するという形での優遇があります。
何度も書いてきたとおり中央区でのこの施策の目的は「区内の商工業の支援」でしたが、このような取り組みがあるということは、プレミアム付き商品券という施策の目的は商工業の支援だけにはとどまらないということ、そして、それに固執する必要は一切ないということでもあります。
今後のあるべき姿は?
まずは対象を広げること
さて、これまでプレミアム付き商品券の年齢制限についてのそもそもの不合理さ、そして他の自治体と比較しても制限をかける必然性がないことについて見てきました。それでは、今後のあるべき姿としてはどうするべきでしょうか。
まず、何度も申し上げているとおり「区内の商工業の支援」を目的に据えるとしても年齢制限はまったく必要な要素ではないので、「16歳以上」という要件は即座に撤廃するべきと考えます。これは何も子どもや子育て世帯を優遇しているというわけでは一切ありません。
在住・在勤以外の方にまで購入対象を広げるという点についてはどうでしょうか。こちらについては目的上は使ってくれれば誰でも良いとはいえ、基本的に予算の関係もあるので発行数には限りがあることから、区に関わりの深い在住・在勤の方を優先して、そこで余ったものがあればくらいのスタンスで良いのではないかと考えます。
目的の効果検証はできている?
中長期的な話としては、そもそもプレミアム付き商品券という政策が「区内の商工業の支援」にとって寄与しているか、そして費用対効果の面で他の選択肢よりも優れているのかという点もしっかり検証されるべきです。
そもそも寄与しているかという点については、商品券が実際にどこでどれだけ使われたのかという点は分析されているのか気になります。当然それぞれの店舗が事務局に対して受け取った商品券を提出し、その枚数に応じて事務局が振り込みということをやっているはずなので、どの店舗でどれだけ使われたのかということはデータとして存在しているはずです。このデータに基づいて、ちゃんと想定していた「区内の商工業の支援」に役立っているのかという点についての分析がなければ、本当に目的が果たされたのかどうかは分からないままです。
もちろん多額の税金をかけて行っている事業ですので効果があったかなかったかといえばもちろんあるのでしょうが、次の問題は効率性、つまり同額の予算規模の中の取りうる他の選択肢の中で、この政策が最善であったのかという点です。この政策の委託費については議会のやり取りの中でいくつか明らかになっていますが、だいたいプレミアム分と同額程度の委託費がかかっているようです。
2020年の追加分では8.1億円の発行額に対してのプレミアム分が1.35億円で事務委託費が1.25億円。2019年については18億円の発行額に対してのプレミアム分が3億円で事務委託費が2.8億円ということで、だいたいプレミアム分と同程度の事務委託費が毎度かかっているようです。
委託の範囲がどの程度なのか、一般的な相場がどの程度なのかが分からないのでこの数字を評価することはできないですが、決して小さな金額でないことは言えるでしょう。もちろん、申請受付の窓口を設けて印刷して郵送、さらにそれを各店舗から回収して換金して振り込みといった一連の作業を委託するわけなので諸々の作業に手間がかかるということは分かります。ただ、そうなのであれば一部の自治体でも行われているように紙ではなくデジタルにすれば一連の作業のコストは圧縮できそうです(併用になれば二重でコストかかるという面はありますが)。また、これらのコストを踏まえると並行して行われているPayPayなどのキャッシュレスキャンペーンに切り替えていく方が効率的(同じ予算で、より多く区民らに還元できる)であるかもしれません。
最後に
今回は、プレミアム付き商品券の年齢制限について書いてきました。重箱の隅をつつくような話ではありますがこの問題を取り上げた意図というのは、小さな問題であればあるほどに、その自治体のスタンスが透けて見えると感じるためです。ちゃんと子どもを1人と人間として扱うという考え方が浸透していれば、このような扱いを受けることはないでしょう。今回の記事で書いてきたとおり、そしてこれまでのわたしの書いてきた記事をご覧いただいた方であればお分かりであるとおり、なかなか中央区という自治体はそのようなスタンスがまだまだ弱く、改善の余地が多々あると感じてます。ひとつひとつ、小さな問題からではありますが、より子育てのしやすい自治体になるよう、声をあげ続けたいと考えております。
脚注
*1:中央区 ハッピー買物券 16歳以上が対象のワケ | 高橋まきこ 中央区議会議員
*2:中央区内共通買物・食事券(ハッピー買物券)取扱店を募集しています 中央区ホームページ
*3:区内共通買物・食事券(ハッピー買物券)を販売しています 中央区ホームページ
*4:プレミアム付き商品券の23区での状況 - Google ドライブ
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?