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「任意団体」に対する監査は十分か? - 補助金を支払う区は、公金の支出に足るだけの監査実施すべき

 今回は行政運営にまつわる不正防止の取り組みについての第3回で、任意団体への監査について。1回目、2回目はこちら。

 任意団体とは株式会社や公益財団法人、NPO法人といった組織と異なり法人格を持たない団体で、町会などの地域団体やサークル活動集団、同窓会などと同じような位置づけの組織。ゆるーい組織ということです。

 中央区では行政運営の一環として、この任意団体に対して補助金を交付しています。その額は例えば「中央区文化・国際交流振興協会」では約1.2億円!、「中央区スポーツ協会」では約4700万円!というけっこうな規模感。

 補助金の原資はもちろん税金であって、これだけの額の補助金を受け取る組織としてこの任意団体という組織形態のままで良いのか、いやいやあかんやろという点について書いていきます。


どういう問題?

 冒頭に、任意団体という組織形態はゆるーい組織であることを述べました。「任意団体」とは特に法人格を持たない団体のことです。これに対するのが法人格を持っている団体で、株式会社や公益財団法人、NPO法人などがこれにあたります。

 要するに任意団体とはこれらの法人格のいずれも持たない、言ってしまえば「ただの人の集まり」であるということ。町会などの地域団体やサークル活動集団、同窓会と同じ。以下の表が分かりやすいです。

ちまたの会計Webサイトより

何が問題?

問題1.会計報告などの義務がない

 まず、法人格がないということは運営に対する定めがゆるゆるであるということ。だって、サークル活動などと同列ですから。

 以下は法人形態による様々な観点での比較。着目すべきは一番下の「監督所轄庁」の欄で、公益社団/財団法人やNPO法人であれば監督官庁への報告義務があります。

FUNDREX Webサイトより

 一般社団法人や一般財団法人の場合には同様の報告義務はないにせよ、貸借対照表や損益計算書、事業報告書を作成して総会において報告を行う必要があります。

 実態としては団体内の組織として「監事」という役職などが設定されていることから何かしらの会計処理と報告は行っているのでしょうが、問題はそれが何かにしっかりと定められたものではないということ。そうすると、その時々の担当者個人や組織によってその運用が歪められてしまう危険性があります。

問題2.業務運営上で問題がある

 次に、業務運営上においても法人格を持たないということには問題が生じます。任意団体としての活動である場合には、一般に銀行口座の名義や各種契約の主体は理事長個人とならざるを得ません。法人格がないですから。

 また、別の業者などから何かを購入したり業務を委託したりといった契約行為を行う場合にも任意団体ではその主体となることができないとされています。その結果、契約を行う場合には理事長や事務局長、経理担当者などの個人がその主体にならざるを得ません。そうすると、トラブル時に責任が降りかかるのはその契約の個人名となるといった経営上のリスクもあります。

問題のまとめ

 繰り返しになりますが、「任意団体」という組織形態が想定しているのはあくまでPTAとかサークルのような小規模な団体。冒頭に書いたような補助金の規模感での事業を行う団体として適当であるとは思われません

 会計での依るべき基準がなければいい加減な報告になるおそれがありますし、事業運営としても個人でしか契約が行えないというのは様々な不都合があります。これらを踏まえると、いずれかの法人として登記を行うことが適正な運営のためには必要なことと考えます。

 もちろん、これらの団体について一切の監査のようなことが行われていないわけではありません。これらの団体に対しては他の法人格を持つ団体とともに「財政援助団体」として監査委員による定例監査の対象となってます。しかし、これは他の法人格のある団体と同列の監査であり、これで運営が適正に行われているのかどうかを判断することは困難です。

どうすれば良い?

 それでは、この問題を解消するためにはどうすれば良いのでしょうか。

方向1:法人格を取得する

 他の団体と同列に何らかの法人格を取得するというのが1つの方法です。

 その一例として、中央区観光協会があります。観光協会は、「観光事業の振興を図ることにより、中央区の魅力を高め、地域の活性化と誇りと愛着をもてる街づくりに寄与すること」を目的とした団体。

一般社団法人中央区観光協会のご案内

 この法人は現在では「一般社団法人」となっていますが、元々は「任意団体」。過去の議会の議事録を眺めてみますと、以下のようなやり取りがありました。

平成22年 決算特別委員会(第2日 9月30日)

 墨田区では任意団体だった観光協会が法人化したことを踏まえて、中央区の現状と観光協会が任意団体であることのメリット・デメリット」について問うています。これに対して、区としては法人化の効果について回答しています。

 この後のやり取りで特に法人化を求めているわけではなく、このやり取りがきっかけになったのかも不明ですが、その後の2016年に法人化しております。

 この答弁で区が言っているように任意団体の場合に「代表する会長にその団体としての行為の責任が及ぶ」というのはこれまで挙げてきたリスクそのもの。とすれば、「組織全体で事業を実施あるいはさまざまな行為についての責任主体となり得る」法人化が望ましいというのは観光協会に限ったものではなく、今回挙げた「中央区スポーツ協会」などでもやらない理屈はないでしょう。

方向2:より徹底した監査を行う

 もう1つは、法人化はしないとしても、より徹底した監査を行うということです。

 この点について、他の自治体においても似たような問題意識とこれに対する対応事例はあるのだろうと探してみたところ、一部の自治体で任意団体に特化した監査を行っている事例が見つかりました。

 例として挙げるのは久留米市。こちらは、監査報告書の抜粋。 

監査公表(令和2年公表第10号) - 久留米市監査委員

 任意団体において会計事務などが適切に行われているかどうかを監査するという取組を行っています。この他、京都市などでも任意団体内の規程整備や会計事務処理の状況、行政財産の使用許可等、任意団体に特化した監査を行っている例が見つかりました。

 この背景にあるのは、これらの団体の運営費の大半は補助金でもあり、公金に準じた適正かつ厳正な取扱いが求められるということ。任意団体は自治体の一部ではないことから補助金などの取り扱いには団体独自の判断に委ねられていますが、何らかの不祥事があれば市としての信用失墜に繋がることからより徹底してチェックすべきという視点からこのようなテーマが選ばれたようです。

 中央区の任意団体においても状況はほぼ同様で、運営費の大半は区からの補助金ですし、職員がしっかり運営に関わってもいることから、より適正な運営が行われているかどうかは厳しくチェックされるべきものです。

今回のやり取り

質問したこと

 これまで書いてきたとおり、この任意団体という組織形態には疑問があります。ただし、これは今現在として何かしら不正なことをやってんじゃねーの、という疑いをかけているということではありません。

 現状としてはもちろん適正に業務を執行しているのでしょうが、個々の運用が今後も適正に行われるとは限りません。そういったことが将来的にも起こらないための環境整備や実態をより精緻に確認していくことは将来的な不正の芽を摘むことに寄与するもので、それはその場にいる職員の方々を守ることにもつながります。

 こういった観点から、今回質問したのは2点。

問1.任意団体に特化した規程整備等の監査の実績

 1つは、任意団体に特化した監査の実施有無。久留米市などと同様の規程整備などについての監査を行っているのかどうか。見られる範囲の過去の監査実績を眺めた上で見つからなかったのでないとは思ってるのですが、念のための確認とやってないことをはっきり議事録に残すため。

問2.任意団体に対して補助金を交付することへの見解

 もう1つは、中央区として任意団体という組織形態の団体に対して多額の補助金を交付して良いのかというスタンスの確認。

 補助金を交付するのは中央区であって、その交付対象となる組織が公金からなる補助金を適正に執行できるかどうかを判断するのも中央区。そして、その上でこれらの任意団体に多額の補助金を交付しているということは、中央区が「これらの団体は適正に運営されている」と判断していることと同義です。

 その一方で、これまで挙げてきたように任意団体という組織形態には様々に問題があります。これらの問題点がある中で、本当に中央区は任意団体に補助金を交付して良いと考えているのかという点について改めて確認をしておこうというわけです。

 この背景としてあるのは、3月の予算特別委員会にて中央区文化・国際交流振興協会が任意団体であることの経緯について伺った際のやり取り。

 なぜ任意団体なのかという問いに対して、区側の見解として「法人化するメリット等が見出すことができない」との趣旨の答弁がありました。この法人化によるメリット云々というのはあくまで協会側の目線です。補助金を交付する立場である中央区としてのスタンスはこの場では確認できなかったことから、今回その見解を求めたということです。  

質問に対する答弁

 上記の問いに対する答弁は、以下のとおり。

問1.任意団体に特化した規程整備等の監査の実績
→ 本区においては、久留米市や京都市のように任意団体に特化した監査が行われた実績はございません。
問2.任意団体に対して補助金を交付することへの見解
→ 区では、独立した執行機関である監査委員が定める基準に基づき監査が行われており、区の事務全般を対象とした定例監査の中で、各種補助金の執行等に関する監査を受けております。
 加えて、文化国際交流振興協会など任意団体を含む財政援助団体等を対象とした監査も定期的に実施されており、その際には、当該団体から提出された予算書、決算書、事業報告書などに基づき適正に監査が行われ、行われているものと認識しております。
 また、補助金の交付は、公益上の必要性を認めて行われるものであり、交付先が法人か任意団体かは、基本的に問題とはならないものと考えております。

答弁への考察

 まず、想定どおり任意団体に特化した監査の実績はなし。それはまだ良いとして、現状の監査で十分という見解は今回取り上げた「執行の部分だけでなく規程整備など組織運営にかかわる部分もチェックすべき」という問いへの何の回答にもなっておらず残念な限り。

 また、補助金の交付の是非についても法人の種別は「基本的に問題とはならない」との答弁。これは、現状においてすでに交付している以上このように回答するしかないとはいえ「信頼に足るようより一層努力」くらいは言ってほしかったところ。

 どちらにしても疑問は残るばかりではありますが、とりあえずは問題提起することが今回の目的ではあるので今後も定期的に取り上げていきます。数年後にはしれっと法人化していることを期待しています。

最後に

 これまで全3回で、行政運営にまつわる不正防止の取組について書いてきました。これらは6月の一般質問で取り扱った内容に諸々の説明を追加して記事化したものです。

 それぞれに一応、中央区の見解は得られましたがいずれにせよ基本的には前向きでない対応です。最後に一応まとめておきます。

調達情報のさらなる周知
 → 現状で十分競争性があるのでやらない
入札監視委員会の範囲拡大
 → 委員会の委員に確認してみる
任意団体に特化した監査の実施
 → 現状で適正に監査されているのでやらない

 今回はどちらかというと問題提起ということで、いきなり今回の提案を受け入れてくれるだろうとは思っていません。議会のやり取りというのは何度も継続的に取り上げてこそ実現に近づくというシロモノでして、懲りずに今後も引き続き提案していきます。


 これはやや徒労感のある仕事ではありますが、今回取り上げた不正防止の対策という類いのものについてはとりあえず指摘しておくというのも重要なことと考えておりますので、この点について最後に少し触れておきます。

 問題提起しておくことがなぜ大事かというと、「議会などから一切の指摘もなしに何らかの不正行為が起こった場合」と「指摘があったにもかかわらず対応されてなくて不正行為が起こった場合」では、区民の皆さんや関係者の受け止めも異なってくるであろうためです。

 たとえば今回取り上げた任意団体について、補助金の私的流用やら横領やらが発覚したとします。

 この場合、今回のように議会からの問題提起があったにもかかわらず何の対応もせずにそんな事態を招いたということになれば、「知らなかった」「必要性を感じなかった」とは言えないはずで、担当部署の管理職なり区長なりの「認識はしていたが対応しなかった」という責任は免れないはずです(少なくとも、わたしは追求します)。

 この違いは結構重要です。補助金が不適切に利用されているような場合には住民訴訟の対象になり、訴訟の中で自治体側に非があるということになれば首長(町長や区長)などが多額の賠償責任に問われ、実際に支払わされるというケースもあったりします。

 たまたま検索で出てきたので例として挙げると、奈良県安堵町の一件。

 安堵町では産業廃棄物の収集・運搬を事業者に委託して、その対価として補助金を交付していましたが、活動の実態がなかったことが発覚して住民訴訟で町長が賠償責任を問われました。

 結果としてこの補助金の支出は違法とされ、町長個人に賠償請求が命じられ、実際に町長がその額(約230万円!)を支払っています。こういうことが起こり得るのです。


 このあたりは行政の方々も十分ご存知ではあろうかと思いますし、好き好んで賠償責任を負いたい人は基本的にいないでしょうから、(議会の言うことを積極的に聞こうという気持ちがないにしても)リスク回避のための自主的な改善が多少は期待できるのかなと考えております。

 もちろん、何かしらの不正行為が起こるのは最悪の場合であってこういった状況を待ち望んでいるわけではありません。こういった問題が発生する前に対応がなされることが望ましく、そのために今後も動いていくということは変わりません。



 なお、今回取り上げる任意団体のうちで中央区文化・国際交流振興協会については別記事で単体として取り扱っていますので気になったらこちらもご覧ください。

 今回の記事についての感想や、その他ご意見などあればぜひお聞かせください。

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