見出し画像

【毎週ショートショートnote】ひと夏の人間離れ

お題:ひと夏の人間離れ
文字数:410文字

暑い、眠れない。
夏なんて飛び越えてすぐ秋になれば良いのに。
明日は大事な彼女とのデート。告白するつもりなのだ。
しかし眠れない。
エアコンが壊れたことを管理会社に伝えたのは半月前。
「申し訳ありません、混み合っておりまして…」
何度電話しても返答はいつも同じ。
暑すぎる、暑すぎるのだ。早く秋になってくれ。
「心頭滅却すれば火もまた涼し」
突然そんな言葉が脳裏に浮かんだ。
私は気持ちが落ち着くように、ゆっくりと意識して深く呼吸をしてみた。
次第に胸の鼓動がゆっくりになっていく。
心なしか涼しく感じる。
いいぞ、この調子だ。眠れそうだ。
さらに呼吸を深く、ゆっくりと心がける。
トクン、トクン…。

気がつくと秋になっていた。
冬眠、いや、夏眠していたのか?
状況が飲み込めなかったが、私は慌てて彼女に電話をかけた。
着信拒否。怒っているのだろう。
会社に電話をすると、無断欠勤で解雇されていた。
ひと夏の人間離れしたこの出来事は、あまりにも代償が大きかった。


たらはかにさんの毎週ショートショートnoteに参加させていただきました。
今回はお題が難しくて浮かばないかなーと思ったんですが、「心頭滅却〜」で急に思い浮かびました。脳の中で何が起こったのか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?