彼女が愛したすべての君へ
はちみつチューチュー吸いながら、キングダムをぶっ続けで読んでいる僕の彼女が、
「あたしも毎晩、辛ラーメン食べようかな」
なんていつか言い出すんじゃないかって、僕は彼女の血糖値が気になってハラハラとしていた。
ヘイジージェーンを飲みながら彼女は言った。
「堀元さんっておもしろい」
えっ、ゆる言語?
あんなに夢中だったドングリから、ついに心を乗り換えたみたいだ。
「ゆる言語好きだったっけ?」
「ゆる言語は好き。ゆとたわはだぁーい好き」
そうだったのか、いつのまに。
インテリ悪口もスタバでの女子の会話も、彼女にとってはときに必要な存在だろうし、彼女の心がドングリから離れてくれたみたいで僕はほっとした。期待を込めて彼女にきいてみた。
「ドングリはもう好きじゃない?」
「好きじゃないよ、愛してる」
そうか。僕はまたドングリに負けたのか。
この世界に完璧な絶望なんて存在しないんじゃなかったのか。
ビール片手に歴史漫画と「三体」を同時に読み進める彼女をぼんやりと眺めながら、僕は世界の秩序について思いを巡らせてみた。
批判や嫉妬や、憎悪や怒りや、フェイクや欲望で溢れかえったこの広い世界に、嬉しそうに肛門の話をしたがる中年男性がドングリ以外にいったいどのくらいいるのかなんて僕が知るはずもなかったし、知りたいとも思わなかったんだけど、正直に言うと僕は本当はそんな男になれるものならなりたいってずっとずっと憧れていたんだ。
だからどうか神様、
きょう一日だけじゃなくってこれから先も、
僕の愛する彼女の愛する人が幸せでありますように。
42歳おめでとう。
僕の耳に聞き慣れた低い声が響いた。
クリスマスはもうすぐそこだ。
このnote(パロディ)は【ドングリFMリスナーの Advent Calendar 2022】12日目の記事として創られた。11日目の昨日はAi Morimotoさんでした。13日目の明日は竹プロさんです。