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生命の鼓動

1時間以上早くついた病院。
だだっ広い駐車場には数台の車がいるだけ

「まだ時間あるで、少し歩いてくるわ・・」
「一緒にいこか、海沿いに風車があるでみにいくか」

親父と僕は寒い風が吹く中、広い大学病院の駐車場からキャンバスを通り抜けて、奥の方に見えていた風車の方に歩き出した。

「お母さんは近くの百貨店に来るのが好きでな、よく連れてくるんやわ」
「おれはやることがないから海岸の方まで歩いてきてハーモニカの練習をたまにしとるんさ」

そんなことを言っている親父の方は見ずに早歩きで前を歩いている。

ハーモニカ──
昔、おじいちゃんがよく家でふいていたのをふと思い出した。上下二段の大きなハーモニカで、伴奏とメロディーを一緒に奏でる、その音色はすごく懐かしい昔の音のように聞こえたな、そんなシーンがふと頭に浮かんできて今の親父と重なって見えた。


しばらく歩いて来ると、ちょっとした広場のような場所に1基だけそびえ立つ風車が見えてきた。大学の文字が刻まれている。おそらく今どきの再生可能エネルギーの実験用なのだろう。

大きな3つの羽が音を立ててビュンビュンまわっている。
まじかで見ていると、なぜ、こんな大きくて重い羽が回っているのかが理解できず、不思議な感覚になった。
飛行機が空を飛ぶのと同じように、科学的な計算式では当然のことも、実際に目の当たりにすると全く理解できなかったりする。

そんな風車と同じ風を受けながら、かじかんだ手で寒さを感じながら、
広い大学のキャンパスをぐるりと一回りした。


全身で感じる寒さから、生命の鼓動を感じながら。



15時過ぎ──────


看護師さんが手術室に迎えにいくと、声をかけに来た。

僕の体は硬直して、言葉にならない思いを堪えながら
こぶしを握りしめ、うつむいちゃいけないと思いながらも
下を向いて少しため息をはいてしまっている

エレベーターの前までいって
またもどって、

こみあげる熱いものは、心と体がつながっている証拠
長いスローモーションのような時間が流れている




看護師さんが母を運んできた。


おもわず声をかけて──
うっすらと開いたまぶたから
かすかに僕のことを見てくれているような視線を感じた。


生命の鼓動──────

熱いものがこみあげる
それは家族みんな同じ
ひとつ、前に進むことができた


ありがとう、よくがんばった。



本当に大切なことはなんなのか。

表面的な価値観ばかりみていないか
その場の欲望に翻弄されていないか
ひとに振り回されていないか
勇気がなくて小さくなっていないか
なにかと億劫になっているだけじゃないのか

一歩踏み出すのは、いましかない──────



生きることに感謝して
新しい朝を迎えられることに感謝して
なにげない会話ができることに感謝して
思いやりの気持ちでいっぱいの穏やかな時間を過ごそう。


生命の鼓動を胸に感じている。




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