見出し画像

小説「ムメイの花」 #24合言葉の花

バニラは「あの言葉」を知らなければ、
僕のことを一生、花1本の”零点”ジェントルマン
とまで言った。

「もしかして……
 あの言葉って、今も花から聞こえている?
 これが花の言葉かあ」

花の魔法にかけられ
微笑みのブラボーは優しい口調。

バニラは口角をあげ、
器用に眉毛を上下に動かす。

僕には全くわからない。
周りを見るとチャーリーも
険しい顔をしている。

デルタはまっすぐ前を見ていた。
多分、同じ気持ちだ。

「あの言葉とは?」

「仕方ないわね。ありがとうよ」

「花にありがとう?変なの!」

チャーリーは素直だ。
思ったことをそのまま伝えた。

でも僕も同じように思っていたこと。
むやみにありがとうを使ったら中身がない、
それこそ零点のありがとうじゃないか。

「チャーリーの言うとおりだ。
 ありがとうって何かをしてもらったとき
 言う言葉だよね」

「もう!ありがとう知らずで
 ジェントルマンをよく名乗れるわね!」

僕が自ら名乗った覚えはない。

「お花やお外に言うありがとうは、
 結局自分に感謝することでもあるの!

 ありがとう!と思うと同時に、
 アタシ自身がモノの素晴らしさを見つけ、
 その発見を放っておかなかったってこと。 

 そんなことをしているアタシって
 偉い!凄い!最高!ラブリー!って
 言えるでしょ?

 アタシに対して、
 こころにお花が咲くようなことをしてくれて、
 ありがとうなの!おわかり?!」

全力で語り終え、肩で息をするも
爽快な顔をしている。
デルタは満足げなバニラの顔を写真に収めた。

「レディバニラ、最高の画」

「あはっ!アタシ今ので
 超最高なこと閃いちゃった!

 アナタたちの合言葉は
『ぱんぱんありがとう』にしましょ!」


「ぱんぱんありがとう」とは、
 2回拍手をし、ありがとうと言うことらしい。

僕たちの間で「ぱんぱんありがとう」が
"ありがとうの習慣付け"を意味する言葉となった。

何でも最高!というバニラの語りは
誇張されているようで実感が沸かない。

そして、どうしても
見返りを求めてしまう僕。

ありがとうが僕の探している
花の答えと関係するんだろうか?


僕は静かに右手の花を見ていた。
「お花とにらめっこの前に、
 いろんなお花やムメイ人に
 『ぱんぱんありがとう』を贈りなさい」

「ありがとう贈り?」

CHAPLINここに来たアナタたちも
 一緒にやったら最高にハッピーね!」

近くにいらっしゃい、と
バニラは僕たちに手招きをした。

バニラは香りの鍋に入れるためにちぎった
花びらを机の上に置き始める。
1枚1枚、丁寧に。

「それぞれの花びらはアナタたち。
 みんなが集まって
 ひとつのお花ができているの。
 今からアナタたちを
 フェアリーズと命名しましょう!」

「フェアリーズって、
 ムメイの街から初めて地球に飛んだ、
 ロケットの名前と同じだ。

 フェアリーズがあったから
 今のムメイはロケットの街として発展した……
 ありが……」

首のところまで出かけたのに、
最後まであの言葉を言えない僕。

一方、ブラボーは目を輝かせて言った。

「さすが、アルファは賢いね!
 学びをありがとう」

バニラの教えもあり、
急にありがとうのリレーが始まった。

「ブラボーは影響されやすいけど、
 いつも一緒にいてくれてありがとう!」

「チャーリーは自分の想いを
 はっきり言えてすごぉい。
 私にはないもの、ありがとぉ」

「リトルレディ、常にフォローありがとう」

「バニラ、隠さずに
 本音を伝えてくれてありがとう」

僕も流れを止める訳にもいかず……
いや、これは本心だ。

建前ではなくぶつかってくれたから
集中して聞けた部分が確かにあった。

「もうお花さん、最高!
 ではアナタたちでもう一度。
 フェアリーズの合言葉、あの言葉は……」


僕たちはそれぞれバニラに
挨拶をし、CHAPLINを後にした。

どんなに遠くなっても姿が見える限り、
バニラは僕たちに向かって手を振り続ける。

「お花の答えを見つけたら、
 アタシが教えたってみんなに言うのよ〜!」


明日から始まる、ありがとう贈りーー。

西の森から家に向かって歩いている途中、
右手の花にこころの中で
「ぱんぱんありがとう」をしてみた。

なんだか、こんな僕でも
明日がちょっとだけ楽しみにな気がする。

それにしても、なんて
今朝は濃くて長かったんだ。

←前の話 #23零点の花  次の話 #25自由の花→

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?