もう二度と戻らない場所があるとすれば
引っ越しほど、人を感傷的にさせるライフイベントはないと思う。
これまであったものを自分の手でひとつずつ片付けて、空っぽにして、もう二度と戻らないであろうその場所にさよならをする。
ただそれだけの作業なのに、やけに名残惜しくて、寂しくなる。
ここに初めて来たときは空っぽだったのに、もう一度空っぽにしてみると妙に物足りない感じがして。
「そこにあるべきものがない」という違和感を、無理やり拭い去ってその部屋を出る。
私は引っ越すたびに、ちょっと涙を流す。
* * *
「ここ、1年未満で退去しても大丈夫ですか?」
アパートのオーナーさんに尋ねてみると、「大丈夫ですよ」と返ってきたので安心する。いつもそうだ。私はその部屋に長く住むつもりがない。
一人で生活するための家は欲しいのだけれど、そこを自分の“ホーム”にしたいわけじゃない。あくまで“ホーム”は、実家のある場所だ。
だから私は、いつどんなことがあってもすぐに住んでいる場所を離れられるよう、退路を作っている。「いつでも退去できる」という条件が、安心につながっている。
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