変わらぬ立ち位置と、期待する心ー「美しい彼」Season2 EP3について
"辛い"を"幸せ"にする、一本線を掴むためには、
毒でも刃物でも、私たちは抱き締めるしかない。
色んな感情が渦巻く予感がしていた『美しい彼』シーズン2第3話。予想以上だった、振れ幅が許容範囲を超えきたので感情が滅茶苦茶だ。つらい、でも目が離せない。
物語を面白くするためには、場面転換が必要なものだ。それに人生、なだらかな道ばかりじゃない。どちらかというと、平良(萩原利久)と清居(八木勇征)は獣道を突き進むことの方が多かったが」。
さて前置きはこのくらいにして、何とか第3話を語っていきます。もちろんネタバレ注意なので、どうぞご了承ください。
前回の記事はこちら。
温情に報いる
平良にとって写真は現実逃避の手段。見られると、とても恥ずかしい。それでも愛しの王が臣下に温情をくださるのなら、やらぬわけにはいかない。
私はこの辺りの、シーズン1をオマージュした演出が好きである。手の甲への口づけ、写真ではない本物の清居へのお布団トントン……シーズン1をリアルタイムで見ていた方は、お布団トントンが現実のものになるなんて、考えていただろうか。
こういうところが酒井監督演出の、良い意味で恐ろしいところである。
清居の後押しにより、ヤングフォントグラフィカへの応募を決めた平良。どの写真で応募するか、まだ迷っているようだ。清居の写真を使えないのが勿体ないという小山(高山洸)、あのポートレートだけは他とは空気が違うと言及する。
驚きだ、小山が恋敵が映った写真を評価するなんて。そういえば、平良の撮った清居の写真を、二人以外に見たことがあるのは小山だけだ。
そこまで直球なコメントをするとは。第三者から見てもあの写真には、平良の清居をずっと見つめていたいという熱が感じられるということだ。平良の撮る清居は、平良にしか……いわゆる"好きな男"の前でしか見せない表情をしていたのだろう。この時の小山の心中を推察すると、とても切ない。
モラトリアムの秋が終わる
二人の世界だなんて、おこがましい。
それなのに、平良は相変わらずネガティブ思考だ。清居が勇気を振り絞って言った「俺は石ころと付き合ってない」という言葉も、平良にとってはモラトリアム(猶予期間)を与えらているに過ぎないということか。
不穏な言葉だ。安奈の芝居から感じたことを清居はただ言っただけなのだが、平良を見て言うもんだから胸が締め付けられる。嫌な予感しかしない。
金木犀は、いつのまにか散っていた。
清居は確実にスターへの階段を昇っている。あんなにも大事な時間を過ごした自転車は、キイキイと音を立て哀愁を漂わせている。やりきれない。
ちょっと気になったこと。あの大量の目指し時計は、平良が無意識に止めるたびに増えていったのかな。そしてカメジロウ、君は朝のカットイン担当なんだね。いつか二人に愛でられるカメジロウも見たいものだ。
エターナル
満を持して清居会が登場。本当は1話から居たけど、今までとは圧……おっと存在感が違う。清居の幸せを願い、エターナル!と高らかに声をあげる清居会。あのお方の統率力は抜群だ。ちょっと、いやかなり笑った。
このシーンで興味深かったのは、平良はジンジャーエールを持っているが、清居会の面々はホットココアを持っていることだ。おそらくシーズン1で清居が出ていたCMのココアだ。大人の都合でジンジャーエールが好きだということを、清居の事務所は公表していないのかもしれない。
そうすると、あの場で清居はジンジャーエールが好きだと知っているのは不審くんだけ。良い、誰も気づいていない無自覚のマウントだ。実に良い。
審判の冬
写真部の部室にて、後輩の沢崎(遠藤健慎)がコンテストの一次審査を通過したことが明かされる。
浮かない顔の平良、結果を確認すると自分は落選していた。何となくこうなることはわかっていたと心の中でつぶやきながらも、平良の周りの空気は重く息苦しい。自分へのうぬぼれを突き付けられたようで、納得のいっていない小山の呼びかけに応じることができない。
つらい、見ている私もつらい。ここでシーズン1の眩しかった思い出のハイライトがあるもんだから、ジェットコースターのように感情を揺さぶられてバラバラに千切れてしまう。
苦しそうな表情でエターナルと叫び続ける平良と、軋む自転車がまたつらい。こっちが一生エターナルと叫でいたい。
豪華な食事と王の風格
夜になり、清居が平良家に帰宅する。筑前煮、コブサラダ、山盛りのエビコロ。不自然なほど豪華な食事だ。
「結果、出たんだろ?」
この時の清居の顔面偏差値が良すぎるのと、平良の憂いを帯びた横顔が男前なだと思ったのは、ここだけの秘密である。料理で話しで話題を変えようとしても、清居の目はごまかせない。
「駄目だったのか」
落選したことが、ついに清居にばれてしまう。
「バイトも始めるし……だからあの」
「いいじゃん、また次がんばれば」
……Σ_('ω'_ )_ファッ!?
あの……清居さん、今なんておっしゃいました?
ーーいいじゃん、また次がんばれば
…(๑꒪ །།꒪)・:∴
いいじゃん
また 次がんばれば
そうだ、忘れていた。清居は誰よりも努力家だということを。圧倒的な王の風格に、思わず挙動がおかしくなってしまった。怖くなる前に次に行けと言う清居。
数ある賞の中で、写真界の芥川"木村伊兵衛写真賞"を推薦する無謀な提案をしておきながら、「賞が全てじゃない」と時折優しさを見せる。
ただ、清居が王であり続けているということについて、私には思うところがある。清居は"強い"ではなく、"強くならざる負えなかった"ということだ。そう、平良に出会うまでは。
清居は幼少期から"選ばれない"ということを、嫌というほど経験してきた人間だ。原作では良い成績を取ったことを褒めてほしくても、泣きじゃくる赤ん坊には勝てなった。
ドラマの清居に同じバックグラウンドがあるのかはわからないが、この時から清居は自分をさらけ出すことをやめた。変わりにアイドルのように注目されたいと願うようになった。
そんな風に自分に押し殺して生きてたら、いつか心が折れてしまうに決まっている。それでも、清居は今でも前を向いていられるのは何故か。それはいつだって、平良が自分に取って一番は清居だけだと言ってくれるからだ。周りが態度を変えても、平良だけは清居を手放さない。だから、清居は"強くなれる"のだ。
まるで平良の方が神様みたいだ。
アルバイト先の工場では、モンブランが金色の川のように光り輝いていた。平良が置いた栗の一粒一粒が、二人の明日になる。私もそう信じていた、この時までは……月には暗雲が立ち込めていた。
菜穂ちゃんが家に来る
ドライヤーで髪の毛を乾かした後のやり取りが、二人だけの世界過ぎて細かく語っていきたいところなのだが……話しがブレるので泣く泣く割愛する。
菜穂ちゃんはかつて、平良の祖父と家に住んでいた彼の従姉妹である。ちょっと近くに来たので、様子を見に来たのだそうだ。いきなりの身内訪問、あわてるなという方が無理がある。慌てる平良と清居のやり取りも尊すぎて語り尽くしたいのだが、これも割愛。
菜穂は清居の素晴らしさを熱狂的に語る平良を見て、友達というよりファンみたいねと述べた。「ファンでお友達なんだ」と言われ、友達だということ言葉に平良は少し躊躇を見せる。それを清居は不安な様子で見つめている。彼も同じように、智也から平良の友達なのかと聞かれていた。
あの時、清居はなんて答えたのか。明かされる日は来るのだろうか。
何も知らないから、自分の罪にも気づけない
好きな男に「本当は友達と言うのが嫌だった」と言われて、期待しない人間がどこにいるだろうか。あの時、清居は本当に嬉しかったに違いない。
でも、やっぱり平良だった。そんなのは恐れ多いと、恋人と言えないことが辛かったわけではなかったのだ。それでも清居は耐えた、平良はこういうやつだとわからないといけないと、今まで自分に言い聞かせてきたからだ。
「大丈夫だよ、清居。清居と俺の親は、何も関係ないから」
「清居と俺の親が関わることなんて、一生ないから」
……ああ、だめだった。ついに感情を爆発させてしまった清居に、胸が張り裂けそうだ。平良への怒りだけじゃない、清居は少しでも淡い期待を持ってしまった自分にも腹を立てているのか。
「おれは清居を……わかりたくない」
。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。。゚(゚´Д`゚)゚。バカ!!
平良は変わっていなかった。平良にとって清居を理解しようとすることは、自分と同じ底辺に引きずり落とすという行為だった。だから自分と清居は交わってはいけないと。
「おまえは……片思いは好きなんだろ?」
それは清居の気持ちはお構いなし、一緒にいようが片思い――そんなの残酷過ぎる。原作だとちょっとした痴話喧嘩みたいな空気感なのだが、ドラマは違う。
平良の引きずり出されてしまった本音、清居のすすり泣く声。二人の悔しさと恥ずかしさと、どうしようもなさで感情がぐちゃぐちゃだ。
「……ごめんな。おまえのこと、好きになって」
。・゚(゚⊃ω⊂゚)゚・。。・゚(゚⊃ω⊂゚)゚・。。・゚(゚⊃ω⊂゚)゚・。ムリィ…
もうここで、私の防波堤は決壊してしまった。ボロ泣きである。もう後半のシーンをみたくない。それでも、今回の出来事は平良と清居にとって必要なことだから、私は受け止めなければいけない。何度も涙をこぼしながら、ここに言葉をしたためている。
何も知らないから、自分の罪にも気づけない。
平良と清居は知らないといけない。
お互いを、そして自分自身を。
あの頃と同じじゃない
一緒になるなら、2番目に好きな人の方がうまくいく。結婚の法則として、よく引き合いに出される言葉だ。
平良と清居はお互いが初恋で、説明できないけど……一番好きな人。だからお互い好きのベクトルが異なり、すれ違うのに依存しあっている。このまま二人の距離は変わらない。そうかもしれない、でも同じではない。
一方的に慕っていたいだけなら、平良はなぜ車の免許を取ろうとするのか。それは事務所が車で迎えにくると聞いて、自転車のままではいられないと感じたからではないのか?
あの頃は一枚の写真だけで良かったのに、大量の写真を並べても満たされないのはなぜか。その答えは、すでに第1話で提示されている。
平良は一方的の偏愛を貫きながら、心の奥底では自分だけの清居を手放したくないのだ。だからあの時、清居を引き留めた。
私はそう信じたい。平良は同じだけど、変わろうとしていると。私は願っている。清居が平良の真実にたどり着くことを。
私はこの先もずっと、期待する心を捨てずに『美しい彼』という作品を愛していきたい。
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