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地球温暖化は技術の発展だけでは解決しない〈前半〉

今年の1月に学校の課題で書いた文章です。
以前書いた地球温暖化の現状についての記事↓を土台に、時間軸を若干未来に移して地球温暖化について論じました。文章としても議論としても未熟で恥ずかしさもありつつ、でもそれなりに面白いものが書けたとも思います。

自分としては、1年後やその先、ここからどう自分の主張が変わっていくのか、記録としてここに残しておこうと思いました。

読みやすいように前半と後半に分けて投稿します。引用文献等は後半にまとめて記載してあります。前半は地球温暖化の現状と、経済・価値観・科学技術の点で解決に必要だと思うことについてです。

それではここから本文スタートです。

1.はじめに

昨年、地球温暖化は世界中で再び熱い話題となった。それは、2019年の米誌TIMEの「今年の人」にグレタ・トゥンベリさんが選ばれたことからもわかる。環境のためのストライキやCOP25での演説など、彼女の運動によって世界の環境問題に対する姿勢が大きく変わった。

地球温暖化の解決のために大切なことは何だろうか。今、私は次のように考える。限られた資源の中で豊かに生活できる社会へ移行すること。そのために量の充実ではなく質の向上を評価する価値観が広がること。そして、技術を発展させ、上手く利用すること。

地球温暖化と上記の主張について、以下のような構成で論じる。まず、地球温暖化の現状について述べる。次に、経済のあり方、技術発展などのポイントに触れつつ、前述の主張を詳しく説明する。その後、取るべきとされる政策と地球温暖化の解決に必要とされる技術の発展について簡単に触れる。最後に理系の技術者、研究者がどう地球温暖化に向き合っていくべきかについて考える。

2.地球温暖化の現状

昨年の台風15号、19号の上陸や、東京でも37~38℃に達する猛暑など、異常気象が目立った。世界規模で見れば、現在オーストラリアが過去最悪の山火事に見舞われており、地球温暖化が山火事を大規模なものにした原因と考えられている。地球温暖化や異常気象が、頭の中では理解しているがピンとこない事実、テレビや教科書の中だけでしか目にしない事実から、ここ数年で実感を伴った事実へと変化した。これは私の感覚だが、それなりに多くの人が同様に感じていると思う。


そもそも地球温暖化とは、人為的に排出される温室効果ガス(Greenhouse Gases、GHG)によって大気中のGHG濃度が高くなり、地球表面付近の温度が上昇することだ。人為的に引き起こされている気候変動にはどんなものがあるか、IPCC 第5次評価報告書[1] からいくつか抜粋した。

① 世界平均気温は 0.85 ℃ (1880 ~ 2012) 上昇した。
② 北半球中緯度の陸域平均では、降水量が 1901 年以降増加している。
③ 海洋は人為起源の CO2 の約 30 %を吸収し、海洋酸性化を引き起こしている。海水の pH は工業化以降 0.1 低下している。
④ 過去 20 年にわたり、グリーンランドと南極の氷床は減少しており、氷河はほぼ世界中で縮小し続けている。北極域の海氷も減少し続けている。
⑤ 熱波、大雨、干ばつ、強い熱帯低気圧、極端に高い潮位などの極端現象に変化が表れている。

地球温暖化を文字通り捉えると、地表の温度上昇だが、一般的に話題になるときには以上のような気候変動を全てひっくるめていることが多いように思う。そして、これらの気候変動が生態系の破壊や、水不足、食糧不足、自然災害の増加、健康への影響などを引き起こすのだ。


そして、あまり知られていないかもしれないが、実は地球温暖化をいつまでに解決するべきか、というのには科学的に答えがある。どういうことかというと、それまでは緩やかだった気候変動が加速し、人間の力ではもとに戻すことができなくなるポイントがあるのだ。これはティッピングポイントと呼ばれている。ティッピングポイントをもたらす要因の一つは永久凍土の溶解だ。温暖化が進んで永久凍土が解けると、貯蔵されていたメタンが放出される。メタンはCO₂の約28倍の温室効果を持っているため、温暖化が加速する。そして温暖化が加速したことで、さらに永久凍土の溶解が速くなる。この悪循環は温室効果の正のフィードバックが起きた最悪のシナリオといわれている。

ティッピングポイントを迎える前に地球温暖化を止めるべく、「地球の平均気温上昇を産業革命前と比較して、2℃より十分低く保つと共に、1.5℃に抑えるよう努力する」と決めたのがパリ協定だ。IPCCの1.5特別報告書[2] によると、気温上昇を2℃で抑えるには、産業革命以降のCO₂累積排出量が約3兆トンになるまでに地球全体でCO₂のゼロエミッションを達成する必要がある。そして、今後排出できるCO2量は約0.35兆トンしか残されていない。

これがどれほど切迫した状況か想像できるだろうか。一世紀半もかけて築いてきた現在の化石燃料に依存した社会を、たった数十年で脱却しなければ、地球温暖化は歯止めが効かなくなってしまう。今の暮らしを考えなしに継続してはいけない、ということを強く主張したい。

3.解決のために大切なこと

3-1.定常経済

冒頭で、地球温暖化の解決には、限られた資源の中で豊かに生活できる社会へ移行すること、そのために量の充実ではなく質の向上を評価する価値観が広がること、そして技術を発展させて上手く利用することが大切だという考えを述べた。

限られた資源の中で生活できる社会とは、定常経済を前提とした社会だ。定常経済とは、環境のノーベル賞とも言われるブループラネット賞を2014年に受賞したハーマン・デイリー氏が主張している経済のあり方である。彼によると定常経済とは「一定の人口と一定の人工物のストックを、可能な限り低いレベルでのスループットで維持するもの」だ。[3] スループットというのは、人間がエネルギーや物質を消費する流れのことを指す。人間は低エントロピー(エントロピーとは乱雑さの度合いのことを指す)のものから高エントロピーの廃棄物を出すことで必要なエネルギーを手にし、物質を消費している。つまり、定常経済というのは、少ない資源で人口や人工物を一定に維持し、廃棄物は少なく済ます経済ということだ。

経済が定常であるべきだと考えるのは、「宇宙船地球号」と比喩されるように、基本的には地球は有限な閉鎖系だからだ。地球には毎日一定量降り注ぐ太陽光エネルギーを除けば、外部からはエネルギーは入ってこない。その上、人間はすでに太陽からのエネルギー量では足りずに、今まで地球に蓄えられていた化石資源を使用している。

今のスループットの大きさのまま定常経済に向かうと、いつか破綻してしまう。エコロジカル・フットプリントという指標がある。この指標は、人間が消費する資源を生産するため、そして経済活動から発生する二酸化炭素を吸収するために必要な生態系サービスの総量を表している。WWFジャパンによると2017年の時点で、世界の人の生活を支えるには地球1.7個分、世界中の人が日本人と同じ生活をした場合に必要な地球は2.9個分とされている。[4] そのため、定常経済に向かうには一度経済規模を縮小する必要がある。縮小・定常経済下では物質的には今よりも質素な生活をせざるを得ないだろう。日本は人口減少しているため、経済を縮小させ、定常経済へ向かう大きなチャンスだと思う。

3-2.豊かさについて ―量から質へ―

さて、このような定常経済を基盤とした社会で豊かな暮らしを送るには、量の充実ではなく質の向上を評価する価値観が必須だ。

現代の豊かさは量に紐づいている。大量生産によってあらゆるものが安価に手に入るようになった。壊れたり古くなったりしたときは、費用が安く済むため、修理をするよりも買い替えて新品のものを手に入れる。また、商品の不足を恐れて市場には必要以上のものが出回り、売れ残ったものが消費すらされずに大量に廃棄される。この問題が顕在化した例として食品ロスなどがある。このような大量生産・大量消費・大量廃棄によって叶えられた豊かさに、私たちはしがみついていないだろうか。

大量消費に依存せずに豊かな暮らしをするには、豊かさとは何か問い直すことが必要だ。豊かであるというというのは、不足せず満ち足りている状態を指す。今までは物が充足した状態ばかり追い求めていた。物の充足もある程度は必要であるが、心・精神の充足はより本質的な豊かさだと思う。したがって、豊かな暮らしは物の量の充実だけではなく、物の質の向上でも図れるのではないか。そして、非物質的な営みに目を向け、意識下に置くことでも、豊かな暮らしにつながるのではないか。


ここで、物の質と、非物質的な営みについて、さらに掘り下げて考える。

物の質の向上のためには、生産者が製品を生産するときの前提を変えることが、一つ大切なことだと思う。使い捨てる前提で作るのと、手直しや修理をする前提で作るのとでは、そもそもの耐用年数が変わってくるだろうし、適したデザインなども異なるだろう。

また、今、大量生産から多品種少量生産をする社会に変化している傾向がある。より個々人の細かいニーズに沿って生産するということだ。これは物の質の向上ともとれる。とはいえ、生産量が必要量より大きかったり、地球が支えられる経済活動の量を越してしまったりしたら依然として問題である。必要とされる量に合わせて生産量を調整可能な、中規模程度の生産を支える仕組みを整えることが鍵となりそうだ。


非物質的な営みについては、例えば、音楽、美術、詩(文学)、舞踊などの芸術やスポーツ、ゲームを想像してほしい。これらを楽しむことは文化的な面で生活の質の向上につながる。しかし、芸術はお金を払うに値しないとみなされがちだ。数年前、違法にアップロードされた漫画を読める漫画村が大きな問題となっていた。社会として漫画にお金を払うべきという感覚が他の物品に比べて薄いことが、漫画村が成り立っていた根本の原因だろう。漫画村で読んでいた人の中でも、万引きは絶対しないような人が大半だと思う。こういう漫画における紙やインクなど物自体の価値ではなく、絵やお話といった付加された価値に対して、お金を当たり前に払える社会へ変わることが大切だ。

学問を発展させていくことも「非物質的な営み」として、また間接的には「物の質」の面で生活の豊かさに貢献するだろう。スクールの語源は、ギリシャ語で暇という意味のスコレーだという。裕福な貴族が暇を利用して教養を身につけたことが理由だ。今後AI技術によって人間の職業が奪われていくと言われている。必要とされる労働力が減ったとき、職が奪われたというよりむしろ学問をする時間ができたと捉えることができるように、富が資本家に偏ることなく、労働者に行き渡る仕組みの世の中になるといいと思う。

また、物のストーリー性を評価することも「非物質的な営み」であり、暮らしが豊かになるだろう。例えば、手作りでも工場で生産したものでも構わない。誰がどういう思いで手間暇かけて作ったか、あるいは工場を開くに至り、経営しているのかというストーリーを知っているかいないかでも、ものの価値は変わる。人と人の心のつながりはストーリーの重要な要素だ。エコマークやフェアトレードラベルなどもだいぶ淡白ではあるが、ストーリーを伝える手段の一つだ。今はインターネットを利用して、もっとリアルにストーリーを共有することが可能だから、これからの時代、さらに展開していけるのではないかと思う。


3-3.技術の発展

地球温暖化解決のためには、技術を発展させ、上手く利用することも不可欠だ。

直接的に影響があり、イメージしやすいのはエネルギーに関する技術だろう。少ない資源の中でエネルギーをやりくりするためには、エネルギー効率の改善が求められる。エネルギー消費の現状を見ると、何をすれば効果的にエネルギーを抑えられるのか推測できる。つまり必要とされている技術は何かを示唆してくれる。日本においてエネルギーはどうやって使われているのか。

表.最終エネルギー消費の部門内訳(エネルギー白書2019[5] をもとに作成)
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上の表を見ると、日本において最終的に消費される全エネルギーは約13×10^18 Jだ。また、運輸部門での消費が家庭部門より大きく、企業・事務所部門での消費が半分以上を占めていることがわかる。全体のもっともエネルギー消費量が大きい企業・事務所部門での消費のうち4分の3である約6×10^18 Jは産業分野だ。そして、その産業分野での消費の4分の3の約4.5×10^18 Jが、鉄鋼、化学、セメント、紙・パルプの4業種で占められている。[6]

エネルギーの形態としては、全消費エネルギーのうち電力として使用されるのは約3.5×10^18 Jで、残りはガスやガソリン、石油、石炭などの非電力消費が占める。[5] つまり、エネルギーが電力として使われるのは3割弱で、残りの約7割は電力以外のエネルギー形態で消費されている。


以上の現状を示すデータから考えられることを挙げてみよう。非電力消費が7割以上を占めるが、その中でも熱エネルギーは損失が大きいので、電気エネルギーに代替できるような技術開発を進めることは、資源の節約に効果的につながるだろう。そして、その発電方法を化石燃料に依存した発電から再生可能エネルギーへシフトしていくことで、さらに低資源化、CO₂排出量の削減につながる。

また、家庭部門と比べ、エネルギーの用途が単純で消費量も大きい運輸部門での自動車、飛行機、船舶などの燃費の向上、動力の転換といった技術の開発は、影響が大きく反映されやすいと思われる。産業分野の上述の4業種での技術革新も効果的だろう。例えば高温で処理する工程では、電気で高温加熱することは難しいため、石炭などを使用せざるを得ないのが現状だ。その工程において、そもそも高温でなくとも生産できるような方法が編み出されれば、その技術革新により膨大な資源が節約されると考えられる。

他には、一つのものを長く使うためにメンテナンスの類の技術や、経年劣化を遅くするための技術は今よりも洗練されていくだろう。そして、デザインや通信などの、質の向上に貢献する技術が広がりを見せると推測できる。一方で、大量生産と多品種少量生産について触れたように、経済規模を大きくするためにより多くの資源を取り出し、より多くのものを生産するような技術は必要とされなくなっていくのではないか。代わりに、必要な量を必要な時に生産する技術や、多様化する生産者と消費者を効率的につなぐ技術に変わっていくと思う。

続き

後半はこちらです。



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