マイクロメータの日々 5

 まだまだこれから。

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 ベトナムに来て、1週間がたった。空港で号泣をしてから1週間。
 まだ仕事が始まっていないため、ずっと家の近くを練り歩いている。毎日1、2時間歩き続けると町の風景がよく見えてくる。
 スマホのアクセリー屋やスマホの修理屋が、非常に多い。発展途上国だと思っていたベトナムにも、スマホという最新技術がしっかり浸透しているようだ。ただ、ぼろぼろの店構えの修理屋などを見ると、まず先に直すものがあるのではないかと考えてしまう。
 ほぼ毎日のようにフォーを食べているが、だんだんと飽きがきている。とてもあっさりしたスープなのだ、フォーは。
 ベトナムの宅配サービスで、少し遠くにあるロッテリアやマックからバーガーセットを届けてもらい、ときどき食べている。フォーの澄んだスープをにごらせるようなこってり濃い味に、心が満たされる。

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 日本にいたときから、僕の楽しみは食事だった。しかし、移動方法が徒歩にかぎられると、新しいお店もなかなか見つけられない。結果、店は異なりながらも食べるものはフォーにかたよってくる。
 入っている肉は、鳥が多い。しかし、ベトナムの鳥は少しくさみがあり、しかも僕の嫌いなぷるぷるの皮つきでなかなかにしんどい。牛肉のフォーもあるが、こっちはけっこうおいしい。
 卓上に調味料がおいてがあるが、ライムをしぼってとうがらしの輪切りを入れるとかなりうまい。
 でも、どこの店もスープの味つけはほとんど同じため、やはりずっと食べ続けると飽きるので、ハンバーガーが絶大な力を持つのである。

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 なんだか劇的なことがないなあと思っていたところ、今日、家の近くの屋台から帰っている道中、見知らぬベトナム人のおっさんに「金を貸してほしい」と言われた。無下に断ろうとしたが、一回ぐらい、お金をあげるつもりでだまされてやってもいいかと思い、わたしてあげる。
 明日、夜8時にある店の前で再開の約束をかわす。心のどこかで「それでもできれば返してほしいなあ」と望んでいたのだが、お金を受け取った彼が逃げるような小走りで去っていくうしろ姿をながめていると、「ああ、ダメかもしれない」とあきらめの気持ちになった。
 答えは、明日の夜8時に出る。

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 仕事ももうすぐ始まる。僕の新生活は、これからである。

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