オアシスにおぼれる
ホーチミンの街の景色はずいぶんと変わった。
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ホーチミンに旅行に行くと、大学時代の先輩後輩に会える。
今回もいつもどおり、深夜までお酒を飲みかわして、おのおのの家に帰り、次の日の朝をむかえる。少しだけ頭が痛い。
僕が大学を卒業してからもう7年がたつというのに、大学時代の縁が切れることなく続いている。日本という国を離れても。
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僕がかよった大学は私立ということで学費が高かった。4年間奨学金を満額借りていたため、社会人になった今は、毎月安くはない金額を返済にあてている。これが、40代まで。
この事実だけを見ると、絶望にあたいすると思う。しかし、そのときから続いているものを考慮すると、後悔はなくなる。
日本にいる大学時代の友達と話したことがある。「あの大学にかよえてよかった」と。
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小説家伊坂幸太郎の作品に「砂漠」という小説がある。ある男女のグループの大学生活をえがいた物語だ。
大学4年生のみなが就職活動にはげんでいるころ、敬愛している講師から僕は「砂漠」をお勧めされた。「この時期の課題本」とも言われた。
履歴書を書く時間すべてを読書の時間にあてて、砂漠を読了する。
物語の最後、ある卒業する大学生が主人公たちに伝える。
「本当はおまえたちみたいなのと……」
ネタバレ防止のためにすべては書かないが、このセリフを読んで、泣きそうになった。
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ホーチミンの留学時代によくかよったカフェで、シントーというベトナム式スムージーを飲みながら、この雑文をつづる。
あの4年間に意味はあったのだと、すなおに思えた。
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