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チョコレートパフェの光

 その先まで照っておくれ。

 ◆ ◆ ◆
 土曜日は出勤日だった。夕方前に、上司とふたりで歩いていたら、「チョコパフェが食べたい」とだしぬけに言われた。
 少し前に、チョコパフェを食べるためにスカイツリーへひとりで行ったのだと上司に言われた。40代なかばの濃い顔のおっさんにだって、好きなものを食べる権利はあるよなと思い「いいじゃないですか」と答えた。
 仕事中にチョコパフェを食べる権利は、はてさてサラリーマンにはあっただろうかと考えそうになったが、思索する前に僕の口は反射的に開いていた。
「いいじゃないですか」

 ◆ ◆ ◆
 チョコレートパフェを注文したあと、上司となにげない会話をしていた。話の流れは、だんだんと老後の資産形成の向きになってくる。
 僕がベトナムで働くと決断をしてから、将来の話をすることが増えてきた。上司は、将来設計をしっかり立てているらしく、そのつど、アドバイスというかおどしというか、まあ、根元はやさしさなのであろうおことばを僕に送ってくれていた。
 チョコパフェが2つ、テーブルに届いた。僕と上司の顔はたがいに大きいのだが、その顔も隠せそうな高さを持ったチョコパフェは、今だけはなによりもまぶしい光を放っていた。
 この先に続いているあやしいもやに満ちた僕の人生の道だって、このチョコパフェは灯台のように進むべき道を照らしてくれるような気だってしていた。

 ◆ ◆ ◆
 僕が退職したあと、この上司とは「年齢の離れた友達」になれるとかってに信じている。僕を心から心配してくれて、こうやって仕事中にいっしょに抜け出してくれる存在だ。この職場で上司と過ごした4年間の思い出だって、光を放っている。
 暗くて長い道のりは、灯台のともしびか、あるいは手近におけるカンテラがどうしても必要だ。どうだろう、今のうちに光をいっぱいたくわえておくのも、老後に向けた資産形成と呼べないだろうか。

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