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Horizon Zero Dawnレビュー 「ポストアポカリプスの優等生」

「Horizon Zero Dawn」を初めて認識したのは、世界初公開となった2015年のE3でのことだった。

この年のソニーのE3カンファレンスは神がかっていた。なんといっても誰もが驚いたファイナルファンタジーVIIのリメイクが発表され、さらにまさかのシェンムーIIIのクラウドファンディング、そして人喰いの大鷲トリコやNo Man's Skyの続報など、ここ数年でも最高の内容であった。なので、Horizon Zero Dawnというゲリラゲームズが長い時間をかけて大切に育ててきた新規IPが埋もれてしまったのはある意味不幸な必然でもあった。

最初に公開されたトレーラーを見た時に私が感じたのは、「ゾイドの世界でモンハンをするようなゲーム」というものだった。実際にシネマティックトレーラーだけでなく、後にサンダージョーと呼ばれることになる、55万ものポリゴンと膨大な数のアニメーションで作られたティラノサウルスを模した機械獣を、本作の主人公であるアーロイが多彩な武器とアクションを使い打ち倒すという、プレイアブル状態に見えるシークエンスを見る限り、そのファーストインプレッションは間違っていないと思えた。どう考えてもこのゲームは面白い。私の直感はそう伝えていた。だが、幾度かの続報を経て2017年3月2日に発売を迎えた時、私が選んだのはHorizon Zero Dawnではなく、翌日に発売されたNintendo Switchと「ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド」であった。これもある意味不幸な必然であると言えた。

その後、事あるごとに買おうかどうか迷うのであるが、他のゲームとの兼ね合いや私自身の体調が思わしくなかったこともあってなかなか購入までには至らず、ようやく昨年の11月付近からゲームをプレイできる程度に体力が回復したこともあり、「DEATH STRANDING」をクリアしたあと満を持して「Horizon Zero Dawn コンプリートエディション」(以下「ホライゾン」)を購入したのだ。

私が購入するまでの3年余りの間に、「ホライゾン」はその完成度の高さから新規IPながら確固たる地位を確立しており、全世界で1000万本を超える売上を記録していた。さらに全米脚本家組合が選ぶ最優秀脚本賞も受賞しており、2017年を代表するゲームの一つとして名を刻んでいた。ゲーム内容が面白そうなのは初報のトレーラーで感じていたし、どうやらストーリーも素晴らしいものらしい。いつか買うゲームの候補として常に上がっていたが最優先候補にならなかったのは今でも説明がつかないのだが、その潜伏期間中に私の期待は勝手に高まっていた。そう、私の中で「ホライゾン」は勝手に約束された神ゲーとなっていたのだ。

そしてついに今年購入に至ったわけだが、「ホライゾン」は私の中で勝手に上がりまくったハードルをきちんと超えてみせた素晴らしい作品だった。あらかじめいっておくと、ゲームの歴史を変えてしまうような革新的な作品ではない。なぜこのゲームが2017年のゲームオブザイヤー争いで「ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド」の後塵を拝したのかははっきりいってその点が欠けていたからに他ならない。だからといって「ホライゾン」の面白さがスポイルされるわけではない。単に相手が悪かっただけなのだ。

ゲームのレビューに移ろう。このゲームを始める前の私の印象は「モンハンのようなゲームだろう」ということは先に述べたとおりだが、この認識は半分当たっていて半分間違っている。全体のゲームのフィーリングはどちらかというと「ウィッチャー3」や「アサシンクリードシリーズ」に近いものだったのだ。

プレーヤーは文明が崩壊して1000年が経過した世界を舞台に、ノラ族と呼ばれる「聖地」(あくまでノラ族の認識上の聖地であるのだが)を守る少数部族で「異端者」として育てられた「アーロイ」という女性となって、自らの出生の秘密、ノラ族以外の現存する部族間の争いの解決、そして文明崩壊の原因を探るために世界を旅することになる。

私がこのゲームに一番期待していたのはそのストーリーだった。世に数あるポストアポカリプスものといかに違う物語を見せてくれるのかが楽しみだったのだ。だが、驚くべきことにこのゲームのストーリーにおいて特筆すべきところは実のところ何一つなかった。「ホライゾン」は、絵に描いたような古典的なポストアポカリプスものだったのだ。そう、高度なAIとロボットの力で繁栄していた人類は、ちょっとした手違いで暴走してしまったロボットとの絶望的な戦いに敗れたのだ。あまりに捻りのない筋書きに逆に驚いた。

このゲームにおけるロボット(以下機械獣)は自己増殖することが可能であり、生命をエネルギー源にすることが出来た。だから文明崩壊後の世界でも製造、修理され、地上を闊歩することが可能だった。戦いに敗れた人類は自分たちの文明を後世に残すためのプロジェクトを発足し、不完全ではあったが機能したため滅亡は免れた。だが文化の継承をすることは叶わず、文明はかなり後退していた。とはいえ、石を積み上げて巨大な城を作ることも出来れば、そこにエレベーターのようなものを設置することも出来ている。機械獣が街のすぐ側でも生息し、狩人などは機械獣を狩って部品を回収することもあるようで、その部品を使って弓や銃器めいたものも制作している。だが、よくある話だが機械を忌み嫌っており、産業革命よりも前のレベルで文明の進歩は固定されているようだ。なぜそうなのかという事に話の都合以上のものを感じることが出来なかったのも、逆の意味で意外だと感じたし、ポストアポカリプスである事自体に理由をつけるというのはやはり難しいのだなと思った。

それに加えて、これはクエスト消化型の海外ゲーム全体にいえることなのだが、どうしてもクエストマーカーに依存しがちなプレーになってしまう。本作はアサシンクリードのイーグルアイやバットマンシリーズのディテクティブモードのような、「フォーカス」と呼ばれる探知システムを備えており、それを使って事件の分析や痕跡を調査したりするのだが、内部処理の関係上フラグが設置されているエリアに入った時点で主人公のアーロイが「見つけた!」などといってしまうので、プレーしている自分が「え?どこ?」などと思ってしまうことが多かった。これが見過ごせない程の割合で発生するので、そういう意味では没入感が削がれてしまうのが少々残念だった。きちんとクエストマーカーエリア内で特定のオブジェクトをスキャンしないと進行しないイベントもあるので、どうせなら全てのクエストでイベント進行フラグはプレーヤーがインタラクションした時点で立ってほしかったというのが本音である。クエストマーカー依存のゲーム進行は、ともすれば「やらされている感」を強く感じてしまうのが常々問題視されているので、きっとあるであろう次回作では解決してほしい。


ストーリー進行周りはこのくらいにしてゲームメカニクスの面について書いていこう。

「ホライゾン」の世界には機械獣の他にも多様な野生動物が存在しており、その殆どを狩ることが出来る。そして、狩った機械獣と野生動物や植物はクラフトに使用することができ、様々なアイテムを作り出すことが出来る。それに加え、機械の部品の中でも「シャード」と呼ばれるものは通貨としての機能も持っており、しかも商人からアイテムを買うためにはシャードに加えて特定の素材も必要になるため、「狩る」重要性が増している。さらに、武器や防具は「コイル」と呼ばれるアイテムをスロットに入れることによって強化することが出来るのだが、このコイルはランダムドロップでレアリティが設定されている。なので、ちょっとしたハクスラ要素も持っている。ただ、アイテムポーチがすぐ満杯になりがちなのは気になるところで、いろいろなレビューでもこの点は指摘されており、DLCで適用された新たなスキルツリーではポーチの容量を拡張するスキルもあるものの、焼け石に水といったところである。そもそものアイテム管理がしにくい仕様なので、次回作では改善されることを願っている。せめてアイテムのソート機能や複数カテゴリの一斉売却の機能はつけてほしかった。

キャラクタービルドはオーソドックスなスキルツリースタイルで、プレーヤーは4種類(DLC適用済みのため)のツリーのスキルをポイントを利用して取得していく。日本のゲームにありがちな無駄なアンロックシステムはなく、取りたいスキルを簡単に取っていくことが出来るシステムだ。スキルポイントは主にレベルアップで獲得できるが、それ以外でも貰えるので60というレベルキャップが存在するにも関わらず、全てのスキルを習得することが可能な作りになっている。

このゲームにおいて最も楽しかったのは戦闘だ。主な敵である機械獣のアルゴリズムはとても良くできており、かといって頭が良すぎるわけでもないので、プレーヤー側が状況をコントロールできるようにデザインされている。元々デベロッパーのゲリラゲームズは敵のAIデザインに定評のあるスタジオだが、今作でもそれはいかんなく発揮されている。たとえば、機械獣によって視界や警戒度が違っており、発見時の状況も記憶しているので、機械獣が自分を認識した時に丸見えだったのか隠れる途中だったのかでその後の戦闘の状況も違ってくる。さらに、知能が高い機械獣になると、プレーヤーが設置した罠すら認識することがあり、あからさまなやりかたでは警戒されてしまうのだ。一度発見されてしまうと一斉に集中砲火が始まるので、雑魚敵といえども油断ならない状況はわりと終盤まで続く。このあたりのバランスは本当にとても良くできていて、ルアーコールとサイレントストライクが強すぎる傾向はあるものの、最後まで緊張感を持って戦闘をこなすことができた。

機械獣は様々なパーツから構成されており、一部のパーツは攻撃によって剥ぎ取ることが出来る。装甲の奥に弱点があったり、属性による相性などもあったりするので、フォーカスでスキャンすることでそういった情報を取得すると戦闘で有利に立つことが出来る。武器に中にも単純に攻撃力が高いだけのものもあれば、パーツを剥ぎ取ることに特化した「破砕」効果のある武器もあり、戦闘に幅が出てくる。これらは主にリングコマンド的なインターフェイスで管理するのだが、4つしか武器をセットすることができず、さらに装填する矢弾はさらに細かいスロットで管理することになるので、誤爆も起きやすい。十字キーは十字キーで回復アイテムや罠などの管理と使用に割り当てられているので、プレーヤーが自由にショートカットを設定できるキーアサインにはなっていない。矢弾の上限が少ないのはおそらく色々な戦い方をして欲しいという事なのだろうが、その為にいちいちタッチパッドを押してインベントリを開くということになりかねず、このあたりは戦闘の没入感を阻害するという点で残念な仕様だった。とはいえ、敵によって弱点属性がはっきりしていたり、世界各地にある「機械炉」という施設をオーバーライド(ハッキングのようなもの)をすれば機械獣を味方につけることも出来るようになるので、本当に戦闘の自由度は高い。80時間を超えるプレイ時間のかなりの割合が戦闘によるものだったのだが、全然飽きが来なかった。

戦闘以外に目を向けると、目につくのは世界の美しさ、壮大さだ。PS4のパワーを総動員したオープンワールドは本当に素晴らしい出来で、本作のゲームエンジンであるデシマエンジンを「DEATH  STRANDING」の小島秀夫監督が採用したのも納得である。一部ライティングに問題を抱えているきらいはあるが、それでも多数のオブジェクトを表示してもほとんど破綻をきたさないパワフルさには脱帽するほかない。元々PS4Proでプレイすることを前提に作られた本作ではあるが、ノーマルのPS4にもハイレベルな最適化が行われており、普通にプレイするぶんにはなんの問題もない。ファンがうるさくなるという話も聞いたのだが、私のPS4はファンが回りっぱなしという事態にはならなかった。


2017年は第8世代のゲーム機の時代に入って以来の大豊作の年でもあった。ゲームの歴史に燦然と輝くであろう「ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド」をはじめ、「スーパーマリオオデッセイ」「ペルソナ5」「ニーアオートマタ」「PUBG」「カップヘッド」など、AAAタイトルからインディーズまで素晴らしいタイトルが目白押しだった。なので、どうしても「ホライゾン」は一歩引くような形になってしまった。決して埋もれてしまったわけではないことはPS4専用タイトルでありながら1000万本を超えるセールスを記録した事実が物語っている。だが、獲得した賞の数が200に迫ろうかという「ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド」と同じ時期に発売されたというのは、やはりややタイミングが悪かったといって差し支えないと思う。「ホライゾン」も50を超える賞を獲得して堂々2017年のゲームオブザイヤー争いでは2位につけているのだが、今でも売上ランキングに残り続ける「ブレスオブザワイルド」はやはり化け物であったといえるだろう。

先日、「ホライゾン」がSteamにて配信されることがソニーから発表された。3年前のゲームではあるが、いまプレイしてもなんの問題もない美しさを備えた本作がPCという開かれた世界に解き放たれる事を歓迎したい。アーロイとともに世界を駆けるプレーヤーが一人でも多く増えることを望んでいる。

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