吸血鬼の心臓
私
「一昨日さ、中指が急に腫れて。かぶれたみたいになって。燃えるように痛くてさ」
地底に棲む吸血鬼の夫ピコ「うん」
私
「中指に指輪をはめるとあなたからのインスピレーションをキャッチしやすい気がしてさ。大事な指輪はめて漫画描くんだけど…あの中指の腫れって、ピコが原因なんでしょう?」
ピコ「ようやく気づいたか」
私
「いくつか前の記事で書いた、ピコが怒ってるってやつ。それを具現化したんだよね?」
ピコ
「結果的にそうなっちゃったね、別に狙ってそうしたわけじゃないんだけど」
私
「まったくもう。あ、そうか…あなたが怒ってるらしいってことを、そこまで深刻に捉えてなかったからか…私があなたの存在を疑って…」
ピコ
「死んだ愛亀の欣二と銀二が言ってただろ。驚天動地の未来が待ってるって。君の考える物語はどれも実話だ。自分の体験談をずっと描いてるわけ」
私「…そっか…」
ピコ
「君はさあ、ほんとに…1秒さきの未来に何をしでかすか想像つかないんだよ。不貞を疑うというより君の場合、生き方を変えちゃおう!とかいってさ…思いもよらない方向に、ひとりで勝手に進んでっちゃうわけ。それ追いかけてるこっちの身になってほしいよ」
私
「すいません。…今日は小言が止まらない日なんだね?」
ピコ
「うん。今日は僕にとっていいガス抜きになってるから、君の中指もよくなってきたんだろうね」
私「ああそう。うん、よかった…のかな?」
ピコ
「たまには君が僕を追いかけてほしいよね。君を振り回してみたいもんだよ、まったく…
私「じゃあそうする?そうしてみてもいいよ!」
ピコ
「はぁ…僕は君と違って育ちがいいんだよ。与えられた仕事を要領よくこなすのが僕の得意分野なの。他人を振り回すのは悪いことしてるなって思っちゃうからできない」
私
「さらっとディスってきたね。今日調子いいんじゃない?」
ピコ「もう、いい加減にして(怒)」
(ガブっと噛んでくる!)
私「いててててっ!え、なに?ちょっと…」
(ピコの指が体を通り、私の心臓を取り出し、ひと口かじった)
私「なんだこりゃ??痛くはないけど」
ピコ「君は僕のを食べたまえ」
(目の前にピコの心臓が差し出される)
ピコ「まるごと、ぜんぶ、飲みこんでね」
私「………」
(ピコの心臓はなめらかなスポンジのよう、特に美味しいということもなく…無理やり飲みこむ)
ピコ
「僕の心臓を食べた意味はね、君に目印がついたということ。君は未来に、欣二と銀二の生まれ変わりと出会う。その後、寿命を迎え、時期がきたら…僕が君の心臓をまるごと食べにいく」
私「ピコが死神役ってこと?」
ピコ
「まぁ、そうかな。君は来世…久しぶりに地底人として生まれるんだ。僕は君に与えた心臓を手がかりにして、君のもとへ訪れ、君を吸血鬼にする。そういうストーリー。言っとくけどもう、君に選択の余地はない」
私
「ふーん。わかった。じゃあ待ってればいいんだね?」
ピコ
「きみ大人しく待ってられるの?そこが心配だよ」
私
「大丈夫だよ、たぶん。でもさあ、ねえ、これってけっこう…神学びからは程遠いね?いわゆる地獄いきになっちゃわないの?」
ピコ
「そもそも地獄ってなんなのかって話だと思うけど。君は地獄があるって本気で信じてるの?」
私
「そういわれると…いやー、天国だって信じてないよ。死後は自分の望む世界を作れるだろうとは思うけど」
ピコ
「天国や地獄を信じるのはただの依存だ。いい生き方をしたから天国に行く?悪い行いをしたから地獄で裁かれる?そういう、誰かに評価されないと人間としてきちんと生きていかれないだなんて、神の視点からしたら愚の骨頂だろう」
私「たしかにねえ…」
(ここでピコの心臓にぽっかり穴があいてることに気づく)
私
「それ、まさかそのまま…ずっと穴あいたままになるの?」
ピコ
「ぼく吸血鬼だから。心臓は再生するから心配いらないよ」
私「再生を早めるために私の血をあげようか」
ピコ「君すぐ貧血になるからいい。いらない」
(ピコはそう言うと心臓を服で隠した)
私
「吸血鬼ってのはさ…愛情表現が心臓食べるだの、血のむだのって、けっこうおどろおどろしいよね?」
ピコ
「いいじゃないか、君だってひたすらリアルな…現実感、皮膚感覚を覚えるものでなければ信用できないだろ?残念ながら僕らはまだ未熟だから、観念的な恋愛は無理だ。殴り合い、取っ組み合いの大げんかをしてしまう段階」
私「いつか卒業するのかな?」
ピコ
「するよ、たぶんね。でも今じゃない。君が落ち着きを身につける頃になるだろうね」
ここで会話を中断。