中高年の光源氏は超絶モテなかった!おじさんはやっぱり嫌われるのか?!
光源氏、彼は源氏物語の主人公、容姿端麗で頭脳明晰の才色兼備、かつ、帝の息子で血筋は最高、しかもお金も持ってる権力もある、最高の男として描かれています。
当然、女にモテる、そりゃぁもう、モッテモテでやりたい放題なわけです。
が、しかし、源氏がモテたのは若いころだけって知ってましたか?
中高年になった源氏は、途端に、ぷっつりと、ぜーんぜんモテなくなるのです!
実際に源氏をフッたのは、次のお二方です。
・昔の女の娘で息子の嫁さんの秋好中宮
・昔の女の娘の玉蔓
源氏は中高年になってからどのようにモテなくなったのか、それはなぜなのか、を見ていきたいと思います。
◆源氏の中高年とは?
源氏のモテないぶりをあざ笑う前に、源氏の中高年とはいつからなのか、どうだったのかについて簡単に見ていきましょう。
源氏の中高年時代は、須磨流謫(すまるたく)から帰ってきてから、とされています。
源氏はいろいろあって時の権力者を怒らせ、怖くなった源氏は須磨という今の兵庫県の浜辺に逃げちゃいました。
須磨流謫のお話はこちらで詳しくお話していますので、よろしければご覧ください。
さて、須磨から帰ってきた源氏はいろいろあって勢いを盛り返し、再び権力者の座に返り咲きます。
身分としては「内大臣」で、めっちゃえらいです。
その後、「太政大臣」→「准太上天皇」という天皇の次に偉い人になります。ブイブイです。
源氏のあこがれの人でお父さんの後妻さんの「藤壺中宮」は、源氏との不義の子を産みました。
しかも、その子は世間的には帝の皇子なので、帝になります。
つまり、昔の女は偉くなり、その子供(実は自分の子)が最高権力者なので、源氏は影の支配者というわけなのです。
そして、源氏にはすでに奥さんがたくさんいます。
・紫の上:身分は低いが、最愛の妻。超美人でデキる。子はない。
・葵の上(故人):正妻。嫡男の「夕霧」を産んで亡くなる。
・花散里:ブスだが、よく気が付きお裁縫もうまい。身分が高く、夕霧の育ての母となる。
・明石の上:須磨流謫時代の女。身分は低いが、娘を産む。娘はいずれ帝に入内予定。
・末摘花:ドブス。頭も悪い。身分だけは高く、髪の毛だけは綺麗。
その他、ちょっとした付き合いの女や、身体だけの関係の女などは書ききれないくらいです。
この上、どんな女が欲しいって言うんだ?!と思いますよね。
でも、源氏の女漁りは続くのです!
◆昔の女の娘で息子の嫁さんの秋好中宮に嫌われる
源氏をフッた女、トップバッターは秋好中宮です。
彼女は、彼女は源氏の昔の女、六条の御息所の娘です。
源氏は若いころ六条の御息所という女と付き合っていました。
彼女は前の東宮(故人)の奥さんというたいそう身分の高い女性で、源氏は上流階級の女が好きなので、がんばってアタックして落とします。
ところが、六条の御息所は年上でとても思いつめやすい、いわゆる「重い女」だったので、源氏は「重いわ~」とだんだん嫌になってしまいました。
源氏には当時、正妻の葵の上がいましたがとても仲が悪く、二人はうまくいっていませんでした。
そこを狙って六条の御息所は源氏の正妻になりたいのですが、葵の上が懐妊したので源氏は葵の上につきっきりになってしまいます。
そして、有名な「車争い」という事件で、正妻・葵の上と影の女・六条の御息所の従者同士が争い、六条の御息所方は完敗します。
嫉妬に狂った六条の御息所は生霊となり、出産後の弱った葵の上を呪い殺してしまうのです。
そんな、とても楽しいエピソードがある六条の御息所ですが、亡くなった前の東宮との間に一人娘がいました。
それが、「秋好中宮」です。「あきこのむちゅうぐう」と読みます。
長々と説明してしまいましたが、中高年・源氏のターゲットになったのが、この女性です!
しかも彼女は、上で述べた源氏の実の息子である「今上帝」に輿入れしており、二人はとても仲の良いご夫婦です。
(ちなみに、中宮とは帝の正妻のことです。)
源氏は秋好中宮の養父となり、六条の御息所はほどなくして亡くなります。
つまり、源氏は、死んだ昔の女の娘であり、養女であり、息子の嫁に手を出そうとしていたのです!サイテー!!
実際に手を出すことはしなかったでしょう。そんなことをしたら、政治的な立場が危うくなります。
しかし、ねちねちネチネチと言い寄ることは、できたようです…。権力者の強権を発動して…。
「薄雲」という章で、秋好中宮が里下がりしたときに、源氏は養父という立場を利用してねちねちネチネチと言い寄ります。
「あなたのお母様は、私を恨んだまま亡くなったかもしれない…ツライ…」
「あなたが帝に輿入れするために、私がどれだけ苦労したか、あなたはわかってくださいますよね」
とかなんとか、ぐっちぐちねっちねちと恩着せがましく並べ立て、挙句の果てに…。
…おぼろけに 思ひ忍びたる御後見とは、思し知らせたまふらむや
あはれとだにのたまはせずは、いかにかひなくはべらむ
「あなたへの想いをおさえて、あなたを助けていることを、わかっていただけますか。
すこしは同情してくださいよ。」
…はぁ?何言ってんの?このおっさん。
と秋好中宮はそう思ったことでしょう。当然です。
その後も、源氏は長々とくっちゃべり、なかなか帰りません。うざいおっさんです。
そもそも、私のお母さんを苦しめたのは誰?!
それに、私には大好きな夫がいるのよ!しかも、帝よ?
あんたみたいな空気読めないおっさんなんかいらんわ!あほか!!
と秋好中宮は思ったことでしょう。当然です。
源氏は、なぜそこに言い寄ろうとした?あほなんか?としか思えませんね。
◆昔の女の娘の玉蔓に嫌われる
次は、昔の女の娘の玉鬘(たまかずら)ちゃんです。
源氏には一番の親友でありよきライバルの、頭中将というお友達がいました。
頭中将には夕顔という女がいましたが、源氏は頭中将の女と知らずに夕顔のところに通うようになり、もう夢中になってしまいました!
しかし…嫉妬に狂った六条の御息所さんの生霊によって、源氏に愛された夕顔はとり殺されてしまうのです…。
実は、夕顔には頭中将との間に小さい娘がいました。
頭中将の正妻が怖い女だったので逃げ回っていたのですが、お母さんの夕顔が突然いなくなり、とても苦労していました。
頭中将はこの娘を(帝に入内させる手駒として)探していましたが、見つかりません。
ひょんなことから、この娘、玉鬘を先に見つけたのは源氏の方でした。
しかも、九州の田舎に逃げていたにしては、とてもかわいい…。好みだ…。
源氏は、玉鬘を娘として引き取ることにしました。
源氏にしてみれば、身分の低い小娘など、いくらでも手籠めにできたことでしょう。
しかし、頭中将の娘なのであまりひどいこともできないし…、まぁ、いつか父と会わせてやろう、などとのんきに思っています。
源氏が若い娘を引き取ったという噂はまたたく間に広がり、俺と結婚させてください!いや!俺と!という若い男が群がってきました!
美しい娘だという噂もあったのですが、彼らの一番の狙いは財力も権力もある源氏の婿になることです。
群がってくる若者を玉鬘と一緒に眺め、うひひ…どれにする?玉鬘ちゃんはどれがいい?などとやるのは悪趣味以外の何物でもありませんよね。
求婚者たちの中には、頭中将の息子、つまり、玉鬘の実の兄たちもいました。
かわいそうなのは、玉鬘ちゃんです。
「本当のお父様にお会いしたい!あぁ…私を実の妹とも知らず言い寄ってくるお兄さまたち…。」
と泣いているのですから。
玉蔓の不幸は、まだまだ続きます。
源氏は若くて美しいぴっちぴちの玉蔓にますます恋焦がれるようになり、異様な執着を見せます。
自分のものにしたいっ!でも、できない…。あぁっ!どうしたらいいんだっ!
一方玉鬘は、「早くお父様に会わせて!」と思ってるので、当然、源氏の完全なる片思いです。
暑い夏に服を脱がせて添い寝したり(キモ)、髪をなでたり(キモキモ)、抱き寄せたり(キモぉ!)、そりゃぁもう、キモイおっさんですわ。
でも、玉鬘は弱い立場にあり、自分を養ってくれる源氏には逆らえないのです…。
かわいそうな玉鬘ちゃん…。
一番キモイのは、「野分」という章で源氏の嫡男の「夕霧」が、二人がごにょごにょしているところを垣間見てしまうシーンです。
夕霧少年は美しいと評判の姉(実は他人)の玉鬘を一目見たいと、周りをうろちょろします。
そして、ついに見てしまいます…。
あやしのわざや
親子と聞こえながら、かく懐離れず、もの近かべきほどかは
「なんということだ!
小さい子供でもあるまいに、たとえ親子でも懐に抱かれるようなことがあるか?!」
おっしゃるとおりです。父親と成長した娘が抱き合って寝るなどということは、ありえません。
そんな父親の姿を見た息子の夕霧少年は、キモっ!何あれ!キモイわっ!という気持ちでいっぱいだったでしょう。
夕霧少年は当時好きな女の子と会えず鬱々としていましたから、よけいイラついたでしょうねぇ。
さらにさらに、玉鬘ちゃんの不幸は続きます…。
なんやかんやで玉鬘は、源氏の実の息子で帝を退位して「院」となった、「冷泉院」に入内することに決まりました。
玉蔓は若くていい男で自分を大事にしてくれそうな冷泉院に好意を寄せていましたし、冷泉院もノリノリ、お父さんの頭中将も賛成です。
源氏はかわいい玉鬘ちゃんを手放すのは惜しいですが、ここは仕方がない、あきらめるしかありません。
(ちなみに、源氏は息子の冷泉院のところにやるだけなら、後で何とかして会えるんじゃないかと思っていたフシもあります。実にキモイですねぇ…。)
読者一同も、キモイおっさんの源氏に言い寄られ我慢していた玉鬘ちゃんが、やっと幸せになる!と拍手喝采です!
ところが…、玉鬘ちゃんをさらなる悲劇が襲います!
なんと!ずっと熱心に言い寄っていた「髭黒の大将」という、髭がぼーぼーのむっさいおっさんに夜這いされてしまうのです!
髭黒の大将は玉鬘の寝所に忍び込み、かわいそうに、彼女は処女を奪われてしまいました。
この時代、夜這いされたらそれでおしまいです。その男のものになるしかありません。
笑えるのは、髭黒の大将が「この娘は処女だった!源氏の殿にとっくに犯されていると思っていたのに!」と有頂天になるところです。
みんな、源氏が玉鬘のことを犯してるだろうと思ってたんですねぇ…。ウケる。
玉鬘ちゃんは、源氏物語の中でも一、二を争うかわいそうな女性だと思います。
でも、髭黒の大将に愛され大事にされ、後に何人も子どもをもうけているので、案外幸せだったのかもしれませんね。
◆嫁たちからは愛されていたのか?
このように、中高年の源氏は若い娘に言い寄ってはキモがられていました。
「でも、さすがに奥さんたちには愛されてたんでしょう?」と思いますよね?思いたくなりますよね?
では、以下の5人の奥様方の反応を見てみましょう!
・紫の上
・花散里
・末摘花
・明石の上
・女三の宮
・紫の上
彼女はずっと源氏を愛し続けています。
というか、幼いころに源氏にさらわれ犯されたので、源氏しか知らず、源氏に頼るしか生きる術がありません。
しかし、入れ代わり立ち代わり新しい女が現れ、とどめに女三の宮という若い正妻が源氏のもとに輿入れし、非常につらい思いをします。
そのため、最終的には紫の上の心は源氏から離れて出家に向かっていき、ついには心を病んで亡くなります…。
紫の上の苦悩について、詳しくはこちらにありますのでよければご覧ください。
・花散里
彼女はいわゆる、家事ができるだけの女、でした。
源氏から女としてはみなされず、あれやってこれやってと言われては、はいはいわかりましたよ、と従う古女房タイプ。
しかも、源氏の嫡男夕霧の育ての母となり、子どもは産みませんでしたが、妻としての地位は盤石。
ですから、源氏と男女の心のつながりなどは、まったくなかったでしょう。
形だけ、体面だけの夫婦、といったところでしょうか。
・末摘花
家柄だけは良い貧乏な宮家の娘です。
鼻が赤くて、超馬づら、胴長短足、服のセンスは最悪、和歌は読めず、空気も読めない、何の取り柄もない女として描かれています。
源氏は身分が高いというだけで夜這いしましたが、外れを引いた形です。
でも一応源氏の妻になり、源氏に養われて生活に困らなくなってよかったね、で終わっています。
・明石の上
源氏が須磨流謫中にひっかけた、身分は低いけれどお金持ちの家の女。
待望の女の子を産み、その娘は後に帝に嫁いで皇子を産み、その皇子は帝になります。
明石の上は、最終的に帝の祖母となり、すごい出世をします。
しかし、その分苦労もありました。
源氏に愛されたもののすぐに都に帰ってしまいますし、産んだ娘は取り上げられます。
明石の上の身分が低いので、紫の上の養女になったからです。
娘は奪われ、夫の源氏には他に妻が大勢おり、さぞつらい思いをしたことでしょう。
最終的には娘の側にいられるようになり、幸せをつかみました。
が、そんな苦労をもたらした源氏のことは、すでに用済み、娘のことで頭がいっぱいだったのではないでしょうか…。
・女三の宮
源氏の最後の正妻。
彼女は10代で50代の源氏に嫁ぎます。アリエナイですねー。
しかし、女三の宮に一目ぼれした「柏木」に夜這いをされ、不義の子を身ごもってしまいます。
源氏に暗に責められた柏木は苦しんで死に至り、女三の宮は出産してすぐに出家します。
誰も幸せにならなかった、結婚でした。
もちろん、女三の宮が源氏を愛することなど、ついぞなかったでしょう。
さて、ここまで源氏の奥様方の反応を見てきましたが、いかがでしたでしょうか?
何という明るく愛にあふれたご家庭なんでしょう!
怖いですねー怖いですねー。
でも案外、現代にもありそうな夫婦の形かも、と思ってしまいました…。
◆まとめ
ここまで見てきたとおり、中高年の源氏は若い女にはフラれ、奥さんたちには相手にされず、悲哀漂う中年男でしたね。
「またまたー、他にも女にモテたみたいなエピソードがあったんでしょー?」と思うかもしれませんが、マジで、ないんです。
中高年以降の源氏の色恋沙汰はここでご紹介した話くらいで、マジでないんですよ。ホントに。
いくつか、昔の女と再燃するとか、改めてフラれるみたいな話はありますが、ご新規さんはさっぱりです。
だいたい、自分が苦しめた昔の女の娘が、ワンチャンなびくと思ったか?
息子にちょうどいいくらいの若い娘に言い寄って、しなだれかかってくると思ったのか?
そのうえ、妻たちからは表面上は敬われてるけど、全員から捨てられてるじゃねぇか!
そう、思いませんでしたか?私は、思いました。
そして、一番哀しいのは、源氏物語の地の文章では常に一貫して源氏をほめたたえているということです。
「いつまでも若々しく美しく、そして、中年になって重々しさが加わり、ますますご立派になられて…」などと、馬鹿の一つ覚えみたいにずーっとほめまくりなのです。
それだけに、実際の恋愛の成果はさんざんなところが、悲哀を際立たせます…。
男は若いころにモテたからと言って、中高年になっても調子に乗ってふるまうと痛い目に合うのよ、という紫式部先生の声が聞こえてきそうですね。