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#93 ゼロベースで発想する


クリティカル・シンキング(批判的思考法)

私たちの生きるVUCAの時代は,これまでの常識や前提が通用せず,環境変化が激しく将来の予測が極めて困難な時代です。経験と知識さえあれば解決できたはずの「既知の問題」の割合が減少し,これまで直面したことがない「未知の問題」が加速度的に増加しています。「未知の問題」に対処するには,従来の方法や思考パターンに固執するのではなく,ゼロベースで発想することが求められます。ゼロベース思考とは,現状延長線上に解決策を求めるのではなく,前提自体を見直し,新たな価値や解決策を見出すアプローチのことです。

ロジカル・シンキングは問題に対して筋道を通し,主張と根拠を論理的に説明するのに対し,クリティカル・シンキング(批判的思考法)は与えられた状況や問いに対して本質を見極め,「本当にこれで良いのか」と前提を疑うゼロベースの思考法です。クリティカル・シンキングとは,「自分の頭で考え抜く」力であり,全回の(#92 VUCAの時代の思考法)でも示した「構想力」にも通じるところがあります。クリティカル・シンキングのメリットには,①事実に基づいた判断ができるようになる,②前提を疑うため矛盾を見つけやすくなる,③新たな視点や発想が生まれやすくなる,などがあります。

予測ではなく重大なリスクに対するシナリオを描く

P. ドラッカーは,「重要なことは未来において何が起こるかではない。いかなる未来を今日の思考と行動に織り込むか,どこまで先を見るか,それらのことをいかに今日の意思決定に反映させるかである」と言っています。すなわち,発生率が低くても経営に重大なインパクトを与えるリスクを把握して,それに対応できるように変化適応力を向上させておくことが大切だ,ということです。
リスクのないビジネスはないというのは当然だし,リスクとリターンのバランスを考慮して意思決定するのが経営者の仕事でもあります。しかしながらVUCAの時代と言われる先の見えない現代において,どのように経営判断をすればよいのか,そこで最近注目されているマネジメント手法がシナリオ・プランニングです。

読めなくても読むべきことをシナリオとして想定する

シナリオ・プランニングとはリスク・マネジメントの手法の一つで,発生の可能性のある事象から,確率の大きさではなく起こった場合の影響が大きいものをシナリオとして想定します。そして,それぞれのシナリオが組織の目標や目的に与える潜在的な影響について検討するものです。別の言い方をすれば,きちんと予測はできない=読めないけれども発生したら大変なことになりそうなもの=読むべきことをシナリオとして想定しておき準備をしておく,ということなのです。
このようにシナリオ・プランニングは,リスク・マネジメントにより不確実性に備えようとする組織にとって,貴重なツールとなり得ます。さまざまなシナリオを検討し,それをマネジメントするための戦略を立てることで,組織は変化し続けるビジネス環境において,より有利なポジションを維持することができます。

ダイナミック・ケイパビリティ

シナリオ・プランニングは,企業が環境の変化に適応し新しい機会を創造するための能力であるダイナミック・ケイパビリティの重要な要素です。ダイナミック・ケイパビリティとは,「環境変化を察知する感知力,新しい機会を見出しつかむ補足力,たえず自己変容する変革力を統合した一連の自己変革能力」である,とカリフォルニア大学バークレー校のD. ティース教授は定義しています。
すなわちダイナミック・ケイパビリティとは,外部環境の変化に合わせてその都度リソースの配分を変更する,自社の持つ様々なリソースを組み合わせて新しい対応の方法を産み出す,といった組織能力のことです。このような柔軟かつ創造的な変化対応力を常に活性化させておくことが,持続的な競争優位性の源泉となります。

ダイナミック・ケイパビリティには,経営者や従業員といった人的資源にフォーカスする考え方と,その集合体としての組織行動にフォーカスする考え方があります。いずれにせよシナリオ・プランニングは,人や組織の学習のサイクルを循環させてスキルやノウハウを蓄積させるという点で,ダイナミック・ケイパビリティの向上に役立のです。

※本noteは「リーダーシップ」誌(日本監督士協会)令和6年8月号の執筆記事「ゼロベース思考トレーニング」の一部を転載しています


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