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マイナス20円の幸せ

私はいま満たされている。
さっきまで、(お腹減った、寒い)しか考えられなかったすっからかんな頭は、すっかりぽわぽわーと幸せを感じている。

週明けに降った雪がまだ所々残る田舎道をとぼとぼと帰る。会社や人間関係のこと、いろんなことが頭をよぎるなか、私のお腹は(そんなことよりカロリーよこせ)と煩い。

電車も乗り逃してしまったし、かと言って店に入ると帰りが遅くなってしまう。だから最近はホームのベンチでホットスナックを食べることにしている。例に漏れず、駅前のコンビニに入ると中華まんが勢揃いしていた。

一直線にその前に向かうと、レジにさっとお兄さんが現れた。すかさず私も「肉まん1個ください」と声をかける。お兄さんと目が合う。綺麗にブリーチした青年だった。ささっとレジ打ちすると、私が支払いをしている間に肉まんを用意してくれた。
その間5秒足らず(体感)。


目の前から消えたお兄さんを目で追うでもなく、ぼんやりと表示された「➖20円」の文字を見ていた。ふと見やると、中華まん全品マイナス20円と掲示されていた。
(うわぁ、ツイてる!)と思っていると、さっとお兄さんがこちらに肉まんを両手で差し出していた。何か言っている。「…つけますか?」

今日一番長く人の顔を見たのではないか、と思うほどお兄さんを見てしまった。
お兄さんはこう言っていた。「テープ付けますか?」
よく見ればすぐ食べれる向きで私に差し出していたのだ。なんて素敵な図らいなのだろう。あぁ、こういう人が世に言うイケメンなのだろうなぁ、と思いながら、「いえ、ありがとうございます!」と封のされていない肉まんを受け取った。


封がされていなくても、肉まんは大変にあたたかく、ハフハフと食むほどに外気に白い湯気を広げた。程よく満たされたお腹と、洗練されたコンビニ店員さんの気遣いでほんのり温かくなった心を感じて今日という日を穏やかに仕舞おうと思う。